「テレビ界、コロナの中で徐々に動き出した賞取りレースの裏話」

 2020年はコロナ禍で放送がぐちゃぐちゃになり、それに連動して各種テレビ番組の賞取りレースもぐちゃぐちゃ。3カ月ごとに行われていたザテレビジョン・ドラマアカデミー賞(KK.KADOKAWA主催)も4月期はなかった。
 それがこの度、4月期と7月期を合わせてやっと第105回が発表された。(ザテレビジョン 11/13号発表)。私も審査員の末席に加えていただいているので、ちょっと結果に触れてみたい。部門ごとにノミネートして集計された結果である。
 最優秀作品賞はTBSの『MIU404』で、2位がやっぱりTBSの『半沢直樹』だった。『MIU404』は視聴率的にはあまり高くはなかったが、スタッフが1流メンバーばかりで、実に面白いバディものだった。働き方改革で創設された警視庁刑事部の第4機動捜査隊という架空の部署に属する2人の警官の活躍を描いた。
 1人は星野源さん扮する理論派で万事冷静な志摩刑事、1人は綾野剛さん扮するめっぽう足の速い奥多摩の交番勤務だった伊吹刑事。2人が街をパトロールしながら事件を解決する。何が傑作だったといって、2人が乗っている警察車。ちっちゃなワゴンで表向きはパン屋のメロンパンがイラストに描かれた車。要するに町の人たちを緊張させないためのカモフラージュなのだが、間違って「メロンパン売って」と客が来たりする。運転している志摩とバディの伊吹は鋭い視線で街中の人たちの動きを注視しているのだ。
 近来にない傑作連続ドラマだった。
 個人賞では最優秀男優賞が『半沢直樹』の堺雅人さん、最優秀女優賞は『私の家政夫ナギサさん』の多部未華子さん、最優秀助演男優賞はこれまた『半沢直樹』の香川照之さん、最優秀助演女優賞はまたまた『MIU404』の麻生久美子さんだった。まるごと1局が独占。
 つまり、個人賞の1位は総てがTBSの作品だったということである。
 私が関わっている賞のもう1つのビッグコンクールは、広告電通賞である。
 私は30年以上もテレビ部門(現在はフィルム部門)の選考委員をやらせていただいているが、例年だと、5月ごろに中央区の電通本社の大ホールに審査員が結集して、朝から晩まで各部門の審査をする。
 巨大なスクリーンと脇にあるテレビ受像機とに映し出されるCMを、秒単位で採点するのである。部門は商品の性格や、映像の長さや、バージョンが3つもあるシリーズ部門などに分かれていて、それらを秒速(?笑)で採点する。
 予選から最終選考まで一気にやってしまう。
 1日に300本ものCMを見続けるとヨレヨレに疲れるが、日頃自分が見ているテレビ受像機の中のCM以外に、目が覚めるように優れた地方の作品に出会えることもあり、実に楽しい選考会である。
 ところが、である。
 今年はコロナ禍で、電通本社に集まって審査することが出来なくなった。
 今年は「ナシね」と思っていたら、電通さんの担当部署からメールが来たのが8月。web上で作品をみんな閲覧して、web上で審査して、採点してお返しするという方式の連絡が来たのである。
 まあ、これがやりにくいのなんの。疲れるのなんの。並んでいる作品群のナンバーを別紙に書いて、1個1個作品を視聴して、1個1個採点して、最後にその部門の定められた推薦本数を決めて印をつける。
 Web上で見た順にどんどん推薦作を選ぶわけにはいかないのだ。何故なら、何十本もあるその部門の中から、決められた本数だけピックアップするには、全体を視聴した後でなければ、本数が多過ぎたり少な過ぎたりするからである。へとへと。
 まあ、何とか期限内で送稿できた。
 これが予選である。
 11月の初めになって、8月に選んだ予選通過作品がまたweb上で送られてきた。
 私がいいなあと思っていた作品が、嬉しいことに沢山予選を通過している。
 今度はexcel上に予選通過作品名が並んでいて、右の方に採点欄がある。ここに1位、2位、3位と順位を付けてレ点で表示する。
 この結果は集計した後にまた送ってくるのだろうが、私が予選で丸印を付けたものが結構残っていたので嬉しかった。
 審査結果が出ていない段階なので、選考とは別物と考えていただきたいが、先述したように、何時もテレビで見ている物とは違った発見があるという例を挙げる。
 既にユーチューブでも載せられているので見た方がいるだろうが、ある地方新聞社が作ったCMである。大地震が起きた時の心構えが説かれている。
 新聞の4コマ漫画から、マンガの家族たちが飛び出して、津波警報が出た場合、それぞれの足で、それぞれが高台へ逃げたり、鉄筋の強固なビルへ逃げたりしろと説く。
 家族揃ってではなく、みんなが自分でバラバラに逃げろという教訓である。1刻をあらそう場合なので、待ち合せたりするなと言っているのだ。物凄く説得力のあるCMである。
 さて、11月9日から13日まで、NHKのBSプレミアムで、2020年の主要コンクールの1位作品が放映されている。1見の価値ある作品ばかりである。
 9日『おじさん、ありがとう』(バンエイト制作、ATP賞テレビグランプリ受賞)、10日『ボルトとダシャ』(NHK、えふぶんの壱制作、芸術祭賞受賞)、11日『なかったことに、したかった。未成年の性被害①ほか』(日本テレビ放送網制作、放送文化基金賞受賞)、12日『聖職のゆくえ~働き方改革元年~』(福井テレビジョン放送制作、日本民間放送連盟賞受賞)、13日『カネのない宇宙人~閉鎖危機に揺れる野辺山観測所』(テレビ信州、ギャラクシー賞受賞)など。
 『おじさん、ありがとう』は繊細で壊れやすい非行少年たちを、自分の寺に住まわせて立ち直らせる、令和の駆け込み寺の熱血和尚・廣中邦充氏(故人)と少年少女たちとの幾星霜を追った感動のドキュメントである。みんな素晴らしい。(2020.11.10)

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