「吉田正尚さまさまさまさま様様」

 言わせてもらえば、私は、歳がバレるが、『神様、仏様、稲生様』の時代からプロ野球フアンをやってきた人間である。
 西鉄ライオンズが日本シリーズで3連敗して、敗色濃厚の夜に、三原監督が選手を引き連れて飲みに行き、その後、4連勝して勝ったという、伝説の試合の時に、私は友人たちとラジオを聴きながら麻雀をやっていたのだ。
 だから、今回のWBC準決勝についても、ひと言感想を述べる資格があると思う。
 朝から、テレビをつけてWBC準決勝戦、メキシコ×日本の試合を見ていた。
 メキシコの選手たちが、髭面のオッサンが多くて見るからに恐ろしい。
 最初のピッチャー・サンドバルなんて、哲学者みたいに端正な顔をして、コントロールが良くて、とても打てるとは思えなかった。
 これで若者か? 36歳だ。
 「大リーガーがぞろぞろいる」とアナウンサーたちがメキシコを褒め、確かに壮年のように大人びたメキシコ選手たちは、格段に体力的に勝っているように見える。
 つるっとした日本人選手たちが、少年のように感じられ、「大丈夫かなあ」と心配になる。
 特に若い佐々木朗希君の白い顔が、痛々しい。
  どんなに「怪物」と言われていようと、高校時代の有名ぶりと、いきなりの世界1を決める大会とでは緊張度が違う。
 彼が完全試合をやった時、偶々、私は試合を見ていたが、この人はあまり喜怒哀楽が顔に出ない。完成した時にニコッとしたけれど、表情はおとなしめだ。
 今回は、私が「まだ、たった21歳なのに」と母親のような気持ちで見ていたからか、佐々木朗希君が、口呼吸をしているのが気になった。
 やっぱり、プレッシャーで酸素が足りないんだな、と変なことを考えた。また、口が乾くんだな、と同情もした。
 案の定、3ランを打たれてしまった。でも彼は気に病むことはない。
 見ている私は、この回で、「ヤバいぞ、メキシコ」と自信がなくなってきた。
 侍ジャパンが満塁を複数回逃したために、益々「ヤバいぞ」と思った。だから、正直に白状すると、途中で視聴を辞めようかと思ったくらいである。気が弱い(笑)
 それどころか、私の脳は浮遊を始め、マンガの様な事を想像し始めた。
 3振ばかりする5番の村上宗隆君が、今日も打ってくれるとは思えず、どん詰まりになって、2アウト・フルベースで彼に打席が回ってくる。
 2番3番4番がヒットと4ボールで塁を埋めたのである。
 3振男、「何とかしろ―っ」と私はお腹の中で叫ぶ。ダメだと思いながら。
 外角低めのボール球を振って、彼は2ストライクと追い詰められている。
 その時だった。
 不振だった村上くんが、外角低めの直球を打った。
 その瞬間に、彼は56号ホームランの時のように、綺麗な歯並びを見せてニコッと笑った。
 球は放物線を描いて、左翼スタンドの上段に落下した。今回は左翼手のアロザレーナにキャッチされない高めだった。日本人サポーターは総立ちだ。
 「だめだめ、こんなマンガみたいなことは起きない起きない」と私は夢想から覚めて、やっぱり、見るのを辞めようかと思った。
 9回の裏に、ホームランではなかったけれど、似たような村上くんの活躍があって、諦めていた準決勝に勝った。夢想とは違っていたが、やっぱり村上君に華が咲く。
 夢想もしてみるものだと思った。
 村上くんついでにもう1つ、私にはサヨナラの彼より評価が高い人がいる。そう、タイトルにある通り、今回のWBC戦での、最も評価されるべき人は、吉田正尚さんだと私は思う。
 準決勝での3ランホームランよりも、予選の時の彼の活躍がなければ、侍ジャパンが4連勝はしなかったと思う。
 打点が全チームのトップ(13)でわかるように、彼が出てくると必ず何とかしてくれる。
 背がプロ野球選手にしては小柄な173センチなのに、堂々たるホームランバッターでもある。今日の3ランも、最初はホームランを打ったとは思えなかったし、球の行方もテレビではよく見えなかった。
 愛称が「マッチョマン」らしいが、私は吉田正尚さんが肉体派というよりは、知的で頭がいいのだと思う。東京六大学ではなく、青山学院大学の学生だったから、東都六大学出身で割食っていた。彼の打撃を見ていると、肉体が反応する村上君とはタイプが違うと思う。彼なりの打撃理論にのっとって打って、高打率を挙げている。
 大リーグでも大活躍すると思う。山椒は小粒でもピリッと辛いのである。
 歯が妙に白いのが特徴的だ。清原さんみたい。
 有名選手ではあるけれど、私はこれまでオリックスが低迷していた頃に、吉田さんにあまり関心がなかったので、今回の大活躍の目覚ましさが際立って嬉しい。
 さて、WBC戦も大詰め。
 明日の決勝戦がどうなるか。
 絶対に勝ってほしいが、ここまでくれば、勝つと思う。
 今日の逆転劇には、神がかりみたいな場面もいろいろあった。
 スーパースターの大谷翔平くんの、雰囲気を盛り上げる掛け声とパフォーマンス。
 わが愛する阪神タイガースの中継ぎエース・湯浅京己(あつき)君の頑張り。
 今日は打てなかったけれど、愛すべきヌートバー君。
 明日の朝は、また、テレビにかぶりつく。
 絶対に優勝してくれ。栗山さん。
 サッカーよりも絶対に複雑なプロ野球の方が面白いのだ。
 みんな、ぐわんばれ! (2023.3.21)。
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