「おどろおどろしい『悪魔城ドラキュラ 月下の覚醒』という劇題のミュージカル・ロマン・レビューを見てきた。東京宝塚劇場は女性フアンでいっぱい!」

 これほどとは思わなかった。
 兎に角、宝塚歌劇の人気は凄くて、チケットがとりにくい。
 大昔、宝塚市の大劇場には何度か行ったことがあるが、東京宝塚劇場は敬遠していた。
 何故なら、仕事でよく行った真ん前の帝国ホテルレストランから見ていて、トイメンの宝塚劇場前で、スターの出待ちをするオバサマ方(?)のエネルギーが尋常でなく、「ああいう中にはとても入れない」と思っていたからである。
 気が短い筆者は「推しのスター」のために、1日を犠牲にするなど絶対に出来ない。
 かと言って、自分の琴線に触れた舞台でなければ、ただでも行きたくない。
 1度書いたが、以前、コラムで劇団四季をステージ批評で褒めたら、すぐさま、今は亡き浅利慶太さんのスタッフから連絡が来て、劇団四季のすべての公演を観ていただきたいと、フリーパスを下さると言う。
 筆者は即座に断った。
 ただパスを頂くと、自由な批評が書けないし、毎回観に行くほどヒマでもない。
 つくづく自分が融通の利かない石部金吉だと思うが、堂々と自分のお金で観に行きたい。
 で、今回はSS席を買おうとしたが、とんでもなかった。
 恐らく、甲子園球場並にファンの団体に押さえられている。ところが、びっくり、A席が取れたと連絡が来たのである。
 A席といっても2階の8列目である。ステージのスターたちをヘリコプターの中から見下ろす感じ(笑)。筆者はそれでも平気だった。何故なら、歌の上手い宝塚だから音楽が聴ければ満足なのだ。スターの顔を間近で見なくても何ともない。
 ステージ上の緞帳に円形が浮かび上がり、尖塔美しい城のシルエット、周りには不気味な蝙蝠が飛んでいる。ドラキュラが城主を努める悪魔城である。
 プロローグにこのロマンの主役が登場する。
 スラリと美しいアルカードである。何百年もの間、眠りと目覚めを繰り返しながら、ある宿命を背負って生きてきた悲しい男である。
 演じるのは花組トップの 永久輝せあ(とわきせあ)さんである。
 悪魔城の主であるドラキュラと人間の間に生まれた男、彼の目的は父親であるドラキュラを成敗することだった。
 長い金髪に鋭い眼光、絢爛豪華なマント姿、とにかくカッコいいのだ。女性客がうっとりするのもムベなるかな、である。だが、彼は女なのだよ(!?)。
 宝塚は芸名がそれぞれユニークであるが、せあさんもユニーク。
 「永久輝」はもちろん「永久に輝く」であろう。
 「せあ」って、と思っていたら、「せあ」は「SEA」のこと、つまり、「海」が好きな彼女は「SEA」をローマ字読みして「せあ」なのである。
 なるほど。
 主要な役は永久輝せあさんの他に、ヴァンパイアハンターの聖乃あすか(リヒター役)さん、マリアの星空美咲さん、ドラキュラの輝月ゆうまさん。
 この、最後は息子のアルカードに殺されるドラキュラ役の輝月ゆうまさんが、ガタイも大きく、存在感があって素晴らしかった。
 筋書きはパス。
 パリの場面で、ロベスピエールが出てきたので面白かった。ロベスピエールは歴史上実在の人物、筆者は大学でフランス文学を専攻した人間である。
 さて、A席の筆者の隣席に若い男性が座っていた。
 そればかりか、左前にはこれも若い男性の2人連れ、つまり、満員の観客の中に、若い男性客が結構いるのである。
 OSK(新橋演舞場)では宝塚歌劇よりも男性客が多かったが、白髪頭が多数派で、青年はあまりいなかった。
 宝塚歌劇フアンには、どうやら青年客が多いと見える。
 お隣りの男性(30代)は友の会にも入っている強烈な宝塚フアンである。
 この『悪魔城ドラキュラ 月下の覚醒』は既に4回も見ているそうで、この日は5回目。
 1,200円のプログラムと、別に Le CINQ という写真集1,000円も買っている。
 公演の途中に、熱心にプログラムをめくっていて、リズミカルな曲になると、手拍子を叩く。反対隣りの女性も手拍子を叩くので、何にもしない筆者は気が引けた。
 しかし、軟派のコンサートで手拍子を叩くとか、ライトを振るとか、会場一体を強制されるのは大嫌いなので、ここでも我慢して手拍子に参加しなかった。
 筆者は宝塚歌劇フアンの風上にも置けない外様である。
 お隣りの30代君は、お母様とお姉様が熱烈な宝塚フアンで、青年も小さい時から連れて来られているうちに、マニアになったという好漢である。まだ独身。
 ヘンな風俗へ行くよりよほど健全である。
 第2部は『愛、Love Revue!』と題された24場まであるグランド・レビューである。
 踊りに歌に、絢爛豪華なダンスと歌の大盤振る舞い。
 比較すると気の毒だが、先日、新橋演舞場で見たOSK『夏のおどり』と比べたら、スケールが違う。
ラインダンスにしても、人数が3倍位多かったので、ド迫力。常設館での長期公演と、貸し小屋での公演との違いでもあるだろう。
 最後に奇遇噺を1つ。某避暑地に行っている友人からのメールで、彼女が滞在している避暑地の家の主が、たまたま筆者が鑑賞した全く同じ日に、東京宝塚劇場にいらしたそうだ。 
 その方は某有名歌手のお身内で、ご家族が歌劇団花組の1員なのだ。まだ下っ端だが。 
 世の中は案外狭いものである。(2025.9.10)。
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