「新型コロナウイルス禍の外出自粛、わが体験」

  緊急事態宣言発令以来、わがマンションのリビング側に面した大きな通りが、シンとしている。人通りも少ないが、車が極端に通らなくなっていて、まるでお正月の三が日か、お盆の真ん中みたいに、バス以外の車が通行しなくなった。
  従順な日本人は外出だけでなく仕事での運送やドライブも極端に自粛しているのだろう。
  しかし。
  これで、都知事が言うように感染爆発を軽減できるとは、私にはどうしても思えない。
  何故なら、先週のことだが、予約されていた治療中の奥歯の型取りに歯医者へ行ったら、そこは、モロ『3蜜』状態であったのだ。
 待合室には患者が複数いる。診察室に入ったら、狭い部屋に歯科医師の先生と歯科技工士(?)兼看護助手と、ほぼ密着している。
  私は診察台の上に無防備に大口開けて横たわり、「2人のうちのどちらかでも陽性だったら、お陀仏だなあ」と考えたが、どうしようもない。
  隣の診察室には子供の患者が2人も来ていて、キャッキャッとはしゃいでいる。その部屋には先生と看護師と患者2人が密着していて、『蜜、蜜』状態である。ところが、医師も看護師もいつもと変わらず、コロナ禍を心配している様子もない。
  いつもと違うのは、待合室の道路に面した大窓が、少しばかり開けられていて、換気をしているつもりなのだろう。だが、回転窓なので、余り空気が入れ替わっているようには感じられない。患者が横たわる診察台も患者ごとに消毒しているようには見えなかった。
  高齢の私、ここでうつったら、正味「ジ・エンド」である。
  さて、今から約100年前の大正7年、スペイン風邪と呼ばれた第1次のインフルエンザ・パンデミックが世界中を席巻した時、私の父は初めて寝込んだという。彼は103歳まで生きたのだが、後にも先にも病気をしたのがこの1回だけ。
  後はわが母親の介護の時に過労で少し寝込んだらしいが、レントゲンを撮ったこともなく、病気知らずで長い一生を健康に生きた。大正12年9月1日の関東大震災の時には、東京のド真ん中にいたのに助かったのだ。
  父のことを思い出すと、こういう流行病の時には、ジタバタしてもはじまらない。うつるかうつらないかは神のみぞ知る。確かに、危険地帯に踏み込まないように努力はするべきであるが、先ほどの歯医者のように、わが努力ではどうにもならない場面に遭遇することもある。だから、免疫力を高めて、ウイルスの接近を撃退する体力を維持しなければならない。
  運動不足でお腹が空かないので、栄養のある物を次々食べるわけにもいかないが、3度の食事は規則正しくとる。なるべくストレッチやスクワットをして血行を良くする。散歩は欠かさない。食材を買いに行った先のスーパーでは、レジの行列の時に間隔をあけて待つ。
  それでも陽性になったら、運命であると思ってくよくよしない。
  仕事に関しては、先日、封書が来た。
  電通からである。これで2度目。最初の封書には、「第73回広告電通賞フイルム部門 東京地区選考についてのご案内」とあり、例年、4月に汐留の電通本社の巨大ホールで選考委員が集まって4日間選考する。第一線の企業の宣伝関係お偉いサンばかりなので壮観である。それを今年はコロナ禍で、「会場選考を中止し、オンラインにて選考」とあった。
  予想していたが、追いかけるように数日後、また封書が来た。「おかげ様をもちまして、広告電通賞は新型コロナウイルスの影響下にも関わらず、前年比約98%ものご応募をいただき、・・・中略・・・現在の社会状況を鑑みて実施が不可能との判断に至りました」
  「第73回につきましては、応募完了をもって選考会の過程および5月29日の全国正副委員長会、最終選考委員総会、7月1日の贈賞式を一旦延期とし、後略」となった。
  またまた予想した通りである。
  これより前、私が例年参加している「NHK文研フォーラム2020」の開催中止のメールが来た。文研フォーラムとはNHKの愛宕山にある「放送文化研究所」のメンバーたちや、外部の放送文化に造詣の深い研究者たちによる年に1度の研究発表会である。数年前、声が大きくてド派手なウエアの紳士と話した。かつての名キャスター、磯村尚徳さんだった。
  中止の知らせはまだまだある。メンバーになっている放送批評懇談会が例年顕彰している「第57回ギャラクシー賞」の発表と贈賞式延期のお知らせというのまで来た。「新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言の影響により、選考作業、選考会などが予定通りには実施できず、4月中に入賞作品を決定することが難しくなりました」
  「大賞ほか各賞を発表する贈賞式は、6月1日の開催を予定しておりましたが、現状況下での開催は困難であるため、これも延期を決定いたしました、後略」
  という具合で、関係しているテレビ界のイベントは全滅!!
  ただ1つだけ、ネット上で審査・投票する「ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞」だけは、すでに投票結果もまとまり、後日誌上で発表される。私は審査員を長年務めさせていただいている。勿論、週に3本書いているコラムは変化なしに続けているが、近頃、ネタがコロナだらけで番組のチョイスに大変苦労する。
  1か月ぐらい前、笑い話みたいなことが起きた。
  ワイドショーやニュースショーにコメンテーターとして登場してきて、今や超モテモテになった白鵬大学教授の岡田晴恵さん。最初は御髪(おぐし)を顔の両脇にだらりと垂らして、女っぽさを強調していたので、私はコラムで噛みついた。
  「前略。2000人以上もの人が亡くなっている時に(2月21日当時)、衣装の話など不謹慎のそしりを免れないが、女性のコメンテーターはどうしても見栄えが気になる。美醜ではなく、なんで命に係わる伝染性の病についてコメントする人が、長い髪をだらりと垂らして、女らしさを強調するのか理解に苦しむ。キリリと髪は後ろで束ね給え。タレントじゃないだろう。後略」・・・そしたら、びっくり!
  その日のうちに、髪を後ろで束ねて岡田さんは登場なさったのである。
  他の誰かも同じ指摘をしたのか。恐れ入ります。お話は拝聴していますよ。(2020,4,17)
                                                                        
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