「関テレ(関西テレビ)は一味違ういいドラマを作る                      『エルピスー希望、あるいは災いー』は今期1番見ごたえのある作品である」

 完璧な美人の長澤まさみさんが、テレビ局の人気キャスターになる『エルピス』(フジテレビ・関西テレビ制作)が、面白い。
 長澤さんは『鎌倉殿の13人』(NHK)でも物語のツボを朗読しているので、今期のモテモテ女優である。
 この方は顔の造作が整っているだけでなく、上背があって(168センチ、男並みだ)スタイルもいい。まことに恵まれている人だ。
 エルピスとは、フランスの天文学者によって発見された小惑星のことで、ギリシア神話のパンドラの物語に登場する希望の化身の女神エルピスにちなんで命名された、とネット情報である。
 私は最初、エルビス(プレスリー)の言い損ないかと思っていた(笑)。
 大洋テレビの美人キャスター・浅川恵那(長澤まさみ)は、報道の敏腕記者、斎藤正一(鈴木亮平)と路上でキスしているところを週刊誌に撮られて、降格される。
 深夜のおバカっぽいバラエティに左遷されて、毎日を惰性で生きていたので、消化器も働かず、よく嘔吐し、水ばかり飲んでいる。
 新米ディレクターの岸本拓朗(真栄田郷敦)は、少女誘拐殺人事件の犯人として死刑判決を受けて服役中の松本良夫が冤罪ではないかと知り、浅川を巻き込むが、上司たちはケンモホロロで取り合ってくれない。
 局のヘアメイクの女性、大山さくら(三浦透子)は、少女時代、母親の連れ合いに虐待されて家出をし、たまたま救ってくれた優しいオジサンの松本が、殺人犯なんかではないと思っている。
 恵那の恋人(ヨリが戻っている)の斎藤は、報道局のエースとして頭角を現し、今や、副総理の身近で取材が出来るほどの大物記者になっている。彼は敵か味方かわからない男。
 浅川恵那と拓朗がぶち当たっているテレビ局の巨大な壁は、冤罪事件など、下手すると警察・検察、その上の民自党など、権力側の汚点になることなので、大きな力で押し戻される。
 第3回で印象的な場面がある。
 事件の遺族のVTRを局に蹴られた時、拓朗が言う。
 「正しいことがしたいなあ」
 若い一途な青年の偽らざる心境の吐露である。
 拓朗は、父は亡くなっているが母親も弁護士で、裕福な家庭のお坊ちゃんである。だが、かつて、同級生がイジメで自殺した時に、先生に助けを求めなかった負い目を長く背負っているので、正義に敏感で、正しいことをやろうと決心しているのだ。
 しかし、現実の社会はそう甘いものではない。
 「正しいことがやりたい」という主人公・拓朗のこのつぶやきは、物語の大きなテーマでもあると思う。
 ただ、敢えて言えば、冤罪を追う恵那と拓朗のすぐ傍の、同じテレビ局のスタッフとして、少女時代に死刑囚の松本に救われた大山さくらが働いているという偶然は、いささか都合が良過ぎはしまいか。
 少女時代は欠陥親に育てられ、親ガチャではめちゃ外れの大山さくらが、1流テレビ局のスタッフとして雇われるには、いくら下請けとはいえ、相当な教育も受けていなければ入れないはずだ。これから説明があるのかもしれないけれど、今の時点では飛び降りて自殺未遂で助かったところだから、まだわからない。
 さくらを演じる三浦透子さんは、アカデミー賞の『ドライブ・マイ・カー』で、寡黙なドライバーに扮した女優である。一種独特の翳のある個性派俳優である。
 『ドライブ・マイ・カー』では煙草スパスパのベテランドライバーを演じたが、実はあの映画を撮るまで運転が出来なかったそうだから、「いぇーい」と驚く。
 さて、冤罪事件がどうなるか予想はしない。
 長澤まさみさんがなかなかの芸達者である。華やかなテレビ局報道部のキャスターに返り咲いた後でも、ひとたびライトが消えると真顔にかえる。
 好きな男の前でも嘔吐してしまう肉体を持て余す、都会の女の哀しさがよく出ている。
 もう1人、真栄田郷敦くん。
 あの、千葉真一さんの息子さん。
 この頃、やたらに映像でお目にかかる。ご両親とも日本人なのに、目が奥眼で大きいのでハーフのような雰囲気が人気の秘密だろう。ガツガツと食堂でお皿に食いつく演技が、まだ下っ端の純粋さと焦りを良く体現している。
 下手をすると絵に描いたように薄っぺらになる冤罪事件のフィクション。最終回まで見ていないので断言はできないが、筆者が評価したいのは、照れもせず、真正面から「おかしいことはおかしい」、「疑わしいことは疑わしい」と糾弾しようとする2人の姿勢を描く脚本家の志である。
 かつて、筆者も高評価した朝ドラ『カーネーション』(NHK)の渡辺あやさんである。
 あの作品では、主人公が不倫をするところがよかった(!)。
 話は変わるが、今期の連続ドラマで、大人気の『silent』(フジテレビ)について。
 ある新聞の批評記事で、「名作の予感」とあったので、筆者はひっくり返った。確かに聴覚障碍者と健常者の恋愛を、繊細な会話で描いているところは評価するが、8年前の高校生の時ならまだしも、20代後半の社会人になっているのに、男性2人についてはロクに仕事をしている場面が出てこない。
 社会に出てしまえば、いつまでも愛だの恋だのにかまけすぎている暇はなかろう。特に男性は女性とは違って「7人の敵」と闘わねばならない。筆者は途中で挫折した。
 筆者には想と同じく完全な聴覚障害者の親しい友人がいる。ドラマの中の障害青年はどこか嘘っぽい。(2022.11.30)
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