➁ 新しい「遠眼鏡」の始まりです。また、ご愛読よろしくお願い申し上げます。令和8年9月15日筆

                              

 ちょっと間が空いてしまったが、どうしても書いておきたい方がいる。
 女優の岸惠子さんである。
彼女の訃報が報道された時、サイトの①の終了時と重なったために、書くことが出来なかったので、➁のイの1番に書くことにする。
 筆者は岸さんから、直接30.000円のギャラをもらったことがある。
 あんな大女優さんから、直接お金を頂いた人間はあまりいないだろう。
 さっぱりした方で、秘書とかマネジャーさん経由ではなくて、ご本人が筆者に送ってくださったのである。
 彼女がお書きになった小説、『わりなき恋』を送っていただいたので、読後感をお手紙で出したら、筆者の中ではただのお礼の文章にすぎなかったのにとんでもないことになった。
突然、彼女から電話がかかってきて、本の広告に使ってもいいか、との問い合わせである。
 「えーっ」。
 びっくりはしたが、筆者は深く考えもせずに「どうぞ」とお返事した。
 数日後、朝日新聞に岸さんの『わりなき恋』のデッカイ広告が載った。
 出版社は、本が売れていると広告を出すのである。
 筆者がお送りした感想文の中から、『名著である…云々』の文章が取り上げられていて、筆者の名前も書かれていた。
 確かに切り抜いたと思うが、膨大な自分の掲載紙誌の中に埋没して、今ではどこに行ったかわからない。
 その掲載ギャラを大女優さんから頂いたのである。
 「恐れ入ります」の感慨しかなかった。
 『わりなき恋』のディテールは忘れてしまったが、ヨーロッパ線の航空機の中で出会った男女が、パリの名だたる橋の上で再会する。
 主人公の女性は70代、日本の常識では、「おばあさん」だが、岸さんを投影している主人公は、どうしてどうしてシャキッとした美しい自立したマダムだ。
 胸がキュンとする描写だった。
 本当にこのような男性がいたのか?
 岸さんには伺わなかったが、絶対にモデルはいたはずである。
 さて、岸さんが長く出演されていた某局のテレビ番組のトップ・プロデューサーが、畏れ多くも筆者の書いたものの長年の読者であったので、共通の友達になった。
 そのPさんは岸さんを連れてパリに4回もロケにいらした方なので、彼の信用で筆者も最初から親しくしていただいたのだと思う。
 物書きの筆者は、映画界とは無縁であったから。
 もう1つ岸惠子さんで忘れられないことがある。
 ある日、河田町の喫茶店で、音楽団体の偉い方と打ち合わせをしていた。
 そこに岸さんから筆者に電話がかかってきた。
 切迫したテーマでも何でもなかったのだが、彼女は電話を切ってくださらない。
 音楽団体の偉い方は待っている。
 大女優さんの電話はなかなか終わらない。
 「すみません、今、打ち合わせ中で・・・」と彼女の話を遮れない。
 筆者は焦りまくったが、唐突に電話を切ることは出来ない、先輩に対して。
 婉曲に会談中なので、と言っても、彼女は馬耳東風である。
 周りに支える方が一杯いらっしゃるだろうが、大スターはのんびり雑談も出来ない孤独さがあるのだろうと感じてしまったのであった。
 今思い出しても冷や汗が出る。
 岸さんは『君の名は』の映画の『真知子巻き』で有名になったと、テレビ報道で言いまくっていたが、ちゃんちゃらおかしい。
 NHKのラジオ放送で、『菊田一夫作・・・』と『君の名は』が大ヒットして、映画化されるとき、岸さんが何と言われたか、若い人は知るまい。
 「あんなウジウジした女は嫌い」という意味のことを、岸さんはおっしゃったのである。
 後宮春樹も氏家真知子も、相手の名前も確かめないで別れるという、筆者に言わせれば「バカ男女」だったのである。
 理知的で颯爽とした岸さんが、なよなよした菊田一夫創作の真知子を好きなわけはなかったのだ。笑。
 『君の名は』の放送では、筆者はサブで登場した綾という気風のいい女が好きだった。
 確か、映画では淡島千景さんが演じられた。
 また、伊藤久雄さんや織井茂子さんら、実力者の歌手たちが歌った主題歌がどれも素敵だったと記憶する。
 後に朝ドラ、つまり、朝のテレビ小説で、美人の鈴木京香さんが演じた『君の名は』を、筆者は気恥ずかしくて見られなかったのだ。
 うんと若いころ、某誌は岸惠子さんにとても意地悪で、彼女がシアンピ監督と結婚してフランスに渡る時も、バカにしたようなキャプションを書いた。
 筆者は岸さんの格別のフアンでもなかったが、「あんなに美しい人を、どうしてこき下ろすのだろうか」と、一読者として不愉快だった。
 昔は今と違って、芸能人を一段下に見る風潮があったからか。
 悠然と大スターを生き抜いて、最後はお嬢様やお孫さんにも看取られず、亡くなった岸惠子さん。多少のご縁があった者として、心からのご冥福を祈ります。
 (2026.9.15)合掌。
(無断転載禁止)