私は連続ドラマを1回見ただけで決めつけることは絶対にしない。
だから、鳴り物入りの『どうする家康』も、今回だけで斬り捨てることはしたくない。
しかし、なあ、昨夜、BSプレミアムと、地上波と両方で2回見た感想を正直に書くと、スターばかりの登場人物の割には、わくわくするドラマ1回目の期待感は裏切られた。
『リーガル・ハイ』などを書いた才能ある古沢良太さんの脚本なのだから、これ以後に物凄く面白くなるのだろうが、昨日はがっかりだったのだ。
次の場面を待ち望む「次どうなる?」「次は?」「次は?」と、後ろから押されるような期待感がさっぱり出てこなかった。
むしろ、眠くなったのである。
いい所も沢山あるにはあった。
人質だった松平元康(松本潤)が所領に戻り、領民たちに「覚えていますか」と歓迎される場面で、全体に薄汚れた感じの家来たちの着ている物のリアリティが素晴らしかった。
キンキラキンの時代劇ではないと作り手は主張したいのだろう。
また、今川義元(野村萬斎)が能を舞うシーン。流石にプロの狂言師の立ち居振る舞いの本物らしさ、もっと長く見たかった。あっという間に終わっちゃった。
とにかく野村萬斎さんは声がいい。
瀬名(有村架純)の婿を選ぶ場面もなかなか面白かったが、何でこんな場面を作ったか理解に苦しむのが、元康と瀬名が緑濃い雑木林の中で、かくれんぼをするところ。
関口氏純(渡部篤郎)の娘と、大切に預かっている人質(元康)が、お付きもつれずに林の中で能天気に「もういいかい?」「まあだだよ」はないだろう!
刺客に襲われたらどうするのだ!
私の中では大好きな俳優の渡部篤郎さんが、瀬名の父親で、頭が真っ白の老人ぽい扮装ではっきり言って気に入らなかった。渡部さんは独特の色気のある演技者なのに、こんな刺身のツマみたいな役で腹が立つ。プン(笑)。
彼には好人物の父親より、もっとしたたかで屈折した武将をやらせたかった。
ただし、瀬名は、後の築山殿であるから、正室でありながら夫に殺される悲劇の女性である。どこかで父親の関口氏純もまた出てくるのかもしれない。
タイトルに書いたように、最も気に入らない劇画ばりの個所は、武将が馬で疾走するシーンだ。まず、元康。ついで織田信長(岡田准一)。
あたかも乗馬して疾走しているように見せているが、あれは走ってないね。
同じ場所でぴょんこぴょんこ、馬を跳ねさせているだけだろう。
後ろの雲が全く移動していなかった。
前から風を当てて、それらしく見せていたが、嘘だ。絶対に野っばらで走っている撮影とは違っていた。下手くそ。
経費が潤沢なNHKさん、もっと上手に誤魔化しなさい。
さて、いよいよ俳優さんたちへの感想である。
後の狸オヤジ、大阪の豊臣軍をやっつける権謀術数の持ち主、秀吉の位の高い家来で二条城に出入りしながら、結局は主君(?)家を根絶やしにする悪人(失礼)の徳川家康が、幼少期は気の弱いキャラクターで、「どうする?」「どうする?」と優柔不断だった新解釈自体はいいと思う。
そもそも、小さい時から人質だったのだから、情緒不安定で、周りを見回す習性があったのは有り得るだろう。
松本潤さんは大河ドラマ初出演だそうだが、少年期は少し無理があるとしても、「いいとこの坊ちゃんが、気を使いながら大人の顔色を窺う」苛酷な運命の中でも「育ちの良さ」を感じさせる役柄としては合格だ。
色白で可愛い。私は別にフアンではないが。
セリフの喋り方にちょっと癖があるけど。
ただし、次第に大人に成長するにつれて、「気弱で優しくて、どうする?」と迷いまくる善人では戦国の世は乗り切れまい。物凄い腹黒人間にならなければ、イチコロで殺される。
家来や身内に寝首を掻かれるかもしれない。
その時代になっても「どうする?」男では生き残れない。
脚本家がどういう風に元康→家康を複雑な人間に変化させてゆくか見ものである。
松本さんがどう演じるか。
前作の『鎌倉殿』が素朴な田舎青年から、稀代の<殺人鬼(?)>に変身していった前例もあるが、戦国時代は鎌倉時代よりも苛酷だろう。
乞う、ご期待だ。
脇役では『ハゲタカ』の大森南朋さんに期待している。いまのところ、お人好しの家来的でつまらん。
彼には業界人のパーティーで紹介されたことがある。無口な方でほとんど黙っていらした。麿赤児さんの息子さんというエリートだ。この方にはまた非情な経済人をやらせたい。
いよいよ、紙幅が残り少なくなってきた。
最後に付け加えたいのは、作り手が気張ったのは劇伴である。
音楽担当は稲本響さん。クラシックでも軟派でもない不思議な境界の音楽である。
タイトルバックの奇天烈なイラストの所為か、この劇伴の所為か、私にはドラマ全体が劇画チックに感じる。時代劇でも新しいものを志向する作り手の意図がはっきりわかるので。それはそれていいと思うが、戦国時代を終わらせた歴史上ほとんど唯一の成功武将の人生を描くには、あまり劇画寄りになっても困る。
じっくり見せてもらおう。
第2回以降、もう少し当方のわくわく感を満足させて欲しいものである。
取り敢えずの感想だ。(2023.1.9.)。
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