いきなりで申し訳ないが、筆者はマンガや劇画のたぐいを全く読まない。 子供はマンガ好きで、誰でも小さい時に夢中になった経験があるだろうが、哀しいかな筆者には全くその思い出が、ない。 マンガを1段下に見る偏見ではなく、絵があるものを避けるのである。 文章を読んで、自分の中で想像逞しく映像を描き、あれこれ考えるのが好きで、そこに、絵や画像があると自分の世界が狭められるような気がするのである。 相当にひねた子供だったのだろう。 だから、1大文化界であるアニメやマンガについては疎い。疎いどころか全く知らない。 こういう人間が、マンガや劇画原作のテレビドラマについて、色々な審査員を務めていたり、コンクールの選考委員になっているのであるから、努力がいる。 今は、マンガ原作のテレビドラマが非常に多いのだ。 最近も、あるところに呼ばれてお喋りをしていると、中の1人、大秀才のお茶の水女子大学出身の女性が、「子供の頃から、マンガばっかり読んでいたわ」と言ったので筆者はひっくり返って驚いた。彼女はマンガのたぐいは全く読まない活字人間だと思っていたからだ。 時代に合っていないのはこちらの方である。 ただ1度だけ、読んでもいないマンガなのに関係したことがある。 今は無くなってしまった「テレビ大賞」というコンクールで、筆者は選考委員の1人であった。その選考会で大応援演説をぶった。 まだ子供だった家族が夢中になっていた『どらえもん』に「特別賞を上げたい」と演説したのである。 大多数を占めるおじ様選考委員の失笑を買ったが、筆者はひるまなかった。 結局、『どらえもん』は受賞し、筆者は畏れ多くも原作者お2人の色紙をいただいたのであった。わが家の家宝として大切にしまってある。 藤子・F・不二雄さん、その節は有難うございました。 さて、本論に入ろう。 3月1日に、『第69回小学館漫画賞の贈呈式』が行われた。 挨拶に立った小学館の相賀信弘社長が次のように述べた。 「過去の同賞の受賞者で『セクシー田中さん』などの作者・芦原妃名子さんが1月に急死したことについて言及。『事態を重く受け止めている。二度とこういう悲劇を繰り返さないために調査を進め、再発防止に努める』とし『これからも作家、著作権者に寄り添い権利を守っていく。小学館と仕事をしてよかったと思って頂ける会社であり続けるように誠実に対応していく』」。(スポーチ報知) また毎日新聞では、『なぜこのようになったのか、どこかで止められなかったのか、調査を進めている』とした、と書かれている。 『セクシー田中さん』とは何ぞやというほどテレビドラマに疎い人のために、簡単に説明すると、昨年10~12月期に放送された同作の原作者・芦原妃名子さんが、ご自分で第9回と第10回の脚本をお書きになった後で亡くなった事件である。 大人しくて地味なOLが、夜になると変身して、ベリーダンスというセクシーなダンスをステージで披露する物語である。 木南晴夏さんの主演で、とても可愛かった。 筆者も後の物書きになる体質で、昔は内向的のレッテルを自分で貼っていたから理解できる。 放送局は日本テレビである。 筆者は、ある連続テレビのコンクールの選考委員を何十年もやってきたので、今回も出来のいい『セクシー田中さん』に高得点をつけた。 ところが、この事件が起きてから、編集部から連絡があり、「このままでいいですか」と言われ、結局、番組も同点で推薦した他番組に変更し、講評も書き換える顛末になったのであった。 ちらっと芦原さんが亡くなられたことは知っていたが、ディテールは皆目不明だった。 日を追うごとに大事件になり、当欄でも取り上げざるを得なくなったのである。 才能のあるマンガ家がなくなったのだから、当然大事件である。 2月19日には毎日新聞が社説でも取り上げている。 タイトルは「『セクシー田中さん』問題 原作者の権利守られたか」。 「漫画を原作にしたドラマは近年増えている。その背景には、原作フアンがいるため、一定の視聴率が見込めるというテレビ局の思惑があると指摘される。 原作者には意に反して作品を改変されないなど、著作者人格権が法律で保障されている。ネット上では今回の件をきっかけに、無断で内容を変更されたケースなどを明かす漫画家も出ている。後略」 幸か不幸か、筆者は大昔に小説の筆を折り、批評界で生きているので、原作者になったことがないが、自分の性格から、もし、作品を改変されたら我慢がならないと思う。 自分の書いたものはわが子と同じ、身を削って作りだしたものであるから、勝手に改変されたら怒り狂うと思う。 今回の件で、第9話、第10話の脚本を書かなかった脚本家が、SNSで批判的な内情を明かして物議を醸したらしい。筆者は見ていないが、さぞ原作者の芦原さんは辛い思いをなさっただろう。 相賀社長の挨拶や新聞社説通り、原作者はもっと守られるべきである。 マンガ界に疎い筆者でも理解できる。 話替わるが、週に30本以上も放送されているテレビドラマ、粗製乱造とは言わないが、作り過ぎて、己の首を絞める結果にならねばいいがと心配である。(2024.3.2)。 (無断転載禁止)