「新聞の部数減の中で、特に凋落が激しいと言われている朝日新聞の、ダメなワケがわかった。9月29日付、日曜版『日曜に想う』を嗤う」

 夫が他紙の記者だったので、現在、わが家は朝日新聞を購読していない。
 しかし、筆者が独身の頃から、長く朝日はとっていて、数十年前までは他紙も含めて長く購読者だった。
 ただ、何紙も購読していると、そうでなくても窮屈なマンションのポストが一杯になり、ついにある時から他紙(夫の会社)1つだけにしたのである。
 ところが、最近、異変が起きた。
 珍しいことに、ツンとすましていた朝日新聞が「購読してください」というようなセリフと共に、マンションの玄関に勧誘に来るようになったのだ。「へーえ」と筆者は驚いた。
 よほど購読をやめる家庭が多いのだ。
 続いて、新手の戦略が来た。
 今度は葉書様(よう)のチラシがポストに入っていて、住所・氏名などを書いて送ると、2週間だけタダで朝日新聞を配達してくれる、とあったのだ。タダだって。
 「ははん、新手の勧誘だナ」と思い、住所、氏名を書いて投函した。
 そうしたら、あらら、ちゃんと朝日新聞を入れてくれるようになったのである。
 でも、夫の会社の新聞は止めていない。
 泣かせることに、新聞配達さんは気を遣って、家でとっている他紙と朝日を、きちんと重ねて、就中、ポリ袋の上に、当方の苗字まで書いて入れてあったのである。
 本当に気を遣って下さっている。
 だから、毎日のように朝日新聞も読んでいる。
 もう一件、朝日新聞に関して、近頃、非常に驚くことに遭遇したのである。
 わがマンションの前はバスも通る比較的に大きな道である。真っ直ぐに行くと、片方は私鉄の駅、反対方向に行くと、JRの中央線の駅に出る。つまり、北と南の幹線の間に位置している。
 そのマンション前のバス通りを5分ぐらい歩いたところに、昔から朝日新聞の販売店があった。大型のバイクが何台も置いてあって、配達員の青年たちが働いていた。
 数日前のことである。
 朝日新聞販売店のすぐ先に眼科のお医者さんがあるので、2カ月ぶりに前を通った。
 あれ?
 なんか雰囲気が違う。
 えーっ? と驚いた。
 朝日新聞販売店のガラス戸がピッタリと閉まっていて、猥雑な雰囲気で積み重ねられていた新聞が影も形もなかったのである。
 丸ごと新聞販売店がなくなっていた! 1軒消えた。
 販売店縮小ということなのだろうか。
 この辺りの朝日新聞購読家庭には、遠くの販売店から配達してくるのか、いずれにしても、全く関係のない他人の筆者にして、うら寂しい思いを禁じえなかったのだ。
 さて、2週間、タダで配達してくれる朝日新聞なので、筆者は目を皿にして読んでいる。
 昨日の日曜日は分厚くて記事が多かった。
 表紙をめくった第3面に、『日曜に想う』という編集委員のA氏(女性)の署名原稿が載っていた。タイトルは⦅教え子を解き放った音楽家の志⦆という文章である。
 チェリストにして指揮者だった有名な斎藤秀雄さんの、今年は没後50年だそうで、斎藤さんのお弟子さんだった有名人2人、秋山和慶さんと、小澤征爾さんについて書いている。
 斎藤さんはおっかない人で、弟子をよく叱ったらしい。
 ところが、72歳でガン死する病の床で、斎藤さんは2人に詫びたという。
 『・・・「これまでたくさん君たちを怒ったのは、僕が未熟だったから。君たちは怒るなよ」
 斎藤は、教え子たちを最後に解放したのだ。彼らの羽ばたきを縛らぬように。そして未来の指揮者たちが新たな響きを自由に模索できるように。・・・』
 この文章までは、いい。よくわかる。
 しかし、秋山和慶さんの指揮ぶりを「水を弾いて跳ねる白魚のようなモーツアルト」だの、斎藤の著作『指揮法教程』について「重力をどう弾力の礎とし、音に命を授けてゆくか。動きの軌跡に、速度というファクターを加えて図式化」だの、やたら美文調でひとりよがりの説明文には、ちょっと待て、だ。
 書き出しは人気があった朝ドラの『虎に翼』を引用して読者を取り込み、自ら<法>を編んだ音楽家の志を思わずにはいられない、と続く。
 音楽家・斎藤秀雄と2人の弟子の話であれば、朝ドラなんかイントロにいらない。
 人気取りと権威付けの典型的な文章で、何よりも、斎藤や秋山や小澤さんたち、クラシック音楽界を語るのに、読者を下に見て高尚な世界を語っているのだ、との上から目線が鼻に付く。
 松本のサイトウ・キネン・オーケストラの今年の指揮者を持ち上げるのはいいが、この筆者、1度でも松本の地元に行って、観客から取材したことがあるのか。
 筆者はかつて、地元の有名放送局の重役から、直接聞いたことがある。
 「松本キネンと言うけれど、地元の人はチケットが買えないんですよ。東京から大挙して付いてくる観客が買い占めて、地元には数十枚しか売ってくれない。何が松本だ!」と。
 いつまでも、自分たちは高みに居て、読者を啓蒙するつもりかもしれない朝日新聞さん。
 音楽大学出身のクラシック業界エリート女性なんかに、ヘンテコ美文(?)を有難がって書かせているうちに、部数はもっと減るよ。笑。
 言っておくが、筆者はかつてプロの音楽団体に関係していたことがある。業界素人ではない。玄人の記者がこの程度では困るのだ(2024.9.30)。
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