「生中継を見る」は間違いである。 実は8月16日の夜は、何年ぶりかでパ・リーグのプロ野球を球場に見に行ったので、五山送り火は当然LIVEでは見ていない。 昔は西武ドーム、今はベルーナドームでの試合は、西武ライオンズとソフトバンク・ホークスの対戦で、西武が2対0で勝った。森くんがホームランを打った。 球場がリニューアルされて綺麗になり、私が連れと選んだネット裏席は、シートもソファのようで座り心地がとてもよかった。ケチだった西武も変わったものだ(笑)。 五山送り火中継はNHK BSプレミアムで放送されたので、その録画を撮っておいて、翌日に完視聴したのである。タイトルは『京都五山送り火2022 よみがえる伝統の夏』だ。 コロナ禍で昨年も一昨年も五山送り火は全面点火が出来なかった。ただし、長く続いている伝統行事を、中断することは出来ず、2年間は不満足な縮小点火で我慢したという。 だから、今年の全面点火への人々の期待は相当大きかったのである。 3年ぶりに全面点火した今年の五山送り火については、市民たちからも「全面点火をしてほしい」という投書が多く寄せられたそうだ。 午後7時から9時までの2時間の生中継を、3人の人物が会話で繋ぐ。 司会はNHK京都放送局の潤隋操司アナウンサー。何だか古都・京都にふさわしい難しい名前のアナウンサーである。何と読むのか聞き逃した。 ゲストの1人は京都出身の女優、田畑智子さん。浴衣姿である。 もう1人は宗教学者の釈徹宗さん。お坊様の姿である。 8階建ての京都新聞(中京区)社屋の屋上に3人が陣取って喋り始めたが、その内、雷がゴロゴロ・ピカピカと鳴り始め、雨が土砂降りになった。 3人は屋内に移動のハプニングである こんな土砂降りだと、肝心の送り火が点火できなかったり、消えてしまったりするのではないかと見ている方も心配したが、恐らく中継スタッフや、実際に大文字に関わる保存会の人々は、気が気でなかったはずである。 従って、最初に潤隋アナが予告したのは、 8時丁度の点火が・・・大文字 8時5分の点火が・・・妙 法 8時10分の点火が・・・船形 8時15分の点火が・・・左大文字 8時20分の点火が・・・鳥居形 で終わるはずだったのに、アナウンサーが「まだ始まりませんねえ。遅れているようです」と内心のハラハラを見せずに告知する。大雨の影響である。 幸いなことに、雨は次第に小降りになっていったが、点火の開始は遅れて、8時10分過ぎ頃から、順序どおりでなくっていいからと、次々に火がついていったのである。 NHKスタッフがへばりついて事前に映像で撮ってあった場所が、勿論、大文字。 左大文字。 後は最後の鳥居形である。 イの1番の大文字は感動的だった。大文字保存会理事長の長谷川さんという方が言う。 「きれいな火が点くか緊張感があり、火がきれいに燃え尽きることを願う」と。先祖の霊を送る送り火は、つまり、魂が宿っていると思うのだろう。だから、きれいに燃え尽きないと遺恨を残すのか? いや、これは私の勝手な解釈であるが。 大文字の松明は75本である。それらに親火から火を移して一斉に点火しなければならないのだが、あちこちから掛け声がかかる。 「よいかー?」「はーい」 「てんかー(点火)」火打ち石の音と読経が伴奏である。 75本の松明が燃え出す。亡き人の魂をあの世に送る火である。感動的! 3人が中継している場所の後ろに、大文字の文字が浮かび上がった。 左大文字では、法音寺から、大松明の火をつけたまま、男たちが担いで登ってゆくのであるが、3年ぶりの上に、近頃では松明の担ぎ手不足が深刻化している。 大松明は長さが3メートルで重さが50キロ、それを担いで火床までの坂道1キロを歩かねばならないのである。しかもこの日は大雨が降った後で、足元が滑りやすい。 今年の担ぎ手は30歳の北本哲也さんで、途中までサポート会員の内田悠介さんが担った。 この行程には、女優の田畑さんが昼間に登る体験をしている映像が出たが、山登りなのに、彼女はスケスケひらひらのワンピース姿。場所柄もわきまえずに勘違いしている。スラックスぐらい履けよ。 他に鳥居形松明保存会も会員の高齢化や退会で人手が減って困っている。 どこも保存会の人数が減って悩みの種だが、「これも試練だ」と彼らは言う。 五山送り火を物見遊山で楽しんでいるわれわれに比べて、保存会の人たちは毎年毎年苦労を重ねでいるのだ。 安易に伝統は守りましょうとは言えない気分になる。 NHKがお好きな、視聴者からの投書が紹介されたが、これって何時も聞いていてイライラする。時間の無駄である。みんなそれぞれ個人の感想はあるので、知りもしない他人の投書を読まれても、面白くも何ともない。 また、時間稼ぎのためか、京都の2大学の学生を2人ずつ採用して、写真を撮らせたのであるが、これも意味不明な企画だ。若者に媚びているだけ。実際、彼らが撮ったスマホ写真が最後に紹介されたが、何の変哲もない素人写真で、つまらなかった。 一口に松明といっても、松の木の根元部分は脂分が多いからそこを選ぶとか、保存会の人々のご苦労に頭が下がる思いであった。 来年はコロナが終わって現地に行き、大文字を見たいものである。(2022.8.20.) (無断転載禁止)