最初に文句を1つ。
主人公の2人、万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)を、最後まで綺麗に撮りたいという作り手たちの気持ちがわからないではないが、彼らの孫たちがすっかり大人になっているのに、まだ、2人の肌はツヤツヤで、プリプリしていて、うんと若い時のまま。
髪の毛が少しだけ白髪になっているのは、どう見ても変だった。
しかも、その白髪も、場面によっては白髪の分量が多かったり少なかったり。
スクリプターがいないのか。
別に完全リアリズムでやれとは言わないが、最終週にきて、がっかりした。
こういうところ、日本のドラマ作りのアバウトさは興ざめである。
昔々、ハリウッドの映画作りのメイキング・ドキュメントを見た記憶があるが、女主人公が歳を取るにつれて、増えてゆく皺の一本一本を完璧に顔につけてゆく職人技を見た。
何十代には法令線がどうなる、何十代には首のたるみがどうなる、と研究されていて、それを忠実に肌に盛ってゆくのである。みるみる美しい女優さんが皺だらけの老女に変身していった。
テレビドラマでそこまでやれとは言わないが、万太郎サンと寿恵子サンは、孫が増えても2、3十代の顔をしていて、物語に没入出来なかったのである。
まあ、文句はここまでで終りとしよう。
全編、基本的には面白いドラマであった。
〇 理由の1つは牧野富太郎という、われわれ庶民でも知っている植物学者のモデルがいたことで、見る者に安心感を与えた。
牧野博士が文化勲章を取られたことは、筆者は何故か知っていたので、多分、当時、文化ネタとして大々的に報道されたのであろう。
ドラマでは文化勲章は出てこなかったが。
〇 理由の2つ目は、朝ドラが好きな1代記なので、非常に話が分かり易かったこと。
朝ドラの王道は女の1代記であるが、当作は「男の1代記」だった。
人間と人間の対立の構図が余りなく、人畜無害(でもないが)な植物が相手で、「『名もな
き草花』を愛でるご大家の坊ちゃん」は愛されキャラであったこと。
草花を愛する男性は当然、優しい人に違いないのである。
〇 理由の3つ目は、究極の愛妻物語であったこと。
実際の牧野博士が物凄い子沢山で、同じ女性(壽衛)に13回以上も妊娠させた人。
つまり、避妊の知識がなかった当時、下品な言葉で申し訳ないが、「陽が落ちると」やり
まくっていた性欲旺盛な亭主と、繰り返す妊娠を無事に続けられたフィジカルが強い妻とのコンビ。
当然2人は仲が良かったのであろう。
〇 理由の4つ目は主演の2人、神木隆之介君と浜辺美波さんの好感度が高かったこと。
筆者は神木君が好きなタイプではないが、長い俳優生活で、若いのに「てだれ」である。
浜辺美波ちゃんは、文句なしの美人である。ケンのあるツンとした美人ではなくて、万人に好かれる最大公約数のようなお嬢さんである。
男の観客にモテルのは勿論だが、女性の視聴者にも反感をもたれないタイプである。
誰も言わないだろうから、敢えて音に煩い筆者が言うが、浜辺さんの声がソプラノでないからいいのである。
彼女が歌う時はソプラノかもしれないが、少なくとも喋る声はアルト域であるから、「美人面して」と反感をもたれないのだ。
花柳界出身の母親に育てられた和菓子屋の娘という寿恵子の設定が、おぼこさと色っぽさを兼ね備えていて、浜辺美波ちゃんにぴったりだったこと。
〇 理由の5は、脇役にも恵まれたこと。
ピカイチは竹雄を演じた志尊淳くん。可愛いし、彼にはニコニコした笑顔でも、どこか陰を感じる。番頭の子という絶対的な身分制度の時代の中で、懸命に主につかえ、なおかつ、「しょうがない主」でも支え続ける悲しみ悔しさがよく出ていた。
ついでに、万太郎の姉の綾を演じた佐久間由衣さん。この人は負けず劣らずの美人だが、男勝りの色気がないタイプ。
酒蔵の第1子として生まれ、女は蔵に入れない掟があっても、理想の酒を造りたいという男勝りな儲け役。だが、彼女は基本的に演技が生硬である。
もちろん特筆すべきは、大店(おおだな)のドン。本家の女主である万太郎の祖母タキを演じた松坂慶子さんと病弱な母ヒサを演じた広末涼子さん。
息も絶え絶えな母のヒサが出てきた前後に、広末涼子さんとシェフの不倫騒動が持ち上がり、口が悪い奴は、「視聴率向上に貢献したんじゃないの」だって。(笑)。
ハテ、あの2人のその後はどうなったの?
東京大学関係では、植物学教室田邊教授の要潤さん。
笑っちゃったのは田邊教授が研究室で、1人ヴァイオリンを弾く。『シャーロック・ホームズ』の映像版の中で、ホームズがヴァイオリンを弾きながら瞑想するシーンにそっくり?
パクったナ。
さて、紙幅が尽きた。
他に主題歌『愛の花』あいみょんもよかったし、何より、タイトルバックの植物たちの写真や絵がとても美しかった。
空を飛ぶ主人公たちのアイデアも素敵だった。
筆者は牧野博士の記念館に行ったことはないが、1度訪ねてみたいと思う。
博士が愛したのが植物でよかった。これが「虫好き」なんかだと、筆者は絶対に見なかった。物凄い数の「名もなき草花」に学名をつけてくれた博士に感謝である。脚本・長田郁恵。
演出・小林直毅ほか。語り・宮崎あおい、さんたち。(2023.9.30.)。
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