読者の皆様、長い間お待たせいたしました。

   2019年の年末に、私の公式サイトが突然プッツンしました。
  2019年の最後のエッセイとして、この年の総括を書くつもりで自分のサイトを開いてみると、『最近の10本』と表示している中身が、2015年のものになっており、2019年のものはどこにもなかったのです。
  あれれ?
   泡食った私は制作を依頼している会社の社長に電話を掛けました。彼は2015年のエッセイが出ていることもご存知なく、大そうなことという認識もお持ちではありませんでした。
  「最新の10本が2015年ではおかしいでしょ。早くお直しください!」
  この時点で私も社長もたいしたことではないと高をくくっていたのでした。
  それからがてんやわんや。
  「まだ直っていませんよ。おかしいでしょ、早く正常に戻してください!」と私。
  「原因がわからないんです。今色々やっていますが・・・」と社長。
  「お金を取って運営していらっしゃるプロなんでしょ。なんで早く直らないんですか」
  「ぜんぜん理由が不明でして・・・」
  「とにかく、2015年のものが『最新作』なんてみっともないので、すぐに消してください!」
  私は出先でスマホを握りしめ、大声で怒鳴ったのである。移動中の駅のコンコースであった。周りの人が振り返ったぐらいで、恥ずかしいったらない。
  結論から言えば、すべては原因不明だった。ワルにやられたのかも不明。社長が言うには、「すべてを消してください」と頼んだ私の願いで、公式サイトを閉じるための操作も上手くいかなかったらしい。大分経ってから、「すべてをやっと消せました。ウイルスかどうかもわかりません」と報告が来た。
  あちこちから、「何で読めないんですか」と問い合わせがきて、その度に私は「サーバーの不具合で・・・。すみません」と平謝り。何でこうなるのだ。
  というわけで、1月2月と公式サイトは閉鎖中のままだった。
  会社を代えて、新しく出直すことにした。
  皆様、以後、以前のようにお付き合いくださいませ。よろしくお願いいたします。

  さて、今回は映画の話である。今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされた映画のうち、『パラサイト 半地下の家族』、『ジョーカー』、『フォードvsフェラーリ』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、『1917 命を懸けた伝令』の5本を私は既に見ている。私は試写会では見ないので、すべて自腹で料金を払って街の小屋で見た。
 『パラサイト 半地下の家族』は今年のアカデミー賞作品賞ほか4冠に輝いたのであるが、大向こうのベタボメに対して、私にはちょっと異論がある。良く出来た作品には違いないが、白人が多いアメリカの選考委員にはわからない東洋人の顔についてである。
 貧乏なキム家の浪人青年ギウが、最初にパク家の女子高生ダへの英語家庭教師としてまんまと潜り込み、続いて妹のギジョンが息子ダソンの美術教師として潜り込む。パク家の車で送ってもらったギジョンは、自分のパンティを運転席の下に押し込んで、パク家の運転手がカーセックスをしたと誤解させるように仕向け、まんまと運転手をクビにさせ、その後に父親のギテク(ソン・ガンホ)を送り込むのだ。
 さらにさらに、家政婦のムングァンが桃アレルギーなのを利用して、彼女を重度の結核患者と思わせ、主家を追い出させた後に、ちゃっかり母親のチュンスクまでもがパク家に潜り込むことに成功するのだが、一家4人が全員パク家に雇われるとはちょっとなあ。
  私はこのくだりがいささか甘すぎると思うのだ。俳優が演じているので、キム家の家族の4人はあまり似ていない。だから、物語としてパク家の家族や家政婦に疑われないという設定なのだが、そんなことがあろうか。
  少なくとも父親と娘とか母親と息子とか、4人の中の2人ぐらいは他人から見れば似ているはずである。なのにパク家の奥様も感受性が鋭い年頃の女子高生ダへも、家政婦のムングァンも誰一人として疑問に思わない。立て続けに雇われて侵入してきた一家が、家族だと見破られないのは不自然である。奥様が金持ちらしく鷹揚で気づかないといっても、余り説得力はなく、ご大家の一家の主婦が、バカっぽく見えるではないか。
  ただ1人、子供のダソンだけが、この4人は「みんな同じ匂いがする」と鋭いことを言うのだが、大人には疑問視されないのである。外で通行人が立ちションをしたり、大雨が降ったら家の中に水が入ってきたりする半地下に住んでいるキム家の連中が、独特の饐えた臭いを発しているという指摘は面白い。
 顔に関してだが、黒人に対してわれわれ東洋人があまり区別ができないように、白人は東洋人がみんな同じように見えるらしいので、私の疑問が疑問にならなかったのだろう。
 ある女流作家が、ご自分のエッセイの中で、「ギジョンが東洋的美人だ」と書き、友人に語らせて、「顔でも格差を表してるよね。貧乏なうちのコは、整形出来ないから一重なんだよ」と語らせている。この作家は一重の目は醜いとでもお考えなのだろうか。随分な偏見である。私はお目めぱっちりの整形顔を美しいとは全く思わない。
  大昔の大女優、高峰三枝子さんは切れ長の一重瞼であったけれど、超美人だった。まして、整形二重瞼の似たような顔は私にはオツムの中がカラッポのバカ顔に見えてしまう。余談。
  さて、『パラサイト』に戻るが、最後のくだりは全く予想できなくて、あっと驚いた。家政婦のムングァンが大食いで「2人前食べる」という伏線、子供のダソンが「幽霊を見た」という伏線、いずれも「あいやー、やられたぁ」と思ったのである。
 何かと内憂外患の韓国にとって、今回のポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー賞受賞快挙は、久々の嬉しいニュースに違いない。
  またぞろ、「日本に勝った」と敵愾心を燃やしているだろう。だが、『冬のソナタ』の美しい音楽や、素敵なヨン様や、韓国映画『JSA』の面白かったことや、私は全く偏見はもっていないから、今回の『パラサイト』の成功はご同慶の至りである。(2020,2,24)


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