「ラプリンこと片岡愛之助の新作歌舞伎、<ルパン三世・・流白浪燦星>を見てきた」

 先日、今国会11月22日の衆議院予算委員会で質問に立った立憲民主党の元総理・野田佳彦さんが、議員の世襲が多いと批判した中で、こう言った。
 「自民党には世襲議員が多い。岸田総理は3世、ジュニアに委ねると4世。ルパンだって3世までだ」と言うと、議場からドひゃひゃひゃと笑いが起こった。
 野田さんは千葉の1人演説で有名な方、演説が上手い。
 筆者はマンガを読まないので、詳しい内容は知らないが、モンキー・パンチ作『ルパン三世』の筋書きぐらいは知っている。独特の細長いルパンの顔も思い出せる。ルパン3世は怪盗アルセーヌ・ルパンの孫である。
 この<ルパン三世>が事もあろうに新作歌舞伎になったのだ。
 当て字は<流白浪燦星>でこれを流(る)白(ぱ)浪(ん)燦(さん)星(せい)と読む。
 さらに、大新聞が14日の夕刊で『片岡愛之助 夢の世界 全力で』と大特集を書いた。
 この記事を読んで、筆者は愛之助さんの熱烈ファンでも何でもないのにチケットを買ってしまったのだ。メールでも勧誘されたからである。1等席なので高かった。
 師走の初め、本当に久しぶりに新橋演舞場に出かけた。新橋演舞場はすぐ傍に、有名な料亭・金田中の長い土塀がある。筆者など一生涯縁のない場所である。
  新橋演舞場は1階の床に傾斜が少ないので後ろの方だと本当に観にくい。だから、2階の最前列を買ったのは正解だった。
 午前11時半に幕が開いた。客はほぼ7割の入り。オバサンだらけ。
 戸部和久氏の脚本・演出のオリジナルストーリーである。
 「時は安土桃山時代、大泥棒のルパン3世(片岡愛之助)と、仲間の次元大介(市川笑三郎)は『卑弥呼の金印』というお宝を狙っている。金印の封印を解くには雄龍丸と雌龍丸という2本の宝剣が必要で、金印と宝剣が揃えば世の中を牛耳れると言われている。 
 しかし、雌龍丸は大盗賊の石川五右衛門(尾上松也)が持っており、彼も卑弥呼の金印を狙っているし、天下を収める真柴久吉(坂東彌十郎。羽柴秀吉のもじり名)も金印を探している。ルパンのライバル・銭形警部(市川中車)もルパンと五右衛門らを追っている」
 時代もへったくれもない適当な登場人物が笑いを誘う。
 最初に笑っちゃったのは、テレビ界で酒場のふざけ映像で干され、さらに従弟の四代目市川猿之助さんの自殺未遂事件といろいろあり、映像世界から消えたかに見える香川照之さんが、市川中車として、主役級5人の中でも目立つ銭形警部を演じていること。
 第1幕は中車、出ずっぱり。
 主役のルパン3世・愛之助さんより目立つ得な役だ。
 さらに、もっと可笑しいのは市川彌十郎さんの真柴久吉。
 この方、NHK大河ドラマの『鎌倉殿の13人』で大人気になった北條時政を演じたその人である。セリフに北條時政と出てきたので、筆者はクスッとしたが、周りの観客は気が付かないみたいだった。彼はNHKのお蔭で、最近はCMにも出ている。
  脚本の戸部さんはギャグ好きと見えて、流行りものを上手く使う。『働き方改革』なんてセリフも出てきた。言い出しっぺの安倍さんは亡くなったのに。 
 団子屋の場面では、のれんの中からお茶を運んできたのが、丸っきり機械仕掛けの人形みたいな人間で、コキコキと歩いて出てきて、そっくりAI声なのである。観客席は大笑い!
 そう言えば、近頃、NHKのニュースで「生成AIが喋る」とか何とか、平べったい声でAIがニュースを読んでいるが、何のこっちゃ。アナウンサーたちが自らの職場を狭めているだけではないのか? 意味不明だと思う。
 さて、舞台は中々の大仕掛けで、ルパン3世(愛之助)と石川五右衛門(松也)が決闘するシーンには、本ものの大量の水がステージ中央からドドドッと落ちてきて、ドライアイスの飛沫も一緒。
  ド派手衣装の赤と黒が刀を持ってチャンバラしたり滝壺に落ちたりする。
 2人ともずぶ濡れだったから、風邪をひかないかと同情したのである。
  役者も大変だ。
 主役の片岡愛之助さんは一種の狂言回し様の存在で、花道を出たり入ったり。体中で頑張っているのがよくわかって痛々しい。「これが当たらないとまずい」との看板を背負っている風情であった。
 2番手の尾上松也さんはルパン3世の相手役ばかりで、彼のエピソード、京都南禅寺の
三門、例の「絶景かな、絶景かな」は出てこなかった。
  驚いたことに、芝居がはねてから、カーテンコールがあった。 
 筆者はマニアではないけれど、歌舞伎にも時々足を運ぶ。ミュージカルの様に、カーテンコールなど1度も見たことがない。この日は夜の部がなかったのでカーテンコールをしたのだと思うが、歌舞伎役者は慣れていないと見えて、お辞儀もばらばらだし、突然挨拶を振られた中車(香川照之)が、流暢には喋れなかった。
 恋人の峰不二子(市川笑也)は花魁姿で絢爛豪華だったが、女性の役なので下を向いて喋るので聞き取りにくい。細面の女形はとても美しい。
 Ⅰ幕目と2幕目の間の休憩は30分、2幕目と3幕目の間は15分。
 最後の最後はご存知『白波五人男』をモジって(?)、主要人物たちが勢揃い。
 ルパン3世、次元大介、峰不二子、石川五右衛門、銭形警部である。
 花道から唐傘広げて登場して、ステージ上に勢揃いしたが、女性が混じっているところがご愛敬である。終わり方としては上手いやり方だ。
 付け加えれば、音楽(大野雄二)はルパン3世のテーマだけでなく、全編、三味線、尺八、笛などを使って和風なのだが、メロディに洋楽センスが混じり中々面白かった。
 筆者の隣の席に「歌舞伎は生まれて初めて」という青年がいて、「面白かった!」と言っていた。こういう若い客が来たのは、マンガ原作のお蔭だろうが、いい傾向である。(2023.12.10.)。
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