長年のご苦労が認められた瞬間だった。 壇上で表彰された被団協の3人、いずれも一家言ありそうな面構えのおじ様たちで、存在感抜群だった。よかった、よかった。 筆者はこの時代を生きていたが、広島や長崎と同じ西日本に疎開していても全く情報は得られなかった。新型爆弾の噂が聞こえてきたのは数日たってからである。 新聞も遅配だらけで、庶民は生きるのに精いっぱい、今のようにTVはなく、ラジオはあったが、ほとんど誰も聞いていなかった。それよりも、出入りのお兄さんが、その日、食料をどれだけ持ってくるかが関心の的なのであった。 近代現代の戦争と違い、第2次大戦中の庶民は、戦争末期には、もうお上の方を向いていなかったのである。 今回の授賞式の映像を見ていて、1つ残念だったことがある。 3人の内の左端の代表委員・田中熙巳さんが、背広のボタンをかけていなくて、前がだらんと開いていたことだ。誰か秘書でもいなかったのか。 92歳というお歳から想像するに、奥様やお嬢様など、お身内の女性がついていなかったのだろうか、全世界に発信される授賞式の身なりをチェックする係がいなかったのか。 田舎の紳士で背広に慣れていらっしゃらないのか、ボタンを留めずに立ち上がったので、演説の壇上に向かう時にコードか何かが引っかかったし、背広の前はだらしなく開いたままだった。右のお2人はきちんとしていらしたが。 まことに残念である。 お話の内容は矍鑠(かくしゃく)として立派だった。 筋金入りの老紳士という雰囲気で、日本政府批判もなさっていた。 兎に角、委員会が被団協を選んだ時点で、平和ボケの日本人よりも、戦争が継続しているヨーロッパの人たちの方が、核の脅威を切実に感じているのだろうと感じたのである。 東洋の片隅で、継子扱いで細々と活動してきた被団協の方々が報われてよかった。 被団協、と聞いても「なんのこっちゃ」という日本人が多かったが、これからは皆が認知できるだろう。 さて、ドラマ評である。 『VIVANT』で、目を剥くようなスケールの大きい連続ドラマを世に送ったTBSが、今回もまた、壮大なスケールの群衆ドラマを作った。 第1回では、大群衆の動かし方に感心した。VFX技術がすごい。 長崎県の通称『軍艦島』・端島に、長崎大学を卒業して帰ってきた主人公の鉄平(神木隆之介)が、父親(國村隼)の反対にあいながらも島の炭鉱会社社員として就職する。 端島はそれ1つだけでお寺から病院から、個人のマンションから会社から、一杯飲み屋まですべて揃った、つまり、街として完結した島である。 筆者はテレビ番組コンクールの審査員として、1度だけ長崎放送に行ったことがあるのと、昔付き合っていた大学の友人が長崎出身で、独特の「シェンシェイ(先生)」発音が思い出にあることぐらい。当然、端島なんか見たこともない。 だけど、このドラマの端島でのロケーションの凄さには圧倒された。 案内によれば、系列局の協力があったそうだが、最初はフェイク画像かと思ったくらいの人間の動かし方であった。軍艦島を借り切って撮影したのか?! 鉄平の兄の進平(斎藤工)、飲み屋の看板娘・朝子(杉咲花)、謎の歌手・リナ(池田エライザ)、仲のいい友達・賢将(清水尋也)などなど多彩な人物が登場する。 第7回では、大きな炭鉱事故が発生して、最後は地下650メートル以下を水没させる。 社員の鉄平が引き裂かれる思いで行動する。 思い出すのは、筆者の年の離れた姉の夫が、京都大学の冶金科を出て、某鉱山の重役だったので、大牟田市の幹部社員用豪邸に住んでいた。 この頃、よく炭鉱事故が起きて、沢山の炭鉱夫たちが亡くなったのである。 エネルギーが石炭だった頃の話である。 脚本を書いた野木亜紀子さんに聞いてみたい。「なぜ、今、炭鉱なのですか」と。 一方、現代の話も並行する。2018年の東京である。 鉄平にそっくりの顔をした金髪の玲央(神木隆之介)は、自堕落な日常に流されているホストであるが、ある日、いづみ(宮本信子)という名の謎の老女に呼び止められて、結婚しようと言われる。 こちらから見ていると、鉄平と玲央は神木くんの1人2役なので、やがて2人の関係は血縁か何かで明かされるだろうと感じる。 筆者は謎解きに邁進するほどヒマではないので、ただ、楽しんで見るだけである。 何が驚いたと言って、『北の国から』で蛍を演じた女の子の中島朋子ちゃんが、鉄平と進平兄弟の母親のハルを演じていること。 どこかで見た顔だと思ったら、あの蛍ちゃんがお母さんだって! 純を演じた吉岡秀隆くんも、『Dr.コトー診療所』では、白髪頭の先生だもんね。長い時間が過ぎたのである。筆者が歳をとるはずである。 結論から言えば、『海に眠るダイヤモンド』は最終回まで、見る。楽しんで見る。 ニッポンが選挙で惨敗した自民党と公明党の、不安定な政府を作っている今、傲慢な安倍晋三政権のうんざりする時代から脱却して、明日がどうなるかわからない。 こういう時に、この『軍艦島』のワシャワシャした群衆ドラマは、誠に相応しい。 何故なら、はっきり言って、この先が読めないからである。 読めなくて結構。 真面目な日本国民は、これからも営々と勤勉に働いてゆく。1955年のこの炭鉱がある意味、原点のように感じるのは穿ち過ぎか?!(2024.12.11.)。 (無断転載禁止)