「元警察庁キャリアのH氏が語る、凶悪犯罪グループの最近の動向。トクリュウとは、(匿名・流動型犯罪グループ)のことである」

 過日、元警察庁キャリアで、現在は弁護士をなさっているH氏から、最近の犯罪者模様の数々について、ものすごく興味深いお話をうかがった。
 H氏は1957年生まれで1982年の東大法学部卒業。
 徳島県警察、大阪府警察、警視庁、警察庁の捜査第二課長。熊本県警察、福岡県警察の本部長、東京都青少年・治安対策本部長、大阪府警察本部長などを歴任の後、退職。
 つまり、めちゃくちゃその世界で偉い方である。
 テレビドラマの警察ものに出てくる第1線の「捜査二課長」を経験なさっているのだ。
 彼が扱った事件が凄い。
 「地面師詐欺事件」、「取込詐欺事件」、「M資金詐欺」、全国で唯一特定危険指定暴力団に
指定されている「工藤會」の壊滅作戦の指揮にも従事した人である。 
 怖―い。
 筆者はおよそ怖い方々とは無縁の、ごく平和な社会に住んでいるが、それでも、近くの桜が美しい大公園の周りの道路で、数年前から「バイクによるひったくりが頻発しているので注意しろ」との立て看板が現れ、びくびくしながら歩いている。
 パリで筆者は襲われたことがあるので、余計に神経質になっている。
 ヒタヒタと怖い方々が近くに出没しているのだ。
 さて、H氏は案外小柄な方で、喋る口調は早口だが、威嚇的ではない。 
 しかし、やっぱり眼光が鋭い。
 筆者はテレビ人のパーティーで、狙撃事件で瀕死の重傷を負われた國松孝次警察庁長官を何度もお見掛けしたものだが、彼に雰囲気がよく似ている。つまり、キャリアの紳士なのだが、警察官のトップまで上り詰めると、自然と身体から滲み出る凄味が備わるらしい。
 テレビのニュースを見ていると、「トクリュウ」「トクリュウ」と繰り返すので、わかったつもりになっていたが、実は全然わかっていなかった。
 トクリュウとは、暴力団には該当しないものの、特殊詐欺を広域に敢行する集団など、組織犯罪の観点から治安対策上の脅威となっている集団のことである。
 ますますわからん。
 昨年の3月13日に参議院予算委員会において、総理大臣が答えた内容によれば、
 「トクリュウとは、暴力団とは異なり、SNSを通じるなど、穏やかな結びつきで離合集散を繰り返す犯罪グループが詐欺、窃盗、売春、賭博等を広域的に敢行する・・・犯罪グループが、匿名性の高い通信手段等を活用しながら役割を細分化したり、犯罪によって得た利益を基に各種の事業活動に進出したりするなど、その活動実態を匿名化、秘匿化する実態も・・・こうしたことから、警察においては、このようなグループを匿名・流動型犯罪グループと位置付け、実態解明と取締りを強化している」そうである。
やっと少しわかったような気がする。 
彼らの違法な資金獲得活動は、
 ●詐欺を敢行するグループ
 ●強盗・窃盗等を敢行するグループ
 ●風俗店、性風俗店やスカウト行為に関与するグループ
 ●悪質なリフォーム業に関与するグループ
 ●オンラインカジノ
 ●インターネットバンキングに係る不正送金
 ●大麻・覚せい剤等薬物の密売
 ●ヤミ金融関連事犯
と多岐にわたっている。よくテレビニュースで見聞きする事件ばかりである。テレビに出た、東南アジアから団体で逮捕されて、空港に降りたガタイのいい人たちが相当するのだろう。
 H氏は警察庁の中枢にいらしたので、退職していて現在は外部の方であるが、守秘義務のために喋れないこともある、と仰っていた。そりゃ当然である。
 筆者はこういうご職業の方は、一生涯、おちおち枕を高くしてお休みになれないのではないか、などと、余計なことを考えていたが、H氏にはそんな心配は微塵もないらしい。
 ニッポン警察への信頼度は厚いのである。
 さて、筆者も普段、関係がないとはいえ、見聞きする『暴力団』について正確には理解していなかったので、改めてH氏の説明を伺う。
 ●『暴力団』とは、その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長する恐れのある団体
 ●人に恐怖を与え私的な目的を達成しようとする反社会的集団
  人に恐怖を与えるためには、組員と武器が必要
  戦闘能力を維持するためには高い資金力が必要
 これら「暴力団や準暴力団(説明省略)だけでなく、先述したように、組織犯罪の観点から治安対策上の脅威となっている集団」がトクリュウである。トクリュウは暴力団を支える『下部組織』『協力組織』であるから、つまり、「暴力団勢力」は減っていないのだそうだ。
 犯罪グループは、その時々の社会情勢の中で、金になることに目を付ける。近年、トクリュウによる詐欺・強盗・窃盗などが目立っているが、犯罪の手法・手口が、情報通信(機器・技術・IT・AI)の高度化、国際化の進展等により、更に悪質・巧妙化(凶暴化)、越境化している由。
 H氏に「テレビドラマに出てくる警察組織の上役たちの描き方を、どう思われますか」と伺いたかったが、時間がなかった。しかし、例えば、『相棒』(テレビ朝日)の上司(トップの下)の描き方などは、実によくH氏と似た雰囲気を出している。
 もう1つ、在任中、「命の危険という場に遭遇されたことはありましたか」とも伺いたかったが、時間切れだった。兎に角ご無事でよかったよかった(2025.3.10)。

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