ゴールデンウイーク真っ盛りの5月3日、午後2時から4時までの2時間、たまたま聴いたNHK FM放送の『クミコの時間』がとても面白かった。 筆者は、申し訳ないが、シャンソンについても、クミコさんについても、格別のフアンではなかった。 たまたま、友人の1人、築地の場外で卵焼きの会社を経営していた女性が、無類のシャンソン好きで、銀座のシャンソニエで発表会をやるから聴きに来い、と誘われて、行ったのがこの世界を覗き見るきっかけだった。 彼女は、とても筆者によくしてくれて、大晦日には、本格的な築地場外の卵焼きを、山のように持って来てくれたのだが。 本人は50代で進行がんに罹患して亡くなってしまった。 筆者は少女の頃からのクラシック音楽好きで、大学時代は授業よりも、〇〇大学古典音楽鑑賞会というサークルの主で、以来、友人関係も上に3人いた兄姉たちもみんなクラシック好きだったから、軟派の音楽については愛好家とは言えなかった。 しかし、歌詞が聞き取りにくい近頃のはやり歌には閉口するが、軟派の音楽についても全く偏見はなくて、音楽ならばみんな好きなのである。 自宅で、ほとんど毎日、エフエムやインターネットのクラシック放送を聞きながら仕事をしている。 5月3日、GWとあって、出かける先はあったのだが、少し体調も悪く、NHKのFM放送を付けて聴き始めたら。 たまたまつけたのに、この番組はNHK FM肝いりの番組だったらしく、タイトルは『シャンソン100年物語~ラジオとともに育った歌~』という特別番組だった。 道理で面白かったのである。 メインはクミコさん。ゲストは井上芳雄さん、加藤登紀子さん。と、眞下貴NHKアナウンサーとピアニストの大貫祐一郎さん。 フランスでは歌のことを普通名詞でシャンソンと言うが、日本での「シャンソン」は、ただの「歌」ではなくて、「シャンソン」という特別のジャンルの歌のように扱われている。 まあ、それはどうでもいいが、日本での「シャンソン歌手」は、特別のシャンソン歌いのようによばれた。古くは越路吹雪さん。 番組ではまず、ルシエンヌ・ボワイエの『パルレ・モア・ダム―ル』が話題に上がる。 1935年にパリとラジオの生中継をしたらしい。へーえ。 戦後、大きなきっかけになったのは、何と言っても、宝塚出身だったコーちゃん、つまり、越路吹雪さんが歌った『愛の讃歌』からのシャンソンブームである。 1953年に越路さんが録音したそうだ。 筆者は彼女の横を向いて歌う独特のパフォーマンスに関心はあったが、残念ながら生コーちゃんを見たことはない。 男勝りのアルトで、越路さんの声は決して美声ではなかったのに、得も言われぬ魅力があった。若くして病死されて残念だったが、筆者は彼女のピアノ伴奏をしてらした内藤法美さんと恋仲→ご夫婦になられて、よかったと思ったのを記憶している。 もう1人、シャンソン歌手で忘れられない方がいる。 岸洋子さん。 東京藝術大学の声楽を出て、シャンソン歌手になった大柄な方だったのに、膠原病で若くして亡くなられた。 当時、音楽団体にちょっと関わっていた筆者は、岸さんの余りの上手さに驚いていたら、 同じく藝大出身の男性歌手から聞かされたのは、「岸さんはシャンソンを歌ってるけど、オペラ歌手としても成績はよかったんだよ。身体か弱くてオペラに行かなかったけどね」。 ガタイの大きな女性だったのに若死になさった。 筆者は彼女が新宿の、今はない厚生年金会館で行ったリサイタルを聴いている。 凄い実力歌手だったのに、剽軽で、ステージで歌の合間に突然、山形弁で喋り始めて、会場は大爆笑! 彼女は山形県のご出身だったのだ。 スラリと背が高くて、知的な美貌で、歌がめちゃ上手いのに、突然おかしいことをする。 岸さんには長く生きて大歌手になってもらいたかった。 さて、番組では『愛の讃歌』のオリジナル歌手、エディット・ピアフについて語られた。 聴き比べをする。 美輪明宏さんの『愛の讃歌』は朗々たる歌いっぷりで、ピアフに近い。 美空ひばりさんの『愛の讃歌』は、可愛らしい少女のような歌い方である。 エディット・ピアフの恋人が飛行機事故で亡くなった話は有名であるが、加藤登紀子さんも、ご主人が亡くなった後、1年間も歌えなかったとか。 歌手も大変な職業である。 80歳を過ぎても現役バリバリの加藤登紀子さん。 70歳になるクミコさん。 そういえば、筆者は7月1日にオペラシティのリサイタルホールで行われるクミコさんの演奏会チケットを買っている。ゲストも同じく井上芳雄さんである。 格別のフアンでもないのに何故買ったかと言うと、筆者にはPC上、公演の案内が毎日山ほど来るのである。 クラシックについては別ルートからチケットを買うが、軟派ジャンルでもいいものは聴きたい。楽しみである。 たまたまつけた『クミコの時間』の「シャンソン特集」は、穏やかな休日の午後に相応しい、品のいい内容で楽しめた。 生公演も大いに楽しみたい。(2025.5.10) (無断転載禁止)