「懐かしい中央線の松本駅が出てきた関テレ・ドラマ『マウンテンドクター』(フジテレビ)を見る。主人公・宮本歩(杉野遥亮)の演技は生硬だったが、山岳の景色は素晴らしかった」

 1998年に安曇野市穂高有明に天然温泉の源泉を引いた別荘を建てた。
 ずっと前に買ってあった土地を整地し、上物は筆者が設計して、木造2階の1戸建てを建てたのである。
 物凄い金食い虫で、山林の中だったので湿気が多く、不在にしている間にカビが生えるので、手入れや、ロフトの天井の張替え、ぬれ縁の腐食のために造り代えなど、うんざりするほど維持費がかかった。
 人間が常時住んでいれば湿気も何とかなるが、東京から仕事の合間に行くので、空き家同然である。しかも、その別荘地帯に、かつて、留守の間に家に侵入して、ちゃっかり住んでいた泥棒がいた、と聞かされて、某警備保障会社と契約したのだ。
 これがまた酷く金食い虫で、親切ないい人たちであったが、個人の家で契約している人はほとんどいないと聞かされて、金持ちでもないわが家がこんなことに大金を使っていいのだろうかと反省しきりであった。
 警備保障会社と契約してよかったことは2つあった。
 1つはドジな夫が免許証を忘れた時。
 年齢と共に、自宅から別荘まで自家用車で行くのが大儀になって、中央線の特急で松本まで行き、そこでレンタカーを借りて長野道を通って行っていた。
 それなのに、新宿駅で「免許証を忘れた!」と彼はのたまわったのである。
 筆者は既に免許証を返納していた。
 取りに帰るには時間がなく、結局あちらに滞在中、警備会社のお世話になったのである。
 もう1つは、契約時に部下を引き連れてカナダの山岳警備隊みたいなカッコイイ制服を着て現れた警備会社の課長さんが、サービスでわが別宅の周りを時々見回ってくださったことである。
 ウン十年前の学生時代から、親しく付き合ってきた親友たちが、別荘を建ててから泊りがけで大挙して来てくれて、彼らとの絆は深まった。
 全自動の麻雀台を購入し、酷暑の東京では想像もつかない涼しさの中で、朝から晩まで「チー、ポン」とやっていた。当時の値段で、全自動麻雀台の値段は、新品が70万円、中古品が15万円。もちろんわが家は中古品を買ったのだが、これが頭に来るほど故障する。
 その度にセンサーの機嫌を取らねばならない(笑)。
 こんなことなら新品を買えばよかったと何度思ったことか。
 東京に戻る時、長野道の梓川サービスエリアから見るアルプスの雪を頂いた連峰が物凄く美しかった。また、SAのレストランのおぜんざいが美味しかったことが忘れられない。
 たった3時間未満の別世界だった。
 わが家に出入りしてくれた地元の青年が、生まれてこの方、たった3時間で行ける東京に1度も行ったことがないと聞いて、安曇野の良さを再認識したものである。
 さて、7月8日に始まったフジテレビー関西テレビ制作の『マウンテンドクター』は、まさにこの松本が舞台の新ドラマである。
 開始早々、懐かしい松本駅の正面階段が出てきた。この階段の上に、駅ピアノが置いてあったのだが、今はどうだろう。亡き小澤征爾さんの碑も駅前にある。
 別荘を建ててくれた腕自慢の大工の棟梁とは、この松本駅の階段前ではじめて出会ったのであるが、残念ながら亡くなってしまった。いい男だったのに。
 ドラマの主人公は新米の整形外科ドクター、宮本歩(杉野遥亮)で、高校卒業以来11年ぶりに、故郷の松本市に戻ってきたのである。スラリと背の高いモデル出身の杉野くんは、目下売り出し中の好青年だが、顔の表情が硬くて、演技はイマイチである。
 信濃総合病院に着任早々、宮本歩は院長の松澤周子(檀れい)から、山岳診療科の兼務を命じられる。アルプス山脈に近い病院なので、山岳事故が多いのだ。
 早速、山で事故が起こり、歩も現場に行かされる。
 そこで、突然、態度はデカいが、テキパキと処置する医師に出会う。
 国際山岳医の資格を持つ、同じ信濃総合病院循環器内科の先輩医師・江森岳人(大森南朋)であった。
 余談だが、大森さんとは筆者、どこかのパーティーでお会いしたことがある。
 ドラマの役通りの結構ぶっきらぼうな方であったが、お父様が有名な舞台人、麿赤児さんだから当然か?
 この国際山岳医という資格を筆者は初めて聞いた。歩も1年後にこの資格を取る。
 歩には辛い過去があった。
 第1回だけではよくわからないが、お兄ちゃんがどうやら事故で亡くなったらしい。
 父(遠山俊也)、母(石野真子)、山岳看護師・鮎川玲(宮澤エマ)、同級生、救急医、麻酔科医ら登場人物は多彩である。
 歩が担当した心臓の悪い高齢の男性は、妻を亡くして長く、唯一の生きる力は山登りの趣味である。
 ところが、心臓手術をしたのにもかかわらず、歩は患者にリハビリトレーニングをさせて、山登りを叶えさせてやる。1見美談のようだが、大病院の医師が、こんなに1人の患者に掛かりきりになれるものだろうかと、病院馴れしている筆者は疑問に思ったのである。
 第1回からいちゃもんはこれくらいにする。
 感心したのはヘリで倒れた登山者たちを搬送する場面。山の上に倒れている患者をヘリから救い出す所で、ヘリの上からまたカメラが撮っている。ものすごいショットである。カメラマンたちの苦労や危険が思いやられる。
 アルプスの美しい風景と共に、医師と命の人間ドラマを、次回からも見続けようと思う。
 別荘は手放したが、松本は懐かしいから(2024.7.11.)。
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