「『カムカム エヴリバディ ハウ ドゥユドゥ アンド ハワユ?』と歌える人は、今や少数派になった」

   終戦(1945)の翌年から放送されたNHKのラジオ英語講座を主題にした、連続テレビ小説『カムカム エヴリボディ』が人気になっている。
  驚いたのは、あの辛口・文春砲の週刊文春までが、「カムカムを10倍楽しむ10の秘密」などと特集を大々的に掲載し(12月23日号)、出演俳優の現場の顔などについて超甘口の記事を書いている。記者の誰かにフアンがいるのかナ。
  確かに、中々面白いし、主演俳優たちも適役である。展開も早い。
  1時はやったジェットコースタードラマといいたいくらいの駆け足だ。そりゃそうだ、100年の歳月に亘る3代のヒロインを描くわけだから忙しいのだ。
  TBSの磯山晶さんがチーフプロデューサーをやった連続ドラマ、『恋はつづくよどこまでも』で、医者への追っかけを演じた上白石萌音ちゃんが、祖母時代の主演・安子を演じてスタートダッシュ。可愛らしいし、けなげな安子にピッタリであった。
 作品自体の視聴率も常時16%以上を取っている。
 その代わり、1日外すとすっかり話が進んでしまっているから、油断がならない。
 評判がいい出だしであるのを認めるに吝かではないけれど、限りなく少数派になった当時から生きている人間としては、祖母時代のディテールで「嘘つけ―」と指摘したい部分が2,3点はあった。
  一番気になったのは、肝心のラジオ受像機についてだ。
  縦長の石碑のような形の当時のラジオは、今の物と違って真空管ラジオだった。だから、スイッチを入れてもすぐに音は出ず、局に同調するのに時間がかかったのである。
 ピーピーガーガーと雑音は入るし、イライラしてツマミを回しつつ、やっと局を捕まえても、快適な音量で聞くには微調整が必要だった。ドラマでは、スイッチを入れるといきなり音が出るし、デジタル時代のラジオみたいに即、綺麗に聞こえる場面ばかリ。
  嘘八百である。
  少しは当時の真空管ラジオについて勉強なさいませ。
  別に気になるのは、若い男のヘアースタイルで、昭和20年代に、令和時代のような前髪を垂らすのはなかった。軍人の長髪については散々書いてうんざりしているので、もう書かないが、昭和30年代でも、まともな男はスッキリと額の髪の毛は上げていた。令和みたいな算太の前髪垂らしは違和感がある。
  女の風俗では、昭和20年代に、雉真安子がショルダーバッグを肩から掛けていたことである。
  これについては、当時、「ショルダーバッグは進駐軍に取り入っているパンパン(夜の女)の持ち物で、まともな家の娘は、木口といわれる持ち手に布で作った手提げ袋や普通のハンドバッグを持っていた」とされた。名家の嫁がショルダーバッグはない。
  私の脳裏にはショルダーバッグはパンパンの持ち物というのが、相当長い間刷り込まれていたのである。
  付け加えれば、『カムカム』英語は日本人向けの放送であったが、NHKしかなかったこの時代の放送として、進駐軍関係で忘れてならないのは『バンドタイム』という夕方の音楽番組である。
  終始一貫英語と音楽だけの、日本人が聞くと何が何だかわからない内容であるが、進駐軍たちはネイティブ英語放送として愛聴していた番組であるから、一言触れるべきだった。
  GIたちが、このバンドタイムの音楽に合わせて踊っていたと聞いたこともあるが、日本人の子供たちには、つまらない時間であった。今のように民放はないし、当然ネットメディアなど皆無だから、NHKが唯一の娯楽メディアだったのである。
  「安子編」で私が評価したのは、NHK朝ドラにあるまじき(これ反語!)色っぽい場面である。雉真家の女中の雪衣(岡田結実)が、次男坊の勇(村上虹郎)が好きで好きで、暗い目でじっと見ている展開だった。
  大阪制作の『カーネーション』では不倫の場面があったが、「清く正しく美しく」という宝塚みたいなドラマばかりだとつまらない。文春砲には追いかけられるだろうが、こうした愛憎シーンは朝ドラといえども必要なアイテムだから、今後も是非書いてほしいと思う。
  さて、物語は昭和30年代の娘るい(深津絵里)の場面に入っている。
  年内最後には、風が吹いて前髪がめくれ、額の傷があらわになってデート会場から去ってゆくところが描かれた。
  小意地の悪い批評家としては、「そんなに気にしているキズを隠したいのなら、なんで帽子を目深にかぶって出かけないのだ!」と突っ込みたくなった。
  風が吹いたぐらいで、好きな人を失うほどの設定は、たった帽子1つか、スカーフのかぶり方1つで解消するのだから、この場面の説得力は弱すぎるのだ。
  しかし、だ。
  どこかに屈託を抱えた女の子という役に、深津絵里さんはピッタリの人である。
  そんなに美人ではないのに、彼女が民放の連続ドラマでもいい役をゲットするのは、「この人は何かを考えている」感があるからである。多分頭がいい人なのだろう。
  たった半年の間に100年のファミリーストーリーを描くという大冒険をしているBKさん。以前の『おちょやん』があまりに猥雑でつまらなかったので、今回は助かっている。少なくとも翌日の展開に期待したい気持ちが湧く。
  コロナ禍、オミクロン株禍の中で、あと3カ月、けなげな甘党・和菓子屋さんの娘が、孫の世代までどう生きてゆくか、自分の生きた時代と重なる面白さがあるので、今回はさぼらずにちゃんと視聴するつもりである。
  最後に白状すると、私は村上虹郎くんのファンである。
  昔々、民放の学園ドラマで見つけて以来、その、不思議な「虹」というネーミングが気になっている。名前に反して翳のあるところが、いい。(2021.12.30)
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