日常が余りに忙しいので、テレビで浅草などの観光地で楽しそうに散策している人たちにインタビューしたGoToトラベルの映像を、指をくわえて見るばかりだった。 いち早く流行り物は取り入れる性格の私としては、珍しく遅れを取っている。 東京の人間が動くのはまかりならぬと言われていた時から、わが家では、必然的に安曇野のセカンドハウスには行かざるを得ず、別荘では東京以上にハウスワイフ業が煩雑なので、少しも旅行気分になれなくて歯ぎしりしていた。 この秋には、何が何でもGo Toトラベルを利用して温泉に行くぞー、と決意をしたが、中々まとまって時間が取れない。 その頃も、私がコラムに書いている映像批評のために、連続ドラマのチェックに追われていたのだが、コロナ禍のお陰で、放送がぐちゃぐちゃ。4、5、6月のクールと、7、8、9月のクールが区別できなくて、放送開始が遅れた作品があるかと思えば、全然ドラマが始まらなくて、始まったと思ったらすぐ終わってしまうのがあり、けじめがつかなかった。 従って、連続ドラマの審査員をやっている仕事の方でも、ノミネート作業が2クール纏めてやっと10月に投票できたりして、いつ何時、時間が取れるかはっきりしなかったのである。 10月の初めに「もう、我慢できない」と大手デパートの中にあるJTBのコーナーに出かけて、GoToトラベルについて聞いた。 すると、なんと10月の下旬にならないと面談の時間さえ取ってくれないという。 3週間ぐらい先の1時間をやっと予約してもらえて、待ちに待ったのだった。 インターネットや他の会社で調べる手もあったが、報道では、中小業者では予算切れで予約してくれないという話もあると知り、昔から馴染みのあるJTBに頼むことにした。 10月の下旬のある日、予約してもらえた時間にいそいそとJTBの店頭に出かけた。昔のようにフリで対応してもらえないので、意外に店頭には人が少なく、シンとしている。 予約を取るための予約、の時に渡された書付と担当者の名刺を持って座った。 名刺の主は休日とかで、別の女性・Mさんが応対してくれる。目から上だけのマスクお嬢さんだが、テキパキしていて美人らしい(?)。 Mさんは横のPCに色々打ち込んで調べてくれるのだが、首をひねっている。 「その頃ですと、箱根の〇〇旅館では、少し空きがございますが・・・」 JTBが提携しているホテルや旅館の大カタログを見せてくれたが、如何せん大規模大衆ホテルである。あまり食指が動かない。 「K荘はいかがですか」とまたカタログページを示されたが、ここには芳しい思い出がない。 昔々、何かの僥倖でこのK荘に安く泊まったところ、畳は黄ばんでいるし、仲居さんも「安い料金の客」という風な差別的態度が感じられて、私は2度と来るものかと憤慨した記憶のある旅館だった。 それで、パス。 「箱根は1杯なんですね、じゃあ、湯河原か修善寺でもいいですよ」と提案した。 「ちょっとお待ちください」と言って、彼女は修善寺の◎◎旅館を紹介してくれた。 見ると、総合評価90点の小ぶりの和風旅館である。たった1部屋だけ空いていたので、即決定。 「しばらくお待ちください」と言って、Mさんは奥に引っ込んだ。ものの5、6分後に現れたMさんは、書類が8組も入った分厚い封筒を持っている。 なんとなんと、もう、書類1式が完成されて出てきたのだ。 〇 お申込からご出発までの手続きのご案内 〇 最終旅程表、修善寺温泉旅館協同組合 感染防止ガイドライン、お泊りマップ 〇 旅行にあたってのご注意事項 〇 旅館のディテールが書かれたページのカラー写真と評価表 〇 封筒に入った往復の乗車券と特急指定券 〇 JTB電子クーポンのご利用方法 〇 地域共通クーポン ご利用の手引き、地域共通クーポン12,000円分(1,000円12枚) 〇 アンケートご協力のお願い、と返信用封筒 兎に角、これさえ持っていけば交通費もいらない、お泊りも出来る、向こうで飲み食い、お土産買い、タクシー乗りなど、みんなまとめてOKなのだ。 肝心のお金だが、東京から修善寺までの足代を含めて、◎◎旅館の1泊代が定価82,200円(2名)。 その内、1日1人当たりの最大給付額が20,000円なので2人分で40,000円。 この内訳はGoToトラベル割引が28,000円。 GoToトラベル共通クーポン額が12,000円。 足代を含めた総旅行費82,200から、トラベル割引28,000円を引いた金額。 つまり、私はそこで54,200円を払ったのである。しかも、別にくれた地域クーポン12,000円の金券(?)があるから、これを全部使えば、実質、42,200円の出費で修善寺1泊旅行が成就するのだ。 お上の旗振りを白い目で見ていたが、はっきり言って有難かった。 大きな旅行会社はまるきりのお任せなので、楽ちんだ。 私は海外旅行でも自分で計画を立てて個人で出かけるのが好きなので、あまり代理店は使わない。1度だけツアーに乗ったら、歩かされるばかりの上に、観光地で、私は土地の資料や出版物を買いたいのに、本を買う人なんかゼロで、閉口したことがあった。 だから、団体旅行はごめんである。 さて、コロナ禍の中の温泉行がどのようなものになるか予想がつかない。 後、数十日の間、体調を整えて出発の日を待つ。それどころか、修善寺行きの前に安曇野にも行かねばならない用事がある。老骨に鞭打っての移動は疲れる。PC持参で出先でも原稿書きだから。 話は変わるが、テレビニュースで見るわが愛するパリが、またまたロックダウンで悲しい。 シャンゼリゼ通りに車や人影がなくなっているなんて、本当に悲しい。 新型コロナウイルスを最初に漏らした国に腹が立つ。 早くワクチンが出来ないものかと日々祈っている。 私も家族も罹らないように、心して旅に出かける。(2020.10.30) (無断転載禁止)