「『放送業界に捲土重来はあるか』という放送人たちの自虐?シンポジウム  2022年のNHK放送文化研究所 研究発表を聞く」

     

 例年、千代田放送会館で開かれていたNHK『文研フォーラム』が、コロナのお蔭でリモートになり、今年は自宅で1部参加することが出来た。
 昨年は家族の不祝儀でそれどころでなく、申し込まなかったら、リモート拒否の高齢者とでも思われたのか、今年は文研から直接の案内が来なかった。
 言っときますけどね、私は日本人があまりPCなるものを使っていなかった頃から、パソコンで原稿を書き、ツールとして愛用してきた人間である。なめるなよ。
 直接お知らせが来なくても、私は地獄耳、今年は他のルートからリモート視聴を申し込んだのである。
 ただし、3月2日から4日までの3日連日は忙しいので、無理で、興味があった4日のFとGの2テーマについてのみ視聴した。
 放送文化研究所は2021年に75周年を迎えた世界でも珍しい放送研究機関なので、テーマは幅広く、今年の総タイトルは「メディアは変われるか?」だ。
 私が視聴したF『転換点を迎えた私たちの生活とメディア ~「国民生活時間調査2020」から~』とG『放送業界に捲土重来はあるか? ~改革の突破口を探る~』の2つのテーマは、いずれもネット時代において、特に若者の新聞やテレビ離れに危機感を抱いている放送人たちからの発言である。
 1言でいって、Gが特に面白かった。
 Fの方は司会者のNさんが、まるでアヒルの水飲みのように、カメラと手前の原稿とを上がったり下がったり目線を移動しまくるので見苦しく、集中できなかった。質問の振り方の時ぐらい暗記すれば?
従って、Fについてはパスする。
Gは放送人3人と、外部の識者3人に司会者と、それぞれが語り合うスタイルだ。

① 放送人のAさんは北海道テレビ ライツビジネス部長。ライツビジネスって何のこっちゃというのが、私のレベルだが。Aさんはスーツをきちっと着ている女性である。

② 放送人のIさんはテレビ東京のプロデューサーでクリエイティブビジネス制作チームの部長さん、見るからにヤリ手らしい語り上手な男性。
 人気番組の『モヤモヤさまぁーず2』や、大大人気の『池の水ぜんぶ抜く大作戦』、『夢のオーディションバラエティ Dreamer Z』などの企画制作をしている。

③ 放送人のKさんはNHK富山放送局長というエライ人だが、若そうに見えるので、メールで出席者の年齢を教えてと投稿したが答えてもらえなかった。但し、入局が2003年だから予想はつく。
 この方は局内の硬派、『クローズアップ現代+』や『NHKスペシャル』などを担当してきたエリートさんだが、ある日、「あれっと思ったのだ」そうで、入局14年目の事だった。
 天下の『NHKスペシャル』が賞を取れなくなったとか。また、視聴率も下がってきたとか。さらに、番組が世間の話題にならなくなってきたのだ。要するに『Nスぺ』だぞーと胡坐をかけなくなってきたのである。なぜか?
 利口な彼はNHKが変わらないといけないと思った。
 過去の成功体験に胡坐をかき、偉い人が決めるという官僚的なシステム、「変わること」を想像さえできない絶望である。
 嫌ならやめるか、権限が得られるベテランになるまで待つか。
 でも、現実は局をやめてネットメディアに行く若手が続出していたという。
 KさんはNHKを辞めなかったが、会長特命プロジェクトという改革のアイデアの公募に応募して試験を受け、3段飛びで  富山放送局長になっちゃったのだ。やるねえ君。
 赴任してからが面白い。
 全部を正確に聞き取れなかったが、アバウト、田舎の富山の人は純朴で、5時に仕事が終わると6時には家に帰っていて 放送を見てくれるのだ。
 Kさんの周りの支店長とか2代目社長は、彼の同世代か年下である。
 みんなが「富山をよくしたい」と思っている。郷土愛のかたまり。
 私みたいに辛口で批判するやつはいないってことね。なるほど純朴だ。
 私の知人に1人だけ富山出身の男性がいるが、確かにとても優しくて純朴。富山県人のDNAだろう。私の周りの人間は  ヒネた1言居士ばかりだから、彼の優しさは格別に目立つのだ。
 富山の地元重鎮たちは、カネは出すが口は出さないって。うわ、理想的。
 Kさんは地元に地域貢献するために奮闘している様子。すんごいNHKのPRだった。

 他に3人の識者の人が発言したが、私には全然参考にもならず、感心もせず。特に早稲田大学学生のお嬢ちゃんが喋っていたが、文章がきちっと終わらず、「日本語を鍛錬し直してこい」と言いたくなった。若者に媚びるのはみっともないよ、丸井サン。
 自ら52歳だと明かした司会のMさんは、肩書が「メディア研究部 研究主幹」で、年がら年中国内メディアの最新動向を取材している人だそうだ。司会はFの人と大違いで上手かった。
 私がタイトルにつけた「自虐?シンポジウム」ではあるが、放送業界が衰退に向かっているという建前とは裏腹に、中身は意気軒高で、ここに出てきた放送人たちは、みんなが成功体験の持ち主ばかりである。
 若者がテレビを見なくなったと言っても、ロシアのプーチンさんの暴挙によって、朝っぱらからドンバチやっている恐怖の戦争映像は、大抵の人がデカいテレビ画面で見ているのだ。スマホの映像よりよほど迫力があるからである。本心ではこんな映像は見たくないが。
 『捲土重来』などとひねなくても大丈夫。私はテレビが今以上に衰退するとは思わない。これまでが儲けすぎただけである。謙虚になればいいのだ。(2022.3.10.)
                                      (無断転載禁止)