「『NHK文研フォーラム夏』というリモート・イベントを視聴して面白かった部分」

  1番目は総タイトルが【「ニュース」「メディア」はどう変わる?】という1時間半である。 
 放送文化研究所の女性司会者が、『国際比較調査、デジタルニュースリポート』の報告をしてから、3人の識者による討論があった。
 大学の先生(男性)と女性の新聞社重役と、NHKの報道局デスク(男性)の3人である。
 紙媒体の没落時代に、新聞社の重役になって、意気軒高なこの女性は、信濃毎日新聞社の取締役メディア局長の井上裕子さんである。
 「新聞が読まれていない。毎年、地方紙1個分が減ってきている」そうだが、彼女は全く萎れていない。長野地方で41万部を売っているしっかりした新聞社の代表として、自信たっぷりな様子である。
 でも、男社会の中で肩肘張っているキャリア女性という臭さは全くなく、喋りもたくみだった。
 わが別荘は安曇野市の一戸建てだったが、あちらに行くと、何時もコンビニで新聞を買った。
 コンビニの新聞スタンドには、中央紙の朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞と、東京と全く変わらぬ名前が並んでいたが、1つだけ違うのは、真ん中に存在を主張する信濃毎日新聞があったことであった。
 私は地方に行った時に土地の新聞を読む習慣で、いつも信濃毎日新聞を買っていた。主として安曇野でのテレビ欄の必要があったのだが、東京では読めない信州の記事も面白かった。
 今回も紹介された記事がユニークである。
 「声のチカラ」と題するシリーズ記事である。
 例えば、今年の2月15日掲載の「声のチカラ」のテーマは、『お猿さん湯冷めしないの?』だ。
 一見吹き出しそうな話題だが、これが大真面目、読者からの投書で記者が本格的に取材して書いている。
 サブ見出しは「山ノ内 地獄谷温泉の スノーモンキー」。記事の見出しは「高密度の体毛・少ない発汗量関係か」とあって、『学術的にも重要な質問』と専門家によって褒められている。
 このリモートNHK文化講座(?)は録音録画が禁じられているので、記事の内容までは把握出来なかった。
 NHKさん、商売で拡散するのでなければ、私のように真面目に受講している人間が、ディテールを知りたいと、勉強のためなら一時的に録画してもいいじゃないの、ケチ(笑)。
 そういえば、山の中腹に建てたわが別荘にもよくお猿さんの一団が来た。ある時、夏で、ガラス窓も開けて網戸だけにしていたら、ボス格の猿が網戸に爪をかけて開けそうにした。慌てて追い払おうと近くに行く、なんと、ボスちゃんの後ろに5匹もの一団がいて、流石に怖くて髪の毛が逆立ったものだった。長野県ではお猿さんは卑近な動物なのだ。
 別の日の「声のチカラ」のテーマは、『赤い羽根 集める側も 圧力感じる』という記事で、募金額に目安額があって、目標額が未達成なら穴埋めしなくちゃならないのはおかしい、という内容である。
 確かにこれも納得できる内容である。
 廃れ行くメディアと見られている紙媒体が、まだまだ立派に存在感を示しているのだ。
 さて、次のテーマはボカシ。
 2番目のお題は【テレビ”ぼかし”対策会議~肖像権から考えるメディアの未来~】である。
 「肖像権」では私はイの1番に思い出すことがある。昔、作家の井上ひさしさんが、写真週刊誌を訴えた事件である。お自宅の台所に立っている奥様の姿を、写真週刊誌が勝手に撮影し、掲載した。井上さんは激怒して訴えた。奥様は私人だったので写される筋合いはないという主張だった。
 2番目の奥様であったから、媒体側にスクープの気持ちがあったのだろう。
 画面でも詳しく取り上げられた「肖像権」とは、
 〇 みだりに自分の顔や姿を撮影・公開されない権利
 〇 1980年代以降、写真週刊誌をめぐって裁判に
 〇 最高裁の考え方(細部は略)
 などと、解説される。
 2021年の4月にデジタルアーカイブ学会というところが「肖像権ガイドライン」というのをまとめた。それには「自主的な公開判断の指針」とサブタイトルがある。しかも、誰かの写真を撮って、公開する場合にポイント計算でOKかNOを判断する目安にするのである。
 これがめちゃくちゃ面白い。
 ①	写された人の社会的地位が公人だったら(+20)点
 ②	活動内容が公務や公的行事だったら(+10)点で、歴史的事件だったら(+20)点、公開イベ  
    ント(+5)点
 ③	撮影の場所が公共の場所だったら(+15)点・・・
 ④	撮影の態様が多人数なら(+10)点・・・
 ⑤	写真の出典が新聞、書籍などで公表なら(+10)点・・・
 ⑥	撮影の時期は撮影後50年経過していたら(+40)点・・・などなど。
 ところが、プラスだけではなくて、16歳未満の一般人なら(-20)点だとか、大写しは(-10)点
だとか、いろいろなマイナス要素も規定されている。
 例に挙げたのは万博の時のコンパニオンの大写しの顔や、昔流行ったコギャル2人の写真。この2枚について、1つ1つ+と-を計算して、「はい、この人たちを撮影すると何点」と言えるのである。
 私はこんなガイドラインのことは全く知らなかったので興味深かった。だから、-要素が大きくなれば、テレビ局は人物にボカシをかけるわけだ。
 それで思い出したが、私はテレビのニュースショーなどを見ていて、悪いことをやっている奴、例えば、近頃よく放映される高速道路上での「煽り運転」野郎について。
 突然、高速道路上で車を止めて、恐ろしい態度で後続車に向かってくる不埒な人間を、後ろの車のドライブレコーダーが撮っている。その人間の顔に、いつも斜がかかっているのはどうしてか?
 相手は犯罪者なのだから、顔を晒してやればいいと思うが、いつもボカシだ。
 これってテレビ局の事なかれ主義なのか。会場での議論には出てこなかったが、私はいつも疑問に思っている。(2022.7.30.)
                                        (無断転載禁止)