ひと言でいうと、面白い。 第1回は≪ありがた山の寒がらす≫という副題である。 脚本家が森下佳子氏なので、期待はしていたが、裏切られなかった。 時は江戸中期、かの有名な権力者老中・田沼意次の時代である。 大物ハリウッド俳優の渡辺謙さんが田沼を演じている。謙さん、お歳を召して目の下にクマが出来ているが、貫禄である。 開口一番、女の声のナレーションから始まったが、これはキツネの化身であるらしい。 ド派手な着物を着流した綾瀬はるかさんが、画面の中央でこちらを向いて歩いてくる。 頬紅を顔中につけた花魁風の化粧で、いろいろと解説しているが、内容を正確には覚えられなかった。舞台設定の説明だ。 大河ドラマというと、筆者はイの壱番にテーマ音楽に注目する。 昨年の『光る君へ』の女流作曲家の作品は、出来損ないのクラシックもどきで、今を時めく反田恭平くんのピアノソロなどをフィーチュァしていたが、曲の終わり方が筆者には下手くそに聴こえた。 今回の担当は過去に『麒麟がくる』(明智光秀の生涯)で音楽を描いた、アメリカの作曲家、ジョン・グラムさんである。 最初から、「ははあ、ハリウッド調だ」と思った。 大河ドラマ音楽の代表作である芥川也寸志さんの「ドシャーン」と拍子木が鳴る、『赤穂浪士』などとは対極にあるサラーリとした爽やかテーマである。 大河ドラマというとNHKさん、札ビラを切る。ハリウッド作曲家のギャラっていくらぐらいするのだろうか。 それはさておいて。 小さい時に両親と生き別れになり、客に女郎を紹介する引手茶屋・駿河屋の親父(高橋克実)の養子となって育てられた蔦屋重三郎が主人公である。 美男の横浜流星くんが主演であるが、面食いでは人後に落ちないと自信のある筆者としては、満足じゃ(笑)。 横浜流星くんを筆者は連続ドラマ『はじめて恋をした日に読む話』で注目した。 ちょっとグレぎみだった男の子が、深田恭子ちゃんの家庭教師に恋をして、素晴らしく成長してゆく物語だったが、最後の長いキスシーンが綺麗だった。 今回の主人公である蔦屋重三郎(横浜流星)は、お上公認の遊郭、吉原の場末(?)で生まれた庶民の子である。 吉原は<苦界に身を落とした>と表現される岡場所だ。 貧しい農民が、器量のいいわが娘を売り飛ばすなど、悲劇はそこここにあった。 出入り口は大門の一ケ所しかなく、遊女に売られてきた女たちが、そそのかされて逃げないように厳しく見張られていたのである。 若くて元気のいい蔦重は、主人公ではあるが、一種の狂言回しの役も担っていて、吉原という、有名だが実際のディテールはよく知らないわれわれ観客に、色々と教えてくれる役でもある。 例えば、花魁・朝顔の哀しい話。 遊女の朝顔(愛希れいか)は蔦重が子供のころ、絵本を読み聞かせてくれた優しい松葉屋の花魁だったが、栄養が悪くて体を壊し、地べたに素っ裸で遺体となって捨てられた。 蔦重は世話になった朝顔の悲しい最期を目撃して、吉原の闇の部分が身に染みる。 何故素っ裸かと言うと、花魁の高価な着物は、死体から剥ぎ取られて、もう、次の女郎に着せられるのである。 NHKさん、リアル描写で頑張った。 背中とはいえ、大河ドラマで素っ裸の女4人なんて描かれたのを、筆者は見たことがなかった。でも、決して厭らしくはなく、綺麗な場面である。 ついでに書くと、吉原がメイン舞台ならば、男と女が(やっている)描写が今後でてくるのだろうか。 朝顔の悲惨な最期は、蔦重が後に、貸本屋から本の出版社を起こすまでのきっかけになる重要なテーマシーンでもある。 最後の方で、田沼意次の超豪華な屋敷に、蔦重もお供で陳情(?)に行くシーンがある。 たかが女郎部屋の下っ端の下っ端が、老中さまにお目通りなんかできるのかいナ、と思ったが、そこはフィクション。 他にドラマで毎度おなじみの盗人が怖がる鬼平こと、『火付盗賊改方』の長谷川平蔵(中村隼人)まで登場するので驚いた。 また、平賀源内(安田顕)とか田沼意知(宮沢氷魚)など、有名人がどっさり。 ドラマ5本分ぐらいの登場人物だらけで、これから楽しみである。 いなせな横浜流星は、元気が良くて、一応合格! 〇お正月に見たものの中で、最も面白かったのは『映像の世紀』バタフライエフェクト。 吉田茂と岸信介と田中角栄の3人の列伝だが、安保改正反対(60年安保)の運動の中で、6月15日に国会南通用門内でデモ隊の東大女子学生・樺美智子が圧死した場面で、樺美智子の名前も言わなかったのはおかしい。 〇『相棒スペシャル』(テレビ朝日)は物語に既視感があって、元日の夜に、長時間視聴したにもかかわらずあまり面白くなかった。残念。 〇『箱根駅伝』(日本テレビ)は相変わらずの強力コンテンツ。「また、青学かあ」と言いながら、結局2日とも見てしまった。大昔、応援していた山梨学院大学は、折角予選会から這い上がってきたのに、ビリだって! トホホ。(2025.1.6.)。 (無断転載禁止)