「NHK朝のテレビ小説『虎に翼』は、時代考証が甘いが、従来のチヤホヤ女の1代記パターンに比べれば、遙かにましである」

  時代考証が甘い、の一例。
  今週はまだ額で分けていたので許せるが、先週までの星航一(岡田将生)は、前髪をおカッパみたいに前に垂らしていた。
  ハンサムな岡田将生さん、昭和20年代なのに、令和時代の青年みたい。
  これってどう見ても変でしょう。
  前髪垂らしは令和のファッションである。
  昭和20年代や30年代には、若い男の髪型はみんな、オールバックか7:3分けで、ポマードをつけて、キリリと撫でつけていた。
  その時代に生きていた筆者が言うのだから間違いない。
  終戦直後の傷病兵の生き残りじゃあるまいし、法曹界のインテリが、令和のタレントみたいな髪型には決してしていなかった。
  アーカイブがたっぷりあるのに、NHKのドラマ作り班は怠慢である。
  過去の映像でもちゃんと見るべし。
  女性の方は髪型に気を使っている。
  戦時中は『大陸まげ』と称して、女は長い髪をうなじの上にクルクルと巻き込んで、決して垂らしたり、編んだりはしていなかった。
  寅子(伊藤沙莉)の髪型に不自然さはない。
  もう1つは、戦前戦後を描く朝ドラが沢山ある中で、筆者がいつも違和感を持つのは、人物たちが動く距離感である。
  昭和20年代後半から昭和30年代初めでも、新幹線など影も形もなかったし、東京から大阪まで行くのにも、夜行列車で行くか(つまり、ひと晩寝るわけ)、昼間の特急を奮発しても6時間以上はかかった。
  今や、新幹線だと2時間だ!
 今回の『虎に翼』で言えば、主人公が新潟の裁判所に転勤になる。
 「いってらっしゃい」と如何にも(セットでござい)と感じられるチャチな見送り風景の後で、もう、新潟の裁判所になっている。
 子連れ(優未ちゃん)でしょ、東京から新潟まで昭和20年代に移動するのは簡単ではなかったはず。ドラえもんの『どこでもドア』があるわけないし(笑)。
 ドラマの作り手にとっては時代劇並みの過去の話ではあるが、戦前戦中を苦労して生き残ってきた高齢者を、「どうせボケてんだろう」とばかり、無視していい加減に再現するべきではない。
  思い出したが、『純情きらり』(第74作の平成18年度前期)の描き方に、ある高齢の大ピアニストの方が、「違う」と文句を言っていらした。主人公はピアノ学生だった。
  さて、ここからは褒める。
  NHK朝のテレビ小説、第18作、『火の国に』という作品があった。昭和51年後期作。
  熊本の阿蘇の大自然の中で、造園師を目指す女性・香子の話である。
  当時の朝ドラは大体において女の1代記だったから、当作もご多分に漏れず、香子の周りには彼女を愛する人々がいて、チヤホヤチヤホヤするのである。
  この忙しい現代、娘1人をチヤホヤする暇なんかあるか!
  筆者は頭にきて、よく覚えていないのだが、自分のコラムでコテンパンにやっつけた。
  激辛だったと思う。
  それから随分時が経ち、ビックリ仰天。
 『火の国に』の脚本家だった石堂淑朗さんが、「批判されて、以後、NHKからは、2度とオファーが来なかった」と書いていらしたのである。
  ありぁ、筆者は間違いなく石堂さんの営業妨害をしたのであった。
  石堂さんとはお友達で、巷で酔っぱらった石堂さんに抱えあげられたこともあった。
  お亡くなりになってしまったが・・・。
  ところで、『虎に翼』は間違いなく女の1代記である。                        
  しかし、確たるモデルがいる。
  日本で最初に女性弁護士になり、判事になり、裁判所長になった三淵嘉子さんである。この方の人生を吉田恵里香さんが脚本に書いている。
  伊藤沙莉さん主演。伊藤さんはいわゆる美人系ではないのに、民放でもモテモテである。
  筋書きはやたらに登場人物が多いので、付いて行くのにひと苦労である。
  しかも、商売上手なNHK、ちゃっかり『あさイチ』などで、登場人物をゲストに呼ぶので、自然にシンパが出来る。
  先日も、轟に扮している戸塚純貴くんを呼んで、バンカラ歩きの実演までさせていた。
  筆者はネットマニアではないので、NHKが、ネット人気に媚びているのが鼻につくが、まあ、好きにおやりください。
  驚いたのは、8月21日の放送で、同性愛者の性転換手術が話題になっていたこと。
  今でこそ、おおびらに話題にされるジェンダー問題だが、はて、この時代に裁判所では主要テーマだったのか?
  評価出来る1つは、佐田寅子(伊藤沙莉)が男社会の中でもめげずに持論を主張するところ。アンパンみたいに真ん丸顔の伊藤さんが、自説を主張する場面でも、嫌味にならないので、彼女に寅子役を振った人は大手柄である。
  これが、普通の美人系の女優さんだったらピンとこなかったに違いない。
  また、筆者が好きな登場人物は、やっと弁護士になれた山田よね(土居志央梨)である。男仕立ての背広を着て、何時も突っ張っているが、彼女がいちばん、この時代の哀愁を表現している。
  あと1カ月少々、頑張り裁判官の成長を見ることにする(2024.8.21)。
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