とにかく、前作のテレビ小説、『おむすび』がつまらなかった。 稀代の駄作で、筆者は後半、我慢が出来なくて見るのを辞めてしまったほどだった。 キャストも酷くて、筆者が大好きな北村有起哉さんはいいとして、おじいさんが、「マツケンサンバ」の松平健さんと聞いた時から、ハハン、彼の人気いただきドラマだな、と白けたのである。 ドラマは俳優人気におんぶにだっこしたらダメである。 まず、脚本で人間を描かねばならない。 人間洞察が基本である。 スタートから、ギャルとかいって、お姉ちゃんの仲里依紗さんを無駄遣 いした。 独特のユニークな俳優さんを、下手なギャル言葉の犠牲にした。 従って、今回の『あんぱん』も、あまり期待しないで見始めたのである。 但し、脚本家が中園ミホさんである。 彼女はいい作品を書いていらっしゃるので、面白くなるだろうと薄々は期待した。 ところが、NHKさん、失敗がよほど怖いのか、今回のキャストの凄いこと! 他の作品ならば当然、主役か準主役を張るほどの俳優たちがゾロゾロ出ている。 松嶋菜々子さん。竹野内豊さん。二宮和也さん。阿部サダヲさん。 江口のりこさん。浅田美代子さん。吉田鋼太郎さん。戸田菜穂さん。 売り出し中の河合優実さん。まだまだいる。 それに、主役の今田美桜さんと北村匠海さんの2人。 ひと言でいうと、札束ドラマであるナ(笑)。 金持ちNHK。 まあ、いい。札束であろうと、面白ければ納得する。まだ第2週の途中であるが、中身が濃いいし、描こうとする意図が明確である。楽しみに見続ける。 1つの懸念は高知という舞台である。高知出身の女優さんが問題を起こしたばかりでゲンが悪い。関係ないか。 筆者は高知へは2、3度しか行ったことがない。 民間放送連盟賞の中国四国地区審査員として、高名なジャーナリストや映画監督などとご一緒したのである。坂本龍馬や吉田茂の銅像があった。 ドラマの舞台は御免与町、そこで石屋を営む朝日家と、医者の家系の柳井家の両家族の物語である。 今のところ子供の場面で、朝田のぶを演じる永瀬ゆずなちゃんは達者、柳井嵩を演じる木村優来ちゃんは寂しげな翳のある雰囲気の素晴らしい坊やである。 いい子役を選んだものである。 筆者はモデルのやなせたかしさんの現役時代を映像で知っているが、どちらかと言えば3枚目のマンガおじさんの印象しかなかった。 剽軽な語り口で、普通のおじさんだったが、脚本家の創作かどうか知らないが、このドラマの嵩くんは、相当複雑な家庭に育ち、幼くして孤独を抱えた少年に描かれている。 父親の清(二宮和也)は亡くなり、女手ひとつで子供を育てられないからと、下の子を養子に出していた高知の医者・柳井寛(竹野内豊)を頼って、東京から2日間かけて母親の登美子(松嶋菜々子)と一緒にやってきたのが出だしである。 しかも、スラリと背が高く、美人で派手な着物を着た登美子は、既に再婚が決まっていて、嵩には「すぐ迎えに来るから」と嘘をついて去っていった。 髪にコテでウエーブをつけた、この時代の流行髪型をして、真っ赤な口紅を塗り、ニコニコしながら小学生の嵩を捨ててゆく、母親であるよりも 「おんな」の登美子を、松嶋菜々子さんは一種背徳の匂いを漂わせながら印象深く演じている。 曼殊沙華(?)が両脇に咲き誇るあぜ道を、派手な中振袖を着て歩いてゆく日傘の母親・登美子に嵩は捨てられたとも言えるシーンである。 手前で手を振る嵩と千尋の男の子2人。 嵩はうすうす母親がちょっと出かけただけではないと勘づいている。 昭和20年代の母もの映画に、こんな場面がよくあった。 令和時代に作られた昭和2年の物語でも、やっぱり哀れを催す。 2家族の間に、接着剤みたいな「あんぱん」オジサンが登場する。 パン職人の屋村草吉(阿部サダヲ)である。 1個の「あんぱん」が10銭と吹っ掛けて、3銭で売る。 丸っきりフーテンの寅さんを頂いたようなキャラクターであるが、阿部サダヲさんが演じると、渥美清さんが演じた寅さんよりも、もっと知的である。 知的と言えば褒めているようだが、筆者には腹黒い感じに見える。 決して悪い意味ではなく、見かけよりも何かを計算している世渡り上手。 多分、これから主人公たちが大人になって、社会の荒波に揉まれた時に、「あんぱん」おじさんの人生経験がお助けマンになってくれるのではないか。 嵩坊やが描く絵が、うますぎるのと、大人による絵っぽいのが気になる。 また、石屋の爺さんにしては、吉田鋼太郎さんの黒々としたヘアースタイルが都会的で若すぎる。一方、婆さんの浅田美代子さんや嫁の江口のりこさんたちは、まさに適役だ。 阿部サダヲさんが、朝のトークショーに生出演した時に、ファックス投書が多くて驚いた。 若い人たちの人気ぶりにあやかって、ちゃっかりドラマの接着剤として阿部さんをキャストしたNHKの計算はバカ当たり。 これで、高知のゲンはつきまくり。 「あんぱん」が「アンパンマン」になるまで、当方も楽しませてもらいましょう。 大人の主人公たちも負けずにやれ(2025.4.10) (無断転載禁止)