何が驚いたといって、1度の見合いで、いきなり朝田のぶちゃんが「よろしくお願いします」と頭を下げて見合い相手、若松次郎(中島歩)と結婚しちゃったこと。
何が驚いたと言って、ドラマのキーマンで、時代の良心ともいうべき地域のお医者様、柳井寛(竹野内豊)が突然死してしまったこと。
びっくりした。
主人公の朝田のぶ(今田美桜)は結婚して若松のぶになった。驚いた。
お医者様が亡くなったのは史実らしいから、事実は小説より奇なり、である。
筆者は忙しいので、ドラマの先をいろいろ詮索する趣味はない。
しかし、長い間、テレビ界のあちこちで選考委員をやっていたので、ご親切にも、現在のドラマ事情を掲載した雑誌などが沢山送られてくる。
送り手に敬意を表して一応はめくるので、チラチラと見てしまう。
詮索するつもりはないが、先の話が目に入ってしまうのは致し方ない。
嵩くんと口喧嘩したとはいえ、のぶの見合い・即・結婚とは本当に驚いたのである。
ニコニコして花嫁衣裳を着るとは、のぶちゃん、相当なタマである。
この花嫁衣裳のチェックマンに1つ物申せば、<角隠し>がヘン。
おでこが丸見えである。
<角隠し>とは文字通り「嫁がきつく振舞わないように」の意味があり、あんなにおでこ丸出しはおかしいのである。筆者はSNSで調べたりしてないよ。これ、常識!
時代考証でどうしてもおかしいのは、男性の髪型である。
戦後10年も経っての昭和30年代ごろでも、令和のように若い男の前髪垂らしたオカッパみたいな髪型はなかった。
オールバックか7・3分けであった。
辛島健太郎役の可愛らしい高橋文哉くん(嵩の友人)が、前髪を垂らして切りそろえているのはあり得ない。子供じゃあるまいし、立派な大人でしょ。
カンパンの原料小麦を運んで来た憲兵が長髪なのもおかしい。
海軍には長髪がいたが、陸軍は丸坊主であった。
憲兵は陸軍管轄である。
もう1つ、決定的におかしいのは、東京と高知の距離感である。
戦後でさえ、東京から四国へは今のように簡単には移動できなかった。
昭和20年代半ばに、特急つばめや特急はと号が出来てからでも、四国へは東海道線から山陽本線を延々走り、岡山で宇野線に乗り換え、宇高連絡船に乗り換え、やっとこさ、四国に渡る。宇高連絡船には、後に紫雲丸(死運丸?)という悲劇が起きた。
四国内国鉄で土讃線予讃線に乗り換えると、多度津で分かれる。
西に松山方面へ真っ直ぐ行くのは、予讃線。
多度津から真南の高知に向かって行くのは土讃線で、えんえんと南下する。
高知へは海路もあるし、高徳線で徳島経由と言う方法もアリだが、ドラマの国鉄・御免予駅が出てくるので海路はまずなかろう。
登美子(松嶋菜々子)や嵩(北村匠海)らが、簡単に東京に戻る描写には違和感を覚える。
今のように飛行機は勿論ないし、山陽新幹線だって影も形もなかった時代である。
筆者はテレビ界の審査員を何度か依頼されて、行ったことのない高知にも足を運んだが、飛行機では、空港から長時間タクシーを飛ばした。
陸路では高知に行ったことがない。
はっきり言って、阿讃山脈の向う側は遠い遠い外国みたいな感覚である。
戦前の昭和10年代に、簡単にホイホイと移動できるわけがないのである。
いちゃもんついでにもう1つ。
次女の蘭子(河合優実)が、愛した釜次(吉田鋼太郎)の弟子の原豪(細田佳央太)の戦死を受けて、屋外で戦争批判のようなセリフを吐く。
これはあり得ない。大都会でも恐ろしいのに、田舎の高知で、こんなことを大びらに言ったら、隣近所からチクられて、それこそ憲兵が飛んでくる。今の北朝鮮より密告は酷かったのだ。
家の中でひそひそと、戦争が負けるかもしれないと家族が語ることはあっただろうが、善良な市民たちは、「大本営発表」とラジオから聞こえると、直立不動で皇居の方を向き、首を垂れるのが当たり前であり、屋外で戦争批判など、小娘が出来るはずはなかったのである。
文句はこれぐらいにして。
筆者が評価するのは、学校での教練の場面である。
原爆を落とすような科学の進んだ連合国を相手にして、わが大日本帝国は薙刀の修練をしていたのである。それどころか、敗戦間際には、マジに竹槍で上陸してきた敵兵を突き殺す稽古をしていたと言うから、笑えてしまう。
ドラマはまだ昭和10年代の中頃だとしても、「お国のために役立つ婦女子」教育は、恐らく主たる女子教育として施されていた。筆者は他家のお座敷の、鴨居に薙刀が収められているのを目撃した記憶がある。
柳井嵩(北村匠海)は今のところボーッとした画学生であるが、才能が開花して、『アンパンマン』が動き出すのが楽しみである。
また、あの、美人でセクシーなお母さんの登美子(松嶋菜々子)にも、どことなく翳のある男遍歴が起こらないかと、余計な期待をしてしまう。
世間的には<反戦?>の辛い記憶があるらしい屋村草吉(阿部サダヲ)の人生が期待されているようであるが、筆者は色っぽい「おんな」の運命の方に関心がある。
とにかく面白いドラマとして一級品である。
毎日が楽しい。(2025.5.31)。
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