「親友がコロナに罹った!」

   3週間ほど前、大学時代から学科も同じだった親友からショートメールが来て、『〇〇(病院の名前)コロナ 手厚い介護を受けています。あなたも気を付けて』と書いてあった。
  私は驚いて、『えーっ。貴女コロナにかかったの? 入院? だから言わないこっちゃない。遠くまで行ってたからよ。お大事に』と返信した。
  彼女のご主人は難病で施設に入っていて、1人暮らし。淋しいので、下の息子さんが住んでいる遠い藤沢まで、毎週毎週、月曜日から週末までその息子さんの家に泊りに行く。
  とても大事にされるので快適で、毎週4、5日分の下着や着替えをスーツケースに詰めて都内から出かけていたのだ。その息子さんには嫁と小5の息子がいる。
  ところが、毎週の移動が体に堪えたようで、春先から全身にブツブツが出来る帯状疱疹にかかってしまったのである。
  私は、「抵抗力が弱っているのは、毎週都内から藤沢まで行くのが体に堪えているのではないの」と電話で話したら、「自分でもそう思うが、息子の所へ行ったら楽しいから」とブツブツが痛い痛いと言いながらも毎週出かけていた。
  しかし、帯状疱疹が治りきらないうちに、今度はコロナに罹ってしまったのだ!
  だから言わないこっちゃない。
  そもそも、品川から藤沢まで公共交通機関で移動するのはコロナがうつされる危険もあるし、帯状疱疹の抵抗力の弱った体で良くないと私は心配していたのである。
  「1人が快適よ」などと言っていたのは強がりで、やっぱり息子さんの家がよかったのだ。
  彼女は40代の時に乳癌に罹り、身体の片方のリンパ腺や骨の一部も手術で取った。だから体の1方が不自由である。
  40代の頃、ある時顔色がどす黒くなって、見るからに病人という感じだった。私は彼女を失うことに怯えたが、それからウン10年間再発もせず、現在も元気な毒舌家である。
  「あの先生が完璧に癌の部分を取ってくださったから再発しないので、とっても感謝している」と彼女は常々言う。乳癌というのは再発しにくい病気なのだろうか。私は癌体質でないのでさっぱり関心がない。
  さて、『〇〇 コロナ』のショートメールが来てから13日目に、彼女から嬉しい退院の知らせが来た。案外早かったから、軽かったのであろう。
  入院中、突然、『順調!美味しいもの食べたい!!』などと元気なメールをよこした彼女は、それでも、24時間パルスオキシメーターをつけられていて、いっちょ前のコロナ患者だったらしい。よくぞ帯状疱疹患者が軽く済んだものである。
  入院患者だった彼女から、病院での模様をいろいろ聞きたかったが、身体が弱っていて、電話での話中でも、スマホを持つのが疲れるというので、私は話すのを我慢していた。
  その内徐々に彼女がしゃべりだした。
  第1声は、「貴女もワクチンを受けなさい」だった。
  以前書いたように、私は薬過敏症なのでワクチンは受けないつもりだった。
  だが、同じように息子さんに「受けるな」と言われてワクチン反対派だった彼女が豹変したのである。
  「退院の時にね、看護師さんに言われたの。コロナで入院なさっても、まだ危ないから退院したらワクチン接種してください」といい、「貴女もやっぱり受けなさい」と命令されてしまったのだった。ずいぶん変わったものだ。
  「退院の時には侘しかったわよー。病室から何時も見えてたんだけど、正面玄関にタクシーがずらりと並んでいたから、私もそこに行こうと思っていたら、ダメダメと衝立の前で止められて、こっちへって裏玄関に案内されたの」
  「大病院だから裏玄関だって立派なんでしょ」と私が聞くと、「全然そうじゃないの」
  「えーっ。そうじゃないって?」
  「なんか凄く侘しくてね。タクシーなんか1台もいないのよ。そんなところに放り出されて、人っ子1人いなかったわよ」
  彼女は結局、すごすごと病み上がりの身で荷物を引きずって大通りまで歩いたそうだ。
  やはり、コロナ患者は差別されるからタクシーも寄り付かないのだと言っていた。
  退院後、彼女は次男の嫁さんが「コロナがうつる」と、運んできてくれた食材も玄関の外に置いて帰るので、今度は独身の長男が住んでいる横須賀の家に引き取られた。
  次男といい長男といい、母親想いの優しい息子たちである。施設とはいえ、彼女のご主人はまだ生きている。地球上から消えたわが夫への喪失感に比べれば、幸せな彼女。
  羨ましい限りである。
  親友の勧めもあり、私も豹変してワクチンを受けることにした。
  7月に来ていた『新型コロナウイルス ワクチン接種 クーポン券 在中』という封筒を引っ張り出して、区の相談窓口に電話を掛けた。
  一緒についている100ほどもある病院の中に、2カ月に1回、血液検査などをやってもらっている循環器科のある大きな病院の名前もあったので、そこに電話してみた。
  「もう、ワクチンの予約でいっぱいで、受け付けられません」だって。
  やっぱりだめだ。
  住所の近い他の個人病院に2、3かけてみたが、どれもいっぱい。
  仕方なく、また区の相談窓口にかけてみると、では、と言って、少し遠くの医院の名前を挙げた。「ここは予約できます」と。
  今から2週間後の午後4時に予約が取れて、予約番号も教えてくれた。
  「国産の治療薬も年内に出来るし、数字も減ってきた。ワクチンは受けなくていい」と言う人もいるが、私は受ける気である。
  親友の入院がショックだったし、誰も助けてくれない。
  まあ、後2週間でつらつら考えることにする。何よりも、仕事先でワクチン接種証明書がないと入れないなんてことがあったら困るし。(2021.9.30.)
                                (無断転載禁止)