NHKの朝ドラといえば、いつも辟易するのは、女主人公の周りには理解のあるサポーターがうんざりするほどいて、チヤホヤと主人公を思いやって支えるパターンである。 現実は少子化、核家族化で、近所付き合いもあまりなく、大都会になればなるほど孤独を抱えている人が多いのに、ドラマの中は大家族に19世紀的な隣同士の付き合いで、見ていると、イライラし、私はいつも「嘘つけえ」と怒鳴ってきた(笑)。 前作の「ちむどんどん」がまさにこれで、川崎の沖縄飲み屋には、このくそ忙しいのに、常に沖縄県人が集まって主人公の暢子をチヤホヤしていて腹が立った。 物語が早く終わってほしいと思っていた。 先々週にやっと終わったのでホッとしている。 登場人物たちがみんな沖縄に帰り、大勢で飲み食いする。 暢子の夫の和彦まで沖縄に来て、「おい、狭い沖縄でジャーナリストが務まるのかい?」とからかってやりたくなった。終始一貫バカくさいドラマであった。 このチヤホヤについては、1度も2度も書いたが、もう1度書かせてもらう。 昭和51年度後期に放送された、大阪制作の『火の国に』という朝ドラについてである。 昔、物書き族が街でつるんでいたころにお目にかかったことがある、石堂淑朗さんが脚本をお書きになった作品で、連続テレビ小説の18作目であった。 女主人公が大学を中退して造園師になる物語で、みんなが寄ってたかって彼女をチヤホヤする内容だったらしい。(私はもう忘れてしまった)。 私がどこかの媒体にコテンパンにやっつけた原稿を書いたのである。 私の批判をNHKはいたく気にした様子で、石堂さんには2度と作品のオファーが来なかったそうだ。 随分後になって、石堂さんが私にやっつけられたことをエッセイにお書きになっていて、申し訳なくてひっくり返った。だが、私はタメにする悪口は絶対に書かないから、後には引かないけれども。 批評と言うのは、難しいものである。 石堂さんもお亡くなりになった。 で、先週からは「舞いあがれ!」である。 女主人公の舞が大人になってからの女優、福原遥さんがまだ本格登場しないのに、ここで講評を書くのは時期尚早の感があるが、仕方がない。 取りあえず、10月11日(火)までの感想である。 小学3年生の舞は腺病質な女の子で、走ったりすると熱を出す。 父親(岩倉浩太・高橋克典)は東大阪のねじ工場の社長、母親(めぐみ・永作博美)は工場の手伝いもする主婦である。 秀才の兄(悠人)との4人暮らしだが、たびたび熱を出すので、医者から環境を変えろと提案されて、母親のめぐみと一緒にめぐみが生まれた五島列島の実家に行くことになる。 しかし、浩太とめぐみは駆け落ち同然で結婚したので、めぐみの母親の才津祥子(高畑淳子)とは14年も断絶していた。 五島列島では、舞に答えさせる前に世話を焼くめぐみを、祖母の祥子はやんわりとたしなめ、結局、舞1人を祖母が預かり、母のめぐみを東大阪に帰してしまうのだ。 暗に今時(但し、物語は1994年、平成6年)少子化時代の、ある種、過保護で過干渉の母親を批判しているのだが、現実にこういう若い母親はウジャウジャいる。 自分の遺伝は棚に上げて、学校の成績や塾選びに血道を上げる若い母親たちが、そこここにいる。このドラマでは娘の舞の発熱が、一種の母原病に見えるように描いている。 母原病とは、母親の育て方の機能不全のために、精神的にも肉体的にも不具合が子供に出るという説である。1970年代以降に流行った説だ。 舞の場合は、彼女に考えさせたり答えさせたりする前に、母親が自分の意見を言ってしまい、ゆっくりと自分で考えさせる機会を奪っている、とでもいうように描かれている。 めぐみを演じている永作博美がなかなかいい。 ニコニコと優しい母親なのだが、先走り過ぎるのである。熱を出す娘を心配しているのだが、どこかに歯がゆさもある、という若い母親の苛立ちもちゃんと表現している。 実家の五島列島では、女1人で切り盛りしているパワーおばあちゃんの祥子が、めぐみの先走りを喝破している。だから、舞を1人だけ預かるのだ。 ジャムに加工するたわわなビワを、舞に、木に登って、もぎ取らせる。 食事後に自分の食器は流しまで片付けさせる。 朝は遅刻しないように、自分で起きて学校の支度もさせる。 面長の高畑淳子は、丸顔の永作博美の母親として、「似てないねえ」と突っ込みたくなるが、女の子だから、父親似なのだろうと解釈してあげることにする(笑)。 ところで、私は高畑淳子が発する五島列島弁(?)、あるいは長崎弁(?)が半分ぐらいしかわからない。おーい、スーパーで訳語を書いてくれ。 それと、予告資料を読むと、このドラマでも周りの人たちがおばあちゃんや舞の周りに集まりだして、従来のチヤホヤドラマになりそうで心配だから、これだけは願い下げである。 さて、舞は大空を見上げるのが好きな子で、10年後の18歳では、パイロットになりたいらしい。走っただけで熱を出していた女の子が、空を飛ぶとは随分と飛躍があるが、多分、祥子おばあちゃんのスパルタ指導で、熱も克服して強い女性に成長するのであろう。 空と言えば、昭和51年の前期の作品が『雲のじゅうたん』のタイトルで、浅茅陽子さんが主演した飛行機乗りの話だった。 チラと出た福原遥さんが、パイロットらしかったので、第2次世界大戦以前の女性飛行士の第2弾として、現代のパイロットが描かれるのであろうか。 近頃は悲惨な航空機事故も減ったので。せいぜい、空高く舞いあがっておくれ。 大人になったら、またチヤホヤはダメだよ。(2022.10.11.)。 (無断転載禁止)