「ショパンコンクール、日本人2人入賞で大騒ぎ。エリザベート王妃国際コンクールも忘れないで」

  ポーランドの首都、ワルシャワで開かれていた第18回ショパン国際ピアノコンクールで、日本人が2人も入賞した。
  2位が反田恭平君(27)で、4位が小林愛実さん(26)とは快挙である。
  かつて、私の周りでウロチョロしていたある女性が、物凄いクラシックファンで、国際ピアノコンクールの裏側の、汚いあることないことを私に吹き込み、私はウンザリしてしまったので、近頃は全く音楽コンクールそのものにも関心がなかった。
  ところが今回、何故か知らないが、私のスマホにショパンコンクールの選考経過とか、コンテスタントの演奏とか、頼みもしないのに入ってきて、自然と見聞きする羽目になってしまったのだ。余り私は暇がないんだけど。
  2次予選から時々見ていたが、その中に反田恭平君が入っていたので、私は「ウッ」となった。反田君と小林さんと、それから、わが母校の後輩、東大出身の角野隼斗君らの演奏を映像で聴いたわけだ。
  反田君で「ウッ」となった理由は、彼がまだ高校生だった時、2012年の『毎コン』今は『日本音コン』というが、その『日本音楽コンクール・ピアノ部門』の本選を、私はたまたま会場で生で聴いていたのである。
  しかも、いい席が取れず、会場の左側の2階席、つまり、コンチェルトだったらピアニストの頭の真上から見下ろす場所の席で、コンテスタントが若い人たちだからいいけれど、もし、大家のピアニストだったら、テッペン禿げを見下ろすことになる場所だった(笑)。
  反田君がその時に選んだコンチェルトが、事もあろうにピアノ協奏曲で最も難しいと言われる『ラフマニノフ作曲のピアノ協奏曲第3番』だったから、どひゃー!!!
  私は当日まで応募者たちの情報にも関心がなかったので、てっきり、反田君はコンクール猛者で、小さい時から親に連れまわされてコンクール慣れしている青年だと思っていた。
  ところが、第1位になってから、わが家は毎日新聞をとっているので記事を読むと、彼が「3次予選に通ると思っていなかったので、本選のコンチェルトは全く稽古をしていなかった」と答えていたのだ。
  「だから、大慌てで、譜読みして、わずかな期間で仕上げたから、1位になるとは思っていなかった」的なコメントだったと記憶する。
  「凄い子だ!」と私は感心した。
  亡き中村紘子さんに言わせると、音符が20,000字もあって、覚えるのが大変、という曲である。それを本選までのわずかな間に譜読みして完成させた恐るべきガキ(失礼)だとその時、私は彼の名前を覚えたのである。
  私は男に関しては異常なくらいの面食いなので、可愛いけれどマンガみたいに楽しい雰囲気の反田君にはファンになる食指は動かなかったが、あの、難曲中の難曲、『ラフマの3番』を弾いた凄い子として、私は1人だけスタンディングオベーションで拍手をした。この日のことは今でも鮮明に思い出す。
  同じく第1位になった務川慧悟君も素晴らしかった。
  彼は先日、世界3大国際コンクールのエリザベート王妃国際コンクールで、第3位になっている。ショパンのように大騒ぎをしないが、格から言って決してショパンに負けない大コンクールなのである。
  女子供のお遊びお稽古事あつかいをされてきたピアノ演奏界に、つぎつぎと凄い男の子たちが頭角を現してきた。まことに素晴らしい。
  だけど、ちょっと待て。
  大変なのはこれからなのである。
  中村紘子さんに言わせると、「世界中でピアニストは20人いれば足りるのよね。それなのに、次から次と若い優秀なピアニストが出てくるから、供給過剰。多すぎるわ」だって。
  そういえば、ショパコン覇者のスタニスラフ・ブーニンさんはどうした?
  私の隣に座って凱旋コンサートを一緒に聴いた音楽評論家のA氏が、演奏直後に「つるつるつるの中華ラーメンだね」と酷い悪口を吐いて私を噴き出させたピアニストのユンディ・リィ君も、今はどうしてる?
  ネット情報では、買春容疑で北京市の公安に逮捕されたとあるが、ホントか?
  いずれにしても、あまり芳しい情報ではない。
  コンクール直後のチヤホヤに浮かれない方がいいわね。
  さて、4位になった小林愛実さんだが、第17回のショパコンで本選出場者になった時、私はあまり好きではなかった。
  小さい体で頑張っているのは痛々しかったし、なんか、肩を怒らせて「私、上手いでしょ」と突っ張っているようで感じが悪かったからだ。
  今回、第3次予選の演奏を聴いて見違えるように素敵になっていた。
  5年間の成長はまぎれもなく、しっとりとした大人の女性の雰囲気を醸し出し、ドレスも中間色の品のいい地味さで、惹きつけた。
  私が特に評価したのは、大抵のコンテスタントが3次予選では『ソナタ』を選ぶのに、彼女は『24のプレリュード』を弾いた。
  これがよかった。端正な、隅々まで彫琢された出来栄えで、私は彼女のプレリュードを聴きながら、「本選でも入賞するだろうな」と思ったのである。
  最後に、わが後輩の元東大生・角野君は残念だった。上手いことは上手いのだけれど、どこか雑さがあり、私は審査の公平さに感心したのである。
  1位になったカナダ人の演奏は聞いていない。
  また、サントリーホールででも演奏会があれば、行くつもりである。
  若いピアニストたち。以後の人生は、結構、厳しいわよ。
  でも、おめでとう。(2021.10.22) 
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