「新時代到来のフィギュアスケート男子と、21世紀と思えないホノボノ映画の『お坊さまと鉄砲』を見る」

 全日本選手権大会第2日の男子フリー、何が驚いたと言って、筆者のごときただのギャラリーにとっては、シニア新顔の登場で、しかも彼らが見事な表彰台2位3位でびっくり。
 まず、3位になった壷井達也くん、大学在学中の22歳。
 165センチだけれど、日本人フィギュア選手男子としてはスラリとして背が高く見える。
 筆者が大フアンだった高橋大ちゃん(大輔)も、先日までのエースだった宇野昌磨くんも、小柄に見えてソンをしていた。
 高橋大ちゃんがカナダのバンクーバー・オリンピックで銅メダルを獲った時、悲しいイタリア映画『道』の曲だったと思うが、可愛いスカーフをぴらぴらさせて喜んでいた姿が忘れられない。
 彼らの時代に比べれば、今は全体にドライ。
 壷井くんはショート・プログラムでは全体の14位だったのに、フリーではほとんどノーミスで仮の1位、最後の12人が次々に登場しても、「まだ、1位のままだよ」とあれよあれよ。
 結局、そのまま表彰台に残っちゃった。
 もっと、吃驚なのは、2位になった中田瑠士(なかだ・りお)くん。まだたったの16歳、2008年生まれというから、筆者の孫と同じだぁ(笑)。
 色白でノーブルな顔立ち、手足が長く見えると思っていたら、やっぱり、日本人と英国人との混血である。
 彼の名はジュニアやその前のノービスなどで有名だったが、シニア挑戦でいきなりの表彰台とは凄い。
 ショートもフリーも堂々の2位で、これまた、あれよあれよだ。
 王者の鍵山優真くん(21歳)は別格の強さではあったが、小柄で視覚的にソンである。 
  将来、中田瑠士くんは、鍵山くんを脅かす存在になるかもしれないし、あの、4回転王者のマリニンをやっつけてほしいものである。
 フィギュアスケート界もかつての王者たちが引退して群雄割拠である。
 そんな中で、37歳の織田信成くんが、相変わらずのファーッとした美しいジャンプを見せてくれて、実に楽しかった。4位入賞は立派過ぎる。
 泉下の織田信長さん、見たか?(笑)。
 冬枯れのテレビ業界で、フィギュアスケートはやっぱり黄金コンテンツである。

 さて、ここからは映画の話。
 『お坊さまと鉄砲』というなんか面白そうなブータン映画である。
 筆者がいつも参考にしている週刊文春のCinema Chartで、5人の批評家たちが全員☆4つをつけていたので見ることにしたのだ。
 映画館では、大きなパネルにメディアの批評コラムを満艦飾で貼ってあった。
 全体に大絶賛であるが、筆者は申し訳ないが、途中で数分間居眠りをした。
 つまらないというわけではないが、長閑な麦畑が眠気を誘ったのである。ごめん。
 ブータンといえば、我々の感覚では、高地にある幸せの国というイメージである。
 ワンチュク国王は日本にもいらしたニュースを覚えているハンサムさんだ。
 開口一番、画面いっぱいに野っぱらや麦畑などが広がる。
 真ん中にポツンと人影が1人。
 家もビルも何も見えない。
 山々に囲まれた高地の中には、こうした野原が続く人口密度の低い国だとわかる。
 この国に2006年、国王陛下が退位なさるというので、民主主義を導入するために選挙をやらねばならない必要が生じる。
 ところが、標高3,100メートルの高地にあるウラの村では、選挙とは何ぞやという村人がほとんどで、村人によっては自分の生年月日も知らない人間もいて、こりゃ大変だ。
 そこで、まずもって模擬選挙をやることになるのだが。
 一方、高僧から銃を2丁手に入れろと指図された若い僧侶は、鉄砲を手に入れるために奔走し始める。何で鉄砲なのか目的はさっぱりわからない。
 アメリカからいかがわし気な銃コレクターのロンが、ブータンには「南北戦争当時の貴重な銃がある」と聞いて、手に入れるためにやってきた。
 面白かったシーンは、模擬選挙に入れ込む夫が、小学生の娘とのやり取り。
 学校で必要がある娘のユベルが、「消しゴム買ってくれ」と父親に頼んであったのに、それを忘れてしまったのを見た妻のツォモは、かつての長閑で幸せだったこの国が、民主主義導入とやらで、変貌してしまうのを嘆く。
 今時、消しゴムが重要な小道具なのである。笑ってはいけない。
 さりげない場面だが、この映画の「幸せとは」主題をあぶりだしている。
 いろいろあって。
 ブータンにこの頃までに、テレビや携帯電話やさまざまな文明の利器(?)が入ってきている。笑っちゃうのは「007」である。多分ブータンの映画館でも007はヒットしたのであろう。
 最後は満月の夜に、村人が集まる投票所。
 高僧が法要を始めた仏塔の前には、大きな穴が掘られている。
 そこで高僧が始めたこととは?
 この作品は監督、脚本。パオ・チョニン・ドルジ。アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作品である。
 前作でも受賞歴のある監督は、国王陛下から勲章を授与されている。筆者の感想は各メディアの大絶賛まではいかなかったが、ユニーク賞である。(2024.12.22.)。
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