「何十年ぶりかで、甲子園の高校野球中継を見ている」

 大昔、まだテレビ中継がなかった頃に、野球好きの私はラジオでよく高校野球の中継を聞いていた。中西太さんが「超高校級」と呼ばれていた頃のことである。昔だア(笑)。
 近頃、あまり見なくなっていたのは、プロ野球に夢中になるあまり、高校野球の選手たちの試合が物足りなく見えることと、炎天下の頑張りが痛々しくて、選手たちが気の毒で見たくなくなったからである。
 だがそれは真夏の大会のことで、春のセンバツは別であった。
 今年の春、何の気なしにテレビをつけると、亡夫が定年までいた新聞社を退職してから、9年間もお世話になり、経営情報学部長も務めた山梨学院大学付属の高校が出ていた。
 夫は生前、箱根駅伝とか高校野球とかに当校が出場していると、夢中になってテレビ中継を見ていたので、筆者もつられて付き合っていたが、高校野球では、山梨学院高校はいつも途中で負けてしまった。
 箱根駅伝では、優勝もしたのであるが。
 ところが、今年の春は違った。
 今年の春のセンバツで、山梨学院高等学校野球部は、あれよあれよという間に優勝しちゃったのである。心底驚いた。そんなに強くなっていたのか(失礼)。
 夫が生きていればさぞかし喜んだだろうと残念だった。
 彼の死後、ちょっと調べていただくことがあって、以前から存じ上げている大学学長秘書の方と電話でお話ししたりしていたので、筆者は優勝への祝電を打った。
 すると、後日、現在の学長さんたちのお名前で、ご丁寧なお礼状を頂いたのである。
 残念ながら夏の大会では予選で負けたので、甲子園には出てこず、山梨県の代表は東海大甲府高校だったが、ここも負けてしまった。
 応援する高校が消えたので、慶應義塾高校に乗り換えた(?)。
 筆者が大変お世話になっている有名な大出版社のご重役が、両国高校→慶応大学のご出身で、メールで今でもお付き合いがあるからである。
 その慶応が決勝戦まで行っちゃったからびっくりである。
 大昔の高校野球は地域格差があって、冬場に外で練習が出来ないから、北の方の学校はすぐ敗退する、とか、南国の四国地方が強い、とか言われたものだが、現在はみんな金持ちになって設備もいいので、地域差はない。
 その表れが今年も出ていて、準々決勝に八戸学院光星だとか土浦日大とか、準決勝に仙台育英とか、北の方の高校が残っているのに、昔の強豪校と言われた四国勢などは跡形もない。
 不祥事があった私学が消えたのは致し方ないが、今年の顔ぶれを見て、「なんか、北の方が多いなあ」と思ったのは筆者だけではあるまい。
 決勝戦ではどうなるか、スマートな慶応ボーイか連勝の仙台育英か。
 まあ、どちらも頑張れ。
 筆者の関心事の最たるものは、目下、マジック27の阪神タイガースである。
 マジックが出た翌日、負けてしまったので、「いつかのように、途中でマジックが消える無様はやめてね」と祈っていたら、2位の広島カープが負けたから、阪神のマジックまで1つ減って28になったので大笑いだった。
 岡田彰布監督が、近頃、お顔の色が悪いなあと思う。
 なまなかのストレスではないのだろう。
 8月18日の判定をめぐる猛抗議で、相当お疲れになったはずだ。筆者は音を消してサイレントで野球を見るので、抗議の言葉は聞かなかった。
 監督は粘りに粘って長い間、審判団と喋っていた。
 気の短い筆者は、「大リーグのように、胸ぐらをつかめ!」などと、腹の中で岡田さんをけしかけていたが、人格者の彼は粘ったが引き下がった。さぞ悔しかっただろう。
 「退場!」にならなくてよかった。
 その翌日19日、阪神6対DeNA 2で快勝して、岡田さんは破顔一笑。
 よかったよかった。
 そればかりか、20日にはサウスポーの伊藤将司くんが、スイスイスイーッと9回完投シャットアウト。笑っちゃったのは、スポーツ紙でもない大新聞が見出しに、『伊藤将 すいすい完封』だって。阪神 2対DeNA 0 である。
 阪神タイガースフアンなら誰でも知っている『アレ』について。
 先日、日本テレビのnews zero を見ていたら、『アレ』についてみんなが知らないのだ。
 「優勝」などと口にしたら逃げてゆくので、優勝と言わずに『アレ』だ。
 というより岡田さんが最初に「アレ」と言ったので、それ以来、『アレトーク』が流行る。
 キャスターの有働由美子さんが、「アレよ」としきりに訂正していて面白かった。彼女はエスコンフィールドまで追っかける筋金入りのタイガースフアンである。
 筆者もあの球場に行ってみたいが、もう交流戦はない。
 以前筆者は矢野監督やそれ以前のタイガース監督について、相当文句を書いた。
 素人の筆者が見ても、代えるべきところでピッチャーを変えず、代えなくていい、むしろピッチャーがまだ頑張りたそうなところで交代させて、後続が打たれる場面を何度も見てきたからだ。
 勝っているから言うわけではないが、岡田さんの采配で筆者は唸る時がある。
 さすがプロの考え方・見方は違うと感心した場面があった。
 ある試合の、1イニングの中で、岡田さんはピッチャーを4人も替えたのである。
 ちょっと投げさせてピンとその投手の出来やコンディションを瞬時に判断し、咄嗟に交代させる。バッターとの相性を判断する。凄いとしか言いようがなかった。もちろん彼の采配でタイガースは勝ったのである。
 『アレ』に向かってマジックを減らしてください、岡田彰布さん。
 今年は期待している。(2023.8.21.)。
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