「2月のロシアによる戦争侵攻に始まり、12月のウクライナの歌姫(第7回オペラ歌手紅白対抗歌合戦)の2重唱で暮れた、ウクライナ・ウクライナの2022年」

 今年はウクライナで明けて、ウクライナで終わったと言っても過言ではない。1年中、遠く離れた日本でも、朝から晩までウクライナのことが気がかりだった。
 あの、私の大好きな『キエフの大門』、ムソルグスキー作曲の「展覧会の絵」の中の終曲、『キエフの大門』は、今や『キーウの大門』になってしまったが、典雅な芸術の都が爆弾で破壊されている。
 何が驚いたと言って、今年の2月に、突然テレビで「ロシアがウクライナに攻め込んだ」と聞いた時ほどびっくりしたことはなかった。
 21世紀には、もう、かつての様な大砲を持って他国を侵略するような戦争は起きないだろうと思っていたからである。当時は時代錯誤戦争だと感じた。
 しかし、ロシアはその時代錯誤をやった。
 ほとんど1年経ってもまだ終わらない。
 私はこの時代錯誤の戦争を命じた大親分のプーチンさんが、アッという間に、暗殺されるのではないかと思っていた。かつてのルーマニアのチャウシェスクさんのように。
 ところが、未だにカッコつけて整列した軍隊の前で演説をしていたり、就中、SPたちの見えない場面で、丸腰のような長閑な雰囲気で嬉しそうに語っていたりする。
 批判派は根こそぎ粛清してしまったのだろうか?
 ホント、理解に苦しむ戦争である。
 湾岸戦争の頃から、テレビの中で、遠隔操作による敵陣への爆撃を、花火大会でも見るように画像見物する癖がついて、第2次世界大戦の時の様な戦争は起こるまい、と勝手に決め込んでいた当方は「ハテな」である。大いなる錯覚であったわけだ。
 もう1つビックリしたのは、先日のウクライナ大統領・ゼレンスキーさんが、アメリカまでいらっしゃったこと。戦火の中で、危ない危ない!
 勿論、民主国家側にしてみれば、アリの這い出る隙もない超万全の警備態勢を敷いて彼を守ったに違いないのではあるが、それにしても危険だった。
 私が心配したのは、アメリカの空軍機で離陸してからはいいとして、ポーランドまで列車で行ったというではないか。情報が洩れなかったとしても、地上をコトコト行くなんて、よくそんな危ないスケジュールが採用されたものである。
 とにかく、小柄な元コメディアンのゼレンスキーさんが、無事に自国にお帰りになってよかった、よかった。アメリカのバイデン大統領は、人様に見えないところで、高笑いなさっていたに違いない。
 この戦争では、テレビ的にうじゃうじゃと「ロシア通」なる人物たちが湧いて出てきた。
 某ロシア研究家の女性大学教授がモテモテであるが、この方の話はさっぱり面白くない。やたらに男女同権意識のテレビは女性コメンテーターを出したがるが、事は戦争である。
 誰とは言わぬが、男性のムクツケキ発言者の方が、100倍も面白い。
 さて、毎年恒例になった12月の大イベントでもウクライナはメインテーマになった。
12月5日にサントリー大ホールで開催された『第7回 オペラ歌手紅白対抗歌合戦』である。毎年人気上昇の一大イベントで、男女8人ずつの1流歌手の競演はわくわくする。
 しかし、今年は少し変化があってパワーアップしたのである。
 普通の男女の対抗の他に、「ウクライナ支援 特別企画」として、白組からはテノールの秋川雅史さん、紅組からはウクライナ・キーウ出身のソプラノ歌手、オクサーナ・ステパニュックさんが出演して、2重唱が行われた。
 2人でヴェルディ作曲の『椿姫より』「パリを離れて」を歌った。
 「千の風になって」の大ヒットで一躍流行歌手(?)のスターになったが、秋川さん元々は音楽大学出身のオペラ歌手である。テノールのハンサムさんだ。いつもはマイクを使って「千の風」を歌っていらっしゃるので、朗々たる超一流オペラ歌手に混じると、少し声がか細いとは感じたが、何しろカッコいい人、オクサーナさんを抱きしめて甘い声を聴かせた。
 私はコンサートがはねた後で、地下の楽屋口の駐車場で人を待って、立っていた。
 そこへ、暫くして、楽屋口から秋川さんが1人で出てきたのである。
トコトコと、私のすぐ横を歩いてゆく。
 人気商売が身に付いた演歌歌手そっくりの笑顔で、私に視線を向けてくれた。
 私は「何か言わなきゃ」と思い、「演奏、素敵でしたよ」と声をかけたついでに、「私ね、〇〇の母親」と、自分の鼻を指さして言っちゃったのだ。するとー――――。
 さすがあ、人気商売でサポーター馴れしている秋川さん。
 ニコニコしながら言ったのである。
 「似てるうー」だって。
 つまり、出演者の1人である私の身内と、私の顔がそっくりだとおっしゃったのだ。
 巨大マスクで眼しか出ていないのだから、初対面で「似てるうー」とはわからないと思うのに、この表現!
  なかなかの社交家にして、なかなかの剽軽(ひょうきん)ぶり。素敵な人である。
  かつて私は、彼が大ヒットした時に、週刊新潮からコメントを求められて、答えた記憶がある。まさか、辛口のあの物書きが、目の前にいる「似てるうー」女と同じ人物とは、彼は思いもしなかっただろう。(笑)
 今年の紅白は白組が勝った。何しろ、トリを取った紅組の大村博美さんと、白組のトリを取った笛田博昭さんが、めちゃくちや素晴らしかった。
 クラシックにあまり詳しくない私の連れが、笛田さんがお歌いになった直後、躍り上がっていたくらいである。笛田さん1人で白組を勝たせたと言えるぐらい素晴らしかった。
 いやいや、後半のプロ向きの選曲も私には有難かったし、この歌声たちが、寒空のウクライナの人たちに届いてほしいとまで思ったのである。
 早く戦争が終われ!! (2022.12.30.)。
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