「NHK放送文化研究所の今年の文研フォーラムは、5講座とも、非常に面白かった」

 コロナの前までは、千代田放送会館という文藝春秋社と赤坂プリンスホテルの間の、お地味な施設で行われていたNHK放文研の発表会が、今年はリモートだったので、受講しやすかった。
 筆者は1昨年の大怪我以来、外出を伴うイベントはすべてパスしてきたので、久しぶりに文化の香り(?!)に触れて有意義ではあったが、とても疲れた。
 1講座が1時間半のものが多い。
 集中して視聴すると、記憶力の限界を超える。
 ガイダンス放送で、「録音、録画はお断り」と繰り返すので、気の小さい筆者は真面目にわが頭のみで記憶しようとするから、五感が働き過ぎるのである。
  無理だよ、みんなソラで覚えるなんて(笑)。覚えないと書けないし。
  視聴しなかった方のために、タイトルを書く。
  3月18日の2講座は、
  〇 ラジオテキストから読み解く戦前の放送
  〇 文研の調査が見つめた「テレビ」の”これまで”と”これから”
  3月19日の3講座は、
  〇 「避難の後押し」実際の行動につなげるには~災害時の”放送での呼びかけ”から考える~
  〇 南海トラフ巨大地震に備える~メディアは臨時情報をどう伝えるのか~
  〇 AI時代のメディアの可能性と課題
  どれもこれも関心が高いテーマである。過去のテーマには、「どうでもいいや」とつまらんものもよくあったから、今年も眉唾で構えていたら、1講座も聞き逃したくないものばかりであった。
  A はラジオテキストから読み解く戦前の放送 である。
  メディア研究部の4人のパネリストと進行のアナウンサー1人。
  1925年の「ラヂオ テキスト」という「ラジオ」が「ラヂオ」と書かれているところが面白い。しかも、1933年のテキストには『ブラジル語講座』もあった。
  つまり、『ブラジル語』とは『ポルトガル語』であって、日系人が移民として彼の地に渡っていたことを表している。
  全部をトレースできないが、例えば、語学講座で條件法の例文が出ている。
  「ある條件の下に於いてなれば起こるだらふと假定して云う形である。
   もし私が金持ちだったらこの土地を買ふだらふ。
   もし彼がブラジルえ行って居たら此頃成功して居るだらふに。」
  と現代だったら不思議な文語文としての例文がおかしい。
  お堅い語学だけではなく、家庭、趣味、婦人など、いろいろの項目があって、お点前している写真付き。子供番組もある。凄いのは、子供向けの目次。
  第1項がなんと、『第六十四回帝國議會が始まる』なのだ! 少國民を育てるんだな。
  時局が厳しくなったころの告知は、次の通りだ。
 【「ラジオ少國民」は来月號から親雑誌の『放送』に統合されることになりました。これは雑誌に使った用紙を儉約して、もっとお國で必要とする方へまはさなければならなくなったためです。長い間おなじみだった「ラジオ少國民」がなくなることはさびしいことには違ひありませんが、これもお國のためとがまんしていただきませう。】
  確かに戦時中、紙はなかった。
  筆者の1族の中に大金持ちの御用商人がいて、彼の財産のナガモチの中に、戦後まで「第○〇歩兵師団云々」と上質のキズキの紙に、赤インキで印刷された原稿用紙があった。
  学校に提出する用紙がないので、不要になった軍用のその紙は、当時の子供たちの宿題用のノートに使われたのである。
  後は省略するが、泣かせる話である。
  B  は文研の調査が見つめた「テレビ」の”これまで”と”これから”
  パネリスト3人と報告マンと進行マンの5人。
  われわれと同時代の考察なので、パスする。
  昔々、大阪弁でしゃべる生意気なクソガキだったパネリストの1人、丹羽美之くんが、東大の先生になって、言葉も東京弁になり、なかなかの論客になっていて驚いた。
  解説・分析も上手かった。
 C  は「避難の後押し」実際の行動につなげるには 
 D は南海トラフ巨大地震に備える
 といずれも、いつ起きるかわからない巨大地震についての考察である。
 年がら年中グラグラ揺れているような日本列島に住んでいるわれわれは、何時何処で巨大地震に遭遇するかわからない。
 実家の父は関東大震災の時に東京のド真ん中で体験したと言っていたし、阪神淡路大震災の時は、神戸に嫁いだ幼馴染の友人がご主人を亡くされたし、東日本大震災の時は、1度書いたが、夫と2人で奈良二月堂のお水取りを見学するために、奈良ホテルに泊まっていた。
 実にタイムリーなテーマであるが、主としてメディアの人間が、一般人を如何にして上手く誘導するかが議論された。
 Cのパネリストの1人、井上アナウンサーは、わが家ではニュースの度に「ウマヅラのジロちゃん」と親しみをもってお呼びしているが、さすがにチーフアナウンサー、滔々と解説して聴きごたえがあった。バリトンの声も聞きやすかった。
 最後のE AIについてはパスする。人類の敵になるかもしれないAIさんはその方面のプロにお任せする。
 敢えて言わないが、司会者が喋り過ぎてイライラした部門もあったが、今回のフォーラムは誠に有意義な内容でよかった。(2025.3.20.)。
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