正式なタイトルは『NHK経営計画(2021-2023年度)について~経営計画を読んで放送の近未来を考える~』である。 私はリモートで視聴したが、会場に行くより、語る人たちのお顔がアップで映るので発言も聞き取りやすいし、表情がくっきりと見えて有益な時間を過ごせた。 放送人の会の会長である今野勉さんの挨拶があった。 次いで、討論に入り、司会は前川英樹さん。 声がよく通り、悠々とした捌き方の巧みな司会者である。いかにも業界人という感じの男性で、赤坂紳士の典型か。色気があって女にモテそう(!?)(笑)。 前振りとして、前川さんが今回のシンポジウムの開催意図を説明した。 まず、2021年1月にNHK経営委員会が発表した中期経営計画について、会長の前田晃伸氏が語った内容への疑問がある。端的に言うと、「コストカットして構造改革する。新しいNHKらしさの追求とは」つまり、「支出を減らしてスリム化する」という内容である。 2023年度に受信料を値下げするそうだ。 2025年にはラジオの3波を2波に減らす。BS波もBS1とBS2は1つに減らす。つまり、1波の削減である。これに対して、シンポジウム主催者は「経営の合理化で波をへらしていいのか」と疑問を呈する。公共放送は幅広く貢献するべきではないのか。 経営計画の骨組みに「支出を減らす」という言葉が多い。何で下げるのか。文化の質が落ちないか。政治的意図が働いてはいまいか。 放送人の会としての意見では。 ① AM波の整理・削減には反対 ② BS波の整理・削減には反対 ③ コストの削減とは即ち、職員たちの創造性を生かすことが下に置かれること。受信料は表現の自由に基づく言論活動を行うことと、創造性豊かな文化を提供すること、という使命を担っている。受信料はそのためにこそ使われなければならない。 ④ これは「誰のための経営計画か」 まことにもって、おっしゃる通りである。 パネリストは6人。 ① 砂川浩慶さん(立教大学教授) 「みなさまのNHK 」 というキャッチフレーズを近頃とんと聞かない。安倍政権以後、NHKは”伝えない公共放送”である。特定秘密保護法については、法案が成立したその日にやっと報じられた。つまり、審議中はほうかむりのままだった。伝えない放送局だ。 砂川さんは前田会長の会見の後で、毎日新聞の取材に答えて、「視聴者が置き去りにされている」と批判している。 砂川さんは肝心なこととして、NHKが必要なのではない。国民の「知る権利」に奉仕する、インフラを担う民主的な放送事業体が必要なのである、という。全く同感だ。 ② 石井彰さん(ラジオの放送作家) この方のお話は具体的で分かり易い。ラジオの3波は必要だ。災害時、1波は全国的 な報道、2波は外国人向けの原語ニュース、3波は安否確認。カナダなんか移民向けに日本語や韓国語でそれぞれ放送している。 ③ 相田洋さん(元NHKの有名プロデューサー) さすがに後輩には厳しい。前田晃伸会長をウィキペディアで調べた。東大法学部卒業 後、富士銀行に勤めた。富士銀と第一勧銀の合併後、みずほ銀行で出世した。融資先に対する貸しはがしで名を挙げたという人物だ。 番組を作る時に、事前に成功するかどうかなど分らない。保障もない。工業製品と違い放送番組はいくらでも手を抜けられるし、見た目には手抜きはわからない。しかし、ケチケチさせられると現場は荒廃する。いい番組など作れない。こんな会長には辞めてもらいたい。 1991年、私は相田洋さんから『電子立国 日本の自叙伝』という立派な単行本を全巻ドサッと送っていただいた。私が当時連載していた週刊誌のコラムで取り上げたらしい。今でも書棚に鎮座ましましている。副題は「8ミリ角の半導体をめぐる男たちのドラマ!」だ。 ④ 長嶋甲兵さん(制作会社のプロデューサー) 訥々とした語り口ながら、ある意味で私が最も共感したお話の内容である。〇制作委託会 社に著作権がないのはおかしい。〇NHKBSが出来た頃はある種の解放区だった。24時間番組で埋めるために海外から買った。局の人と対等に扱ってくれた。〇2000年のハイビジョンあたりから迷走が始まり、今やNHK組織ジャーナリズムの終りだ。〇8Kなんかいらない(賛成!)。例の東京オリンピック、河瀨直美問題についても言及した。 他に政府系肩書やら大学の学長さんやら、一体何を本職にしている方?と聞きたいような中村伊知哉さんと、元NHKで今大学の先生の辻泰明さんのお話は、横文字だらけで私が最も苦手な内容だったので、パスする。 この日はNHKの経営方針に物申すシンポジウムなのに、ヨイショするような内容のお2人は聞きたくなかった。 それよりも、会場の観客の方が質問に立ち、「NHKの経営方針について討論する場であるのに、何で現役のNHKの方が来ていないのか」と言った。全くもってその通りだが、司会の前川さんが、「出席を打診したが断られた」と回答した。 この体質は大昔から変わらない。私がコラムでNHK評を書いていた時、辛口で書くと「シーン」と無音。 褒めたら、ハードカバーの本を送ってくる、作り手からプレゼントが来る、の反響だった。 私も受信料は払っているのだから、今野勉さんがおっしゃる通り、注文する権利は有している。このシンポジウムの第2弾を期待したい。(2022.3.20.) (無断転載禁止)