「『風、薫る』(NHK総合)を2週間視聴した。いかにも朝ドラ風さわやかタイトルだが、没落士族の娘と、親に捨てられ、ひねた放浪孤児?の娘が、封建まみれの明治時代を如何にして泳ぎきるか」

 一ノ瀬りん(見上愛)は没落して百姓に身をやつした元家老の家柄の長女だが、父親の信右衛門(北村一輝)はコレラに罹って亡くなる。栃木は那須の在である。
 母親の美津(水野美紀)と妹が東京に行っている間に、父はコレラに罹ったが避病院に行かず、家の物置小屋で、りんにも看取られずたった1人で死ぬ。
 この時代の娘は、若いうちに金持ちの相手を見つけて嫁ぐのが幸せと考えられていた。
 りんもご多分に漏れず、18歳も年上の豪商である奥田亀吉(三浦貴大)に嫁ぐが、教養のない亀吉は、字の読める士族のりんに嫉妬して荒れ放題。
 飲んだくれて暴れ回る。
 最後は投げた紙が行燈で燃えて、大火事になる。
 妻子を助けずに、亀吉は義母と共に逃げてゆく卑怯さだ。
 筆者はこのシーンでいたく感心した。
 いくらバイプレーヤー俳優とはいえ、貴大君はかの大スター・山口百恵さんの坊ちゃんである。
 若いスタッフはテンからこの時代を知らないのだろう。
 三浦貴大くんもNHKから要望されたこの汚れ役を、芸歴拡大のチャンスと引き受けたのかもしれないが、太っ腹で立派である。
 筆者は山口百恵さんが飛ぶ鳥を落とす勢いの時に、同じエレベーターに乗ったことがある。
 ある大きなテレビ界の賞の選考委員で呼ばれていて、一応おしゃれをして出かけたのだが、取り巻き数人と一緒に乗ってきた百恵さんは、ごく普通の茶色系の普段着っぽいセーター姿だった。
 審査員であったにしても、気張っておしゃれしてきた自分が恥ずかしかったのを覚えている。
 これは余談。
 さて、酒乱の亀吉から逃れて、りんは実家に避難するが、母の美津は「東京に逃げろ」と諭す。
 ちょっと文句を言いたいのは、これから3歳の環(娘)を連れてりんは旅がらすなのだが、東京で職探しにあちこち歩く場面。
 髪は結いタテの様に綺麗なまま、着たきり雀のはずなのに、着物はピシッと着付けたばかり。
 いくら何でもリアリティなさすぎである。
 明治時代だよ、薄汚い乗り物で那須から東京に出てきただけでも、ヨレヨレじゃないか?
 普通なら婚家の追手が来るのではないかと怯えていて、さらに親の庇護もなく逃亡の旅であれば、おどおどと不安が表情に出るはずだ。
 家老の娘にしては鈍すぎる。
 まあ、結婚してからいきなり娘が大きくなっているのだから、万事アバウト?
 可笑しかったのは街が道幅広く、大河ドラマで使われた吉原の大通りにそっくりなのだ。
 ひょっとしてオープンセットの使いまわしか? 倹約はよろしい。笑。
 見上愛さんについて、筆者はあまり知らなかった。
 若者向けドラマで有名なのだろうが、筆者は自分が見たもの以外を検索しないので、よく知らない。
 小顔に首が長く、口の形が何となく河童ちゃんに似ている。貧乏や苦労が滲み出ていないのは、流石、おっとりした武家の娘だからか。
 零落の身でも苦労が顔に出ない。どことなくユーモラスな雰囲気がある。
 一方、後に相棒になる大家直美役を演じる上坂樹里さんは、典型的な美人系だ。
 宣伝文によれば、2000人以上の応募者から選ばれた、たった1人のラキーガールだとか。
 美人系だが、どこかに冷ややかで意地悪な目付きも持っていて、親に捨てられて苦労の果てに優しい牧師(原田泰造)に助けられる。
 この2人が路上で出会う。
 りんは、知り合ったばかりの直美に幼い環を預けて職探しに出かけ、夜遅くまで帰ってこなかった場面も、リアリティなさすぎだ。
 筆者はこんなに小さな子を知り合ったばかりの他人に預けて、心配じゃないのかい、と腹が立った。
 はっきり言ってご都合主義である。
 最後に大物の登場である。
 可愛いけれど気位が高そうな貴婦人・大山捨松(多部未華子)が、大山巌(高嶋政伸)と馬車に乗って通りかかる。
 捨松と言えば歴史上の有名人、10代でアメリカに行った女性である。
 NHKはスタート時の視聴率が芳しくなかったので、PRに躍起だ。
 先日、多部さんは『あさイチ』にも出ていた。
 随分前だが、筆者は彼女も出ている有名監督のドラマのお披露目に呼ばれ、初めて、多部さんのナマを見た。
 ステージに並んだ主演級俳優の中で、彼女は飛び切りの小顔で、ツンとしていた。
 「私、スターだから」という雰囲気だった。
 『あさイチ』では笑いっぱなしと言えるぐらいにこやかだったが、それはテレビに映っているから。
 ステージでの彼女は「ニコリ」ともしなかったぞ。
 スターはそれでよろしい。
 りんと直美が後に看護師になる。
 病院の様々な場面や、命に係わるシビアな物語も出てくるだろう。
 筆者は2年前に大怪我をして1カ月も入院したので、明治時代のその世界がどのように描かれるか楽しみである。
 2人の主演者たちの白衣姿も早く見たい。
 若い男優たちには触れなかったが、前髪を垂らした髪型が、令和時代のそれと同じで、違和感だらけなのでパスした。
 明治どころか、終戦直後から昭和30年代でも、「オールバック」か「7・3分け」で、前髪垂らしなんかしていなかった。取り上げないのはささやかな抵抗である。(2026.4.11)
(無断転載禁止)