戦車が地上を走る光景、女子供がシェルターに避難する光景、避難民が国境を出るために長蛇の列を作っている光景。テレビに映る今回のウクライナが攻め込まれている戦争画像を見ると、私は物凄く違和感がある。 まるで第2次世界大戦時の地上戦みたいだからである。 昔はシェルターと言わず、防空壕だったけれど、時代が逆戻りしたようだ。 第2次世界大戦以降の大きな戦争の、テレビに映る光景は、どれもがかつての太平洋戦争とは様子が違っていた。 まず、1965年から1975年まで、10年も続いたベトナム戦争は、そもそもテレビ中継には向かないゲリラ戦だった。大学の同期の友人が、テレビ局から派遣されて従軍した体験談を、帰還後にいろいろ聞いた。 「暑かった、泥まみれだった、臭かった」などと、閉口した体験ばかりだったように記憶する。戦争だから当然ではあるが。 彼は同期の中で1番若かったのに、1番早くに亡くなってしまった。従軍したのが何か命を縮める原因になったのだろうか。私も彼の葬儀に参列した。 彼は新聞記者になりたくて卒業時に朝日新聞を受けたのだが、面接でドジなことを言って落とされて、「おれ、朝日に惚れてますから、なんて言っちゃったんだよ」と自虐的に話していた。 自分の会社を受けに来て、「惚れてますから」と言った就活学生を落とした朝日の重役の自信家ぶりも相当なものだ。当時の朝日新聞は飛ぶ鳥を落とす勢いだったからナ。 今の凋落ぶりは隔世の感がある。 つい先日、朝日新聞から電話がかかってきて、「今回、この区で1カ月間、無料で朝日新聞をお届けしますので」とエラソーに女の人が言った。 私は、「わが家はこの区の本局の中で、個人の1番郵便物の多いうちですので、ポストが一杯になりますからお断りします」と答えたら、女の人は憤然と電話を切った。 「有難うございます」とペコペコするとでも思ったのだろうか。 家のダンナは毎日新聞の記者だったよー。 さて、朝日に落ちた友人は、1年留年して、翌年にテレビ局の社員になったのである。 ゴリゴリの左翼思想の持主ではあったが、いい奴だった。 入学時、最年少の現役の1人だったから生意気で、最初にクラス会で自己紹介をする時に、1人ずつ前に出て喋るのだが、彼は登壇すると開口一番のたもうた。 「東大にはロクなメッチェンがおらん」だと。 私のクラスには女が3人しかいなかった。 ロクなメッチェンでなくて悪かったわね(笑)。 次いで、1980年代のイラク・イラン戦争は、場所が遠いことと、複雑な中近東の事情があって、あまり関心は引かれなかった。 1990年の湾岸戦争は私が大週刊誌にコラムを連載中の出来事だった。 暗い画面にチカチカと高射砲(?)か何かが光る「人間が映っていない」特徴ある画面で、いかにもハイテク戦争の印象が強かった。 遠い国での出来事とピンとこなかった上に、映像的にCG画面のようで、夢の世界の出来事みたいに切実感がなかった。 しかし、否応なく戦争の記事が中心になるので、テレビ中継の視聴には苦労した。人間の映っていない戦争画面に批評も何もないのであった。 それ以後、最も恐怖と関心を覚えたのは、アルカイダをはじめとするテロリストとの闘いである。2001年の9.11に始まる国際的テロ集団との戦争(?)が続いていて、地上戦などの戦争は表現は悪いが今回が久しぶりである。 それほど、今の国際関係はネットまみれで戦争が出来にくい時代だということだろう。 にもかかわらず、まるで第2次世界大戦当時のような地上戦に突き進んでしまったロシアのプーチンさんは、ちょっとおかしいのではなかろうか。 取り巻きだけに囲まれて、ほぼ独裁国家のような体制の中で、裸の王様になっているのではないのだろうか。 柔道が好きな小柄な方で、元KGBと聞くと恐ろしいが、フィギュアスケートの美人お嬢ちゃんを抱きしめる写真を見たことがあるが、私はそんなに悪い人には見えなかった。 それなのに、戦争をおっぱじめるとは普通じゃない。お年を召して少し視野が狭くなってきたのか。 プーチンさんは1952年生まれであるから、和暦で言えば、昭和27年生まれである。つまり、昭和20年に終わった太平洋戦争当時には生まれていない世代だ。 彼は本当の戦争を知らないと言える。朝鮮戦争も彼が生まれる前だ。 ペレストロイカのソ連崩壊時には33歳の働き盛りだが、それ以前のソ連邦が健在だった時に、KGBという体制の中でうまい汁を吸った体験を持っているはずだ。 ソ連邦よ、もう1度とどこかで思っているのではないのか? これを書いているたった今、ウクライナとロシアの停戦交渉が始まったばかりである。 早く、戦争が終わることを祈りたい。 私は元コメディアンのウクライナ・ゼレンスキー大統領が、暗殺されないかとハラハラしてもいる。 聞くところによると、ウクライナのあちこちに、ロシアのスパイや息のかかった工作員たちが潜入しているというではないか。 ロシアはまだまだ恐ろしい国で、反体制派のジャーナリストや関係者が、毒を盛られて殺された事件を忘れてはいない。あの、若くハンサムで、のどかな顔をしたゼレンスキー大統領が悲惨な目に遭わないように願いたい。 とにかく、早く停戦せよ。(2022.2.28) (無断転載禁止)