「今年もリモート審査になった、広告電通賞フィルム部門(旧テレビ部門)の投票の真っ最中である」

 戦後の昭和22年12月から、延々と続いていて、世界に冠たる広告電通賞の選考が、今年は去年に続いてリモートで行われている。
  自宅で、パソコン相手ににらめっこして、応募作を必死で視聴し、慌てて投票して、瞬時にその結果が事務局の元締めに送られるのである。余りにハイテクでイメージがわかない。
  6月の7日から25日までの間に、私はフィルム部門CMの377本を視聴しなければならないのだが、ふぅーっ。時間にしてどれぐらいか。
  えーと、ならして30秒×377本として・・・。
  中には180秒という長尺ものもあるし、スポットならば15秒だし、いろいろだ。
  一昨年までは汐留シオサイトの電通本社大会議室で選考が行われていた。前に大スクリーンが垂れ下がり、横にはテレビ画面の大きい奴が並び、それらに次々と候補CMが映し出されて行く。配られている手前のリストに秒単位で評価を書き込み、1部門が終わったら「ハイ、次ぎ!」と流れて行くのだ。油断も隙もならない。神経を研ぎ澄まして内容をチェックするので、相当疲れる。
  休憩時間も短いので、お茶やお菓子をホワイエに用意してくださってあるが、トイレに行くと時間が足りなくなる。でも、自宅で燻ってやるリモート選考より、遙かに楽しかった。
  リモートの審査では、机上に候補作の紙のリストがなくて、ネット上のリストだけなので、何となく慌てる。せかせかするのだ。
  1本1本にゆっくり対応して、投票に値するかどうか考え、一応いいものには「投票する」にレ点を入れておけば、その部門のすべての作品を審査し終わった時に、選ぶ本数が多すぎたら多すぎると指示される。だから、慌てる必要なんかないのに、何となく慌てるのである。
  つまり、心理的なものである。
  ここが紙媒体に何十年も馴れた選考委員の習性(笑?)のおかしい所で、例えば、昨年から新しく選考委員になった方がいるとすれば、その人は「そういうものだ」と最初から対応するから何ともないと思うだろう。
  ところが、古株選考委員にとっては、大いに緊張する場面なのである。
  しかし、1つ断っておくと。
  私は、世間にパソコンが普及していなかった頃から、パソコンで原稿は書いて送っていた。それ以前に存在したワープロなるものの使用期間には余り馴染めなかったからだ。
 家族が新聞社にいた時には、会社で1番早くパソコンを使い始め、後に大学に転じてからは「電子計算機センター長」なる肩書をもって教えていたので、私も女のくせに早くからPCには慣れたのである。
   それなのに、ああ、それなのに、リモート審査には何故か慌ててセカセカする。
  今回の選考には、フィルム部門がAからJまで10部門あり、A部門には30以上もの各社のCMが加わっている。
  Aは「商品Ⅰ」として、ビール会社、調味料会社、製薬会社、ラーメンなどを作っている会社、あるいは、コーラなどの飲み物の会社、お菓子会社がぞろぞろ。
  日常テレビでよく目にする大企業がほとんどだ。
  アサヒビール、味の素、大塚製薬、キリンビバレッジ、サントリーホールディングス、日清製粉・・・・・不二家、明治、森永製菓、ロッテetc.
   総タイトルは〈食べたい・飲みたい〉である。いわば食品関係の花形である。
  Bの「商品Ⅱ」は〈使いたい・持ちたい〉というタイトルで、石鹸、カード、ヘッドホン、ランドクルーザー、ベッド、歯ブラシ、ブラジャーとかなり商品ジャンルが幅広い。
  いつも思うのだが、こういう分類をする苦労は並大抵でないはずで、消耗品の石鹸と車のランドクルーザーが同部門というのも相当大胆な分類である。分けた人の苦労が偲ばれる。
  Cはサービス・文化部門で、これは分かり易い。
  一方ではサービス業、地方自治体、消費者金融、生命保険に損害保険、映画製作委員会、携帯スマホ会社、テレビ局もあり、なるほど、映画は文化で(残念ながらコロナで開店休業だが)、一方、お金を貸してくれる金融会社はサービスなのだろう。
  Dの企業・公共はもっと分かり易い。
  「うちはこんなに社会貢献してますよ」とか「堂々たる基幹産業ぶりを示そう」みたいな重厚長大が売りのものもある。全部でこの部門は70本以上もあり、まだ視聴していないが、見る前から「ご苦労さんでした」と自分に言いたくなる。
  さて、EとFはスポット部門である。スポットは長さが15秒だが本数が多いので、上期と下期に分かれている。内容についてはパスする。要するに15秒で商品名を聞かせてホイ。
  反対にGとHは長い長いCMで、長尺ものという。長尺のⅠは120秒から180秒までの長さのCM。長尺のⅡは180秒超から360秒のもの。つまり、長尺ものCMは6分間もやっているのだから、これはもう小さなドラマ並みである。今は選考の途中なので、具体的にこんなものですよ、と言えないところが弱い。
  最後のIとJ部門はシリーズⅠとシリーズⅡで、シリーズとは同一商品について、違うバージョンのCMを纏めて3本見るのである。
  シリーズⅠは180秒までのもの、シリーズⅡは180秒から600秒まで。600秒とは10分も同じCMをやってるの? ということ。早く見てみたい。
  これがフィルム広告部門の全部で、トホホ、私はまだ3分の1しか視聴できてない。
  と、思ったら、後、1週間ですよ、的な注意メールが来てしまった。つまり、私の選考が進んでいないのがバレてるわけで、ドキッとする。私はやり始めたら速いのだが、この所、体調が悪くて、医者通いに時間を取られている。どうも木の芽時から梅雨時はダメだ。
  はい、それでも私は頑張ります。
  広告電通賞事務局 フィルム広告部門 担当者様
  必ず、期間内に選考結果をお送り申し上げます。ちょっとお待ちを。(2021.6.19)
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