「自作カット絵の素晴らしさで読ませる、松尾貴史さんの『ちょっと違和感』」

 松尾貴史さんのお肩書は「日本の俳優、放送タレント」という風に書かれている。
 検索すると有名な演劇での受賞歴もおありになるから、演劇人か?
 筆者は演劇界のことはちんぷんかんぷんなので、この方の舞台は1度も見たことがないのに、何故か何処かのパーティーでお目にかかった。
 確か、テレビ人のパーティーだったと思う。
 ご挨拶したら、上から、少し値踏みするような不思議なまなざしで見下ろされた。
 何しろ筆者は背が小さいので、大抵の人から見下ろされる。
 彼が毎日新聞日曜版にエッセイを書いていらした頃から愛読していて、現在は毎日本紙の日曜くらぶBに掲載されているので、毎回楽しみに読んでいる。
 文章はこちらもプロなので、特別の感想はないのだが、何がフアンと言って、取り上げた人物の似顔絵が物凄く素晴らしいのである。
 最近のお作は12月7日のもの。
 急逝された歌舞伎俳優、四代目片岡亀蔵さんについて書かれている。
 豪快に笑っている亀蔵さんの斜め左の似顔絵である。めちゃくちゃ上手い。
 これまでも、取り上げた人物の似顔絵のあまりの上手さに毎回唸った。
 さすが藝術大学のご卒業である。絵の専門家である。
 ただの写実さが凄いだけでなく、似顔絵なのに、品があるのだ。つまり、描き手の人格まで想像できる作品と言ったら褒めすぎか。
 でも、今回の文章はちょっと推敲足らず。
 「なになにして おられる」という表現が5個所もみられた。
 筆者はあまり「・・・おられる」とは言わない。関西弁なのか?
 「・・・いらっしゃる」とか、むしろ「・・・いられる」と言う。
 5個所を並べてみると、「飲んでおられた」、「滞在しておられた」、「しのんでおられた」、「働いておられた」、「抱えておられた」。
 これだけ「おられた」が並ぶと、それこそ『ちょっと違和感』である。(笑)
 似顔絵には松尾さんの様に、まるっきりド写実のものと、漫画的にデフォルメされたものと2種類がある。
 筆者が某週刊誌にコラムを連載していた時に、挿絵をお書きくださった所ゆきよしさんの御作のように、デカい顔で手足が短く、より似顔部分を強調したものとがある。
 所さんの絵は、大きなお顔に色気のある流し目に特徴があった。
 残念ながら、数年前にお亡くなりになってしまった。
 週刊誌の連載コラムだけでなく、美空ひばりさんについて書いた単行本の挿絵も描いていただいたのである。
 奥様のお話では、晩年、ガンをおしてベッドの横の机でお描きになっていたそうだ。
 似顔絵と言えば、新聞に長く4コマ漫画を連載していらした大御所の加藤芳郎さんを思い出す。彼はずっと毎日新聞に連載していらした。
 夫が毎日新聞の記者だったので、画家の方や漫画家の方たちとはいろいろとお付き合いがあった。
 ある日、何かの祝い事で、筆者は夫と一緒に加藤芳郎さんのお自宅を訪ねたのである。
 夕方だった。
 何が驚いたといって、もう、加藤さん宅はてんやわんや。
 新聞連載というものの厳しさの現状を目撃したのである。
 お家は紙類の山で、ご本人は資料や新聞雑誌の散乱した中にうずもれていらっしゃった。 
 その日の出来事をからめて、加藤さんは風刺漫画なので、皮肉の利いた4コマを描かねばならない。
 呻吟の真っ最中である。奥様は遠巻きで見守っていらっしゃる。
 今はネットという便利なツールがあるので、何でも一瞬に原稿を送れるが、昔は漫画家が描いたものを、オートバイが人力で運んでいたのである。
 古い話であるが、加藤さんの傑作の1つ、1970年のことである。
 作家の三島由紀夫さんが市ヶ谷の、旧自衛隊のパルコニーで演説した後、割腹自殺をとげた事件に関して、加藤芳郎さんがお描きになった。
 それは、3日前に亡くなられた評論家の大宅壮一さんが、生きていらしたら「何と仰るだろうか」という内容なのであった。
大宅壮一さんは1970年11月22日に亡くなられたのだった。三島自決は25日。
松尾貴史さんの描かれた似顔絵から、随分話が逸れてしまったが、写実の似顔絵から、漫画の似顔絵まで、似顔絵など描く才能のない筆者から見ると、ホント、凄いとしか言いようがない。

顔ついでに、令和7年の本日の話。
夕刊の1面に大きくお2人の顔写真が出ている。
昨日、ストックホルムのコンサートホールで行われた、ノーベル賞の授賞式に出席した受賞者の坂口志文さんと北川進さんのお2人である。
何となくお2人の顔の雰囲気が似ていらっしゃるのだ。
優しそうでにこやかで、厳しい学究の顔というよりは、親切な指導者という雰囲気である。
予算の少ないわが国の研究施設の中でも、激高せずに穏やかに真実を追求してきた度量の大きさが感じられる。
小者の筆者なんか、ちょっと障害物があるとすぐ腹を立てる。
われながらなっとらんね。
お2人とも、多分ベターハーフの奥様に支えられて、与えられた環境の中でひたすら前を向いて研究を続けてきたのに違いない。
非常に嬉しく誇らかである。
大国ぶって文句たらたらの某国には、あまり、ノーベル賞の授賞者が出ない。切歯扼腕しているだろう。坂口さん、北川さん、おめでとうございます(2025.12.11.)。
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