今回は2023年最後のサイトなので、今年の回顧を書くつもりであったが、テレビ小説『ブギウギ』に、筆者が懸念した通りの出来損ないシーンが出てきたので、そこを伝えたい。
11月1日、筆者がつけた公開サイトのタイトルはこうである。
「『ブギウギ』の放送1カ月、趣里ちゃんは可愛いが、戦前戦後はちゃんと描いてほしい」
と書いている。
このドラマは内容的にもモデルがあるので違和感もなく、テンポも良く、とても面白いのに、画竜点睛を欠く場面がやっぱり出てきた!!
筆者が懸念した通り、戦前戦後の場面である。
12月28日に放送された昭和19年の回だ。
福来スズ子(趣里)が同行者と共に地方巡業から帰ってくる。
東京は大空襲に遭遇して焼け野原になっている。
スズ子たちはショックで、恐る恐る自宅に向かうと、家は無事で、愛助(村上恒司)も生きていた。スズ子は大喜びする。
この後である。
愛助とスズ子が部屋で向き合った場面だ。
驚くことにガラス戸や障子などが庭から丸見えで、部屋の真ん中の電気は、天井からつるされて煌々と灯っているのだ。
筆者は口あんぐりした。
何故ならば、昭和19年と言えば、日本中の都会はB29によって次々に爆撃されていた。
現在の様にハイテク無人機ではない。
空を飛んでくる爆撃機も目視で標的を探すのだ。
だから、日本国中が『灯火管制』を叫ばれ、どの家も、夜間、自宅の光が外に漏れるのを極度に神経質に防止したのである。
隣組組織は一種の北朝鮮のような密告組織でもあって、もしも灯火管制が完璧でないと、すぐチクられ、割烹着姿の見回り主婦たちに、大声で、「〇〇さーん、明かりが漏れてますよ」と咎められたのである。
部屋の中央にぶら下がっている電灯が、煌々と庭から見えるなんてありえない!
電灯は高い場所ではなく、コードを伸ばして下に下げ、なかんずく、黒い布で周りを覆ったのである。
これについては、今は亡き山口瞳さんが、亡くなるまで連載なさった週刊新潮の「男性自身」コラムで、面白いことを書いていらした。
彼は戦時中の空襲の最中でも、仲間と麻雀をやっていた。
電灯の真下に麻雀台を置いて「チー、ポン」などとやるのだが、電灯は黒布で周りを覆っているのでよく見えない。
だから、しょっちゅう、四暗刻(スーアンコウ)の大三元が出来たんだそうだ(笑)。
ジャンをやらない方のために解説すると、大三元とはまず達成不可能な満願手である。
白パイと、緑の發と、赤の中が全部、手の内でトイツ(3枚揃うこと)として出来上がる。
仲間が雀士ならば、やっている途中に雰囲気でわかるので、完成を阻止する。
四暗刻の大三元を成就するなんて、よほど他の3人の腕がタスいのだ。
山口さんたちが満願やり放題だったということは、つまり、灯火管制で明かりが暗く、ジャン台まで下げられた電灯のお蔭で、よく見えなかったのであろう。
灯火管制の真っ最中に雀卓を囲んでいたなんて、体験者でなければ絶対に書けない。
実にオカシイ場面である。
この戦火の中の麻雀シーンは、大作家にして描けた傑作な実話であると思う。
大空襲の最中でも、庶民は麻雀をやっていたのだ。
さて、『ブギウギ』場面に戻ると。
NHKのドラマ班さんよ。アーカイブ映像をもっと学びなさいませ。お宅には宝のようなアーカイブ映像が、山のようにあるでしょう。
昭和19年と言えば、筆者は父親の赴任地の神戸に住んでいた。
わが家の周りは「隣保」という組織でガチガチで、灯火管制についても口煩く言われるので、母はいつもビクビクしていた。大阪制作の『ブギウギ』は同じ関西圏だろうに。
ドラマではこれ見よがしに窓ガラスにバッテンのテープを張っているのはいいが、カーテンがない!
カーテンと言っても美的目的ではない。
灯火管制のために、今でいうならグランドピアノのカバー。表が黒くて裏が真っ赤な緞帳のような重い布地のカーテンを、家々でガラス戸の内側にぶら下げていたのである。
こんなに明々と明かりを外まで放っていたら、憲兵が飛んで来たに違いない。
然りしこうして、昭和19年ごろの大都会は、夜間、街灯はもちろん灯されず、漆黒の闇にせねばならなかったのである。
ところが、先進国のアメリカは、日本に空襲に来たB29他の爆撃機も、灯かりに頼ってはいなかった。方南町にあった伯父の家には、最初に夥しい焼夷弾が投下され、その灯かりで次々に爆弾を投下した。
時代遅れのわがニッポンでは、灯火管制に汲々としていた。
ドラマでこの時代を描くのなら、いかに時代遅れといえども、庶民が体験したディテールは、ちゃんと守ってくれないと白ける。折角出来のいいドラマなのだ。
ディテールの杜撰さで、その時代を生きていた視聴者を落胆させないでほしいのだ。
趣里ちゃんが紅白歌合戦に出ないとか。余りにつまらなくてここ数年見ていなかった筆者が、今年は見ようかと思っていたのに、がっかりだ。(2023.12.30.)。
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