はっきり言ってSNS全盛時代に、大新聞の、別刷りの日曜版なんか誰も読まない。折り込み広告と同じ扱いで、ポストから取って来るや否や、ゴミ箱にポイ捨てされる運命である。 今回話題にするのは、その、新聞の別刷り日曜版の記事についてである。 通しナンバーがつけられていないので何回目かわからないが、もう長く続いている署名記事である。毎日新聞日曜版の『日曜くらぶ』というくくりの中の、「松尾貴史のちょっと違和感」という題の文章である。 これが毎回面白い。 松尾さんとは大昔、どこかのパーティーでお会いしたことがあるから、贔屓で取り上げるのでは決してない。紹介された時、あの、ちょっと煙たそうな目付きで、にやっと笑われたのを記憶している。 この文章、「ちょっと違和感」は辛口の世情批判である。 彼のお肩書は(放送タレント)となっているから、普通の人だったらお仕事に差し支えるからと、あまり辛口では発言しないものだが、この「ちょっと違和感」は激辛の時もある。 少なくともあちこち気にして生ぬるい発言が多いが、松尾さんは斟酌しない。 彼は業界で確固たる地位を築かれているのか、私は軟派業界に疎いので、知らないけれど、政治的発言も多いのだ。 松尾さんはどこか芸術系の大学のご出身と記憶しているが、道理で、彼の文章に添えられた人物のイラストがめちゃくちゃ上手いのである。 漫画家が書くようなデフォルメされた人物画ではなく、普通の似顔絵なのだが、ただ似ているだけではなく、その人物の内面とか性格とかまで透けて見えるような、上手さ。造形だけの模写ではない。曰く言い難い巧みなイラストである。 12月18日付の『日曜くらぶ』の記事のタイトルは「議員の世襲 そろそろ終わりにしないか」である。 私はハタと膝を打った。常日頃自分が考えていることであったから。 今回の内容は岸信夫前防衛大臣が、次期衆議院議員選挙に立候補せず、引退を表明し、病気の治療に専念したいという話だ。 岸さんは亡くなった安倍晋三さんの実の弟で、何のご病気が知らないが、車椅子に乗っていらっしゃる人である。 晋三さんの大腸の持病といい、岸さんのご病気といい、ご兄弟そろって病気持ちとはお気の毒なことである。まだまだお若いのに。 この岸さんの発言について、松尾さんが噛みついた。ちょっと長くなるが引用する。 『政治家を引退するのはもちろん自由なのだが、秘書で、最近までフジテレビの社員だった長男の信千世氏を「後継者」にしたいという考えも地元の後援会幹部との会合で述べたという。次の世代に期待を抱くということ自体は当たり前だ。80代になっても地位にしがみつく老醜を多く見せられている昨今、貴重なことだと思ったが、自分の息子に地盤を譲る権利を有するような物言いにあきれてしまった。 街の食堂が後継ぎに息子を推すというような私的な話ではなく、国民の健康と生活と生命を守る公職を息子に譲るという尊大な発想はいったいどういうものだろうか。政治を家業、稼業にしてしまっていいはずがない。先進国の中でも飛び抜けて世襲議員の割合が多い日本国だが、岸氏の息子については、周りから押し上げられるムードはなく、逆に地元の政界も戸惑いを隠せない様子だという。 こちらの一族は私が見るところ、さまざまな公的なものを私物化してきた印象を強く持っているが、臆面がないというか、含蓄がないというか、これほどあからさまに世襲宣言されるというのは、山口県の有権者や国民全体がいかになめられているかということではないだろうか。』 『中略。世襲議員の割合が増えるということは、縁故主義がはびこり、利権の構造を受け継ぐ割合がどんどん増えていき、彼らやその周辺の「富の固定化」がより頑丈になっていくということだ。生まれてこの方、何の不自由もなく、腹を減らして困窮した経験もない環境で育った権力者の子どもが、地盤、看板(知名度)、カバン(資金)を背負って選挙の公認を受け取って、当選後にのさばる時代は、そろそろ終わりにしないか。もう既に先進国とは言えない要素が多すぎるこの国だが、こんなみっともない政界は変えていかないと、さらに衰退は加速し、国が奈落に落ちていくだろう』 まことにもっておっしゃる通りである。 国会開会中に、私は好んで衆議院や参議院会館での議論の中継をテレビでよく見る。 今回の大臣の交代劇での、交代させられた大臣たちの答弁が、呆れるぐらい稚拙であるといつも感じている。 その方たちがすべて世襲議員ではないかもしれないが、次の指摘を読めば、相当な割合で世襲議員がいるということだ。 『世襲議員には、政治資金規正法違反事件の捜査の中で、不正の証拠隠滅のためにパソコンをドリルで破壊したと疑われた議員、旧統一教会との関係の何が問題かわからないと答えた議員、今よりずいぶん物価が安い時期にカップ麺1個の相場を聞かれて「400円ぐらい?」と答えた議員らがいる。不公平に対する義憤や正義感などみじんも感じられない人物が多い。』 『中略。(政治家の世襲が、筆者注)富と権力の固定化の原因であることは極めて明らかだ。中略。親の世代の不正は、近親者が権力を受け継げば、証拠の廃棄や隠蔽が連綿と続いていくことになる。ましてや、一族と旧統一教会との強い結び付きが明らかになっている中での世襲宣言には、めまいがするほどのおごりを感じる』と。 岸さんにはポカンとするほど、批判される真意が理解できないであろう。 岸さん、安倍さん1族どころか、4代も続く元総理大臣の家系もある。このおかしさを理解できない国民が1番愚かなのであるが。(2022.12.20.) (無断転載禁止)