「日本橋丸善の洋書部で、本物のマイケル・ジャクソンさんと握手した日本人女性は、筆者の他にいないと思う。マイケルさん最後の来日時の、嘘のようなホントのお話」

 1度、書いたかもしれないが、タイトルにあるマイケル・ジャクソンさんと握手した話は、正真正銘の実話である。
 ある休日に、夫と2人で日本橋の丸善書店に行った。
 夫は英語が堪能だったので、よく洋書部に行っていた。
 何の気なしに正面ではない方の入り口から、エレベーターで上にあがった。
 外が何となく騒がしいと思ったが、気にも留めず、スイスイと上がれたし、誰にも会わなかった。実は正面では客が入れないように規制していたのだが、我々は全く知らなかった。
 この日は特別な日で、Mに〇の字の丸善の正面はキャアキャアと騒ぐフアンの1団がいたのである。
 エレベーターを降りてから、夫と2人、廊下で立ち止まって、ふいと奥の方を見たら、外人の1団が歩いてくる。
 「えーーっ」と気が付いた。
 先頭がマイケル・ジャクソンさんであった。彼の後ろにガタイの大きな男性が複数人。ボディガードである。
 迂闊にも、筆者はクラシック好きで、世界一の大スターであったマイケル・ジャクソンさんの来日すらこの日まで把握してはいなかったのである。
 だから、びっくり仰天。
 われわれの他には誰もいない。
 角を曲がってマイケルさんの1団は、近づいてくる。
 夫と2人、金縛りにあったように直立不動である。
 5、6メートルぐらい先から、マイケルさんはジィーッと筆者の目を見て近づいてきた。
 手を差し出し、ニコニコしている。
 つられてこちらも手を出したら、握手してくれた。冷たい手だった。
 筆者は既に高齢だったのに、小柄だから子供のフアンと間違えていたのに違いない。
 東洋人の年齢はわからないそうだから、若い娘か子供と間違えてくれたのだろう。
 余りのことに「ボーッ」として、サインもせがまなかった。
 1瞬の幻のようだった。
 その後で、夫と交わした会話さえ今では全く覚えていないのだ。
 毀誉褒貶にまみれ、若くして亡くなったこの大スターを思い出す度に、フアンでも何でもなかった筆者なのだが、胸がキュンと痛む。
 日本では、当時、スキャンダラスなニュースばかりが喧伝されていたからである。
 フアンでなかったけれど、あの『スリラー』は格別に素敵だった。
 握手してくれた時の、あのくりくりした瞳は忘れられない。
 さて、そのマイケル・ジャクソンさんの伝記映画、『Michael マイケル』を見てきた。
 子供の時から歌が上手くて、ステージパパだった父親ジョセフ(コールマン・ドミンゴ)に、兄たちと『ジャクソン5』を結成され、ツアーに連れまわされるようになる。
 実際は10歳なのに、「聞かれたら8歳と答えろ」とウソまでつかされる。
 踊りながら歌うチビちゃんが可愛らしい。
 子役のマイケルはジュリア―ノ・ヴァルディ。
 筆者は、彼らが有名になってきて「8歳とウソが友人からばらされないのか」と余計なことを考えたが、この頃はまだSNSはないわね(笑)。
 4人のお兄ちゃんたちも学校は休み休みだったのか?
 ステージパパのジョセフや優しい母親、キャサリン(ニア・ロング)の描き方は平板だ。
 彼らが有名になるにつれて、ド貧乏の生活だった1家が、お金がじゃらじゃら入ってきたのだろう、家や調度品が豪華になっていくのが可笑しかった。
 車も当時のデッカイ奴(キャデラック?)に変化してゆく。
 大人になったマイケルを演じるのは、マイケルの本物の甥であるジャファー・ジャクソンである。
 肌の色は黒人であるが、整った美男子である。睫毛が長くて歯が真っ白。
 マイケルの歌やダンスのお稽古に2年も掛けたというから相当、監督(アントワーン・フークア)にしごかれたのであろう。
 筆者のマイケル・ジャクソンさんのイメージは、丸善で出会った時の印象とは大違いで、小児性愛とか顔の整形とか、スキャンダラスでちょっと不気味な情報ばかりが占めていたから、当作品の、いわばお目出度い成功物語は薄っぺらに見えた。
 しかし、この美しくてお人好しに見えるジャファー・ジャクソンさんを選んだ時から、
制作人たちは、「負の部分は描くまい」と決めていたのではなかろうか。
 世界に何百億人もいるマイケルのフアンのために。
 それは、それで、いいではないか。
 最後に圧倒的に続くマイケルのステージのド迫力!
 以前に見た『ボヘミアン・ラプソディ』の最後の数10分を彷彿とさせる。
 筆者は根っからのクラシック好きなのだが、不思議にこの映画の、最後の騒音公害並みの大音響がうるさくはなかった。
 但し、甥っ子ちゃんのジャファー・ジャクソンさんが演じるムーンウォークは、やっぱり、マイケルのそれとはどこか違うと感じたのである。魂、かなあ。
 わずか50歳でこの世を去ったマイケル・ジャクソンさん。
 よく似た甥のジャファー・ジャクソン君に演じられたことはよかったね。
 不思議だったのは、日本の歌謡曲さえ「騒音公害だ」と時々思う偏見の筆者が、この長大なアメリカの軟派音楽を、少しも「煩い」と感じなかったのは、この映画の功績である。
 握手したマイケル・ジャクソンさん、お星様。(2026、6、20)。
                 (無断転載禁止)