「大河ドラマ『光る君へ』NHK総合 は今のところ、あまり面白くない」

 前作の『どうする家康』がつまらなかったので、2回目で挫折しそうになったが、筆者は「ドラマアカデミー賞」というイベントの審査員を長く拝命しているので、見ないわけにいかず、Ⅰ年間、呻吟しながら視聴して、ようやく解放されたのである。
 だから、今年は大いに期待していたのだけれど、4回まで見て、がっくりしている。
 はっきり言って、面白くない。
 平安ものに懸念はあったが、今を時めく吉高由里子さんの主演とあって、奇跡が起きるかもしれないと淡い期待をしていたのに、4回見たところで、「うーむ」と唸っているのだ。
 『どうする家康』は箸にも棒にもかからなかった。
 主演俳優に魅力がなかった。何を描きたいのかわからなかった。
 「ドラマアカデミー賞」は、クールが終わる度に、審査員やテレビ記者たちが、選考部門ごとにノミネート投票をして、読者層の投票結果と合わせて順位が決定する非常にフェアな賞である。
 だから、責任も重いし、ちゃんと3カ月間視聴していないと批評眼を疑われる。
 半年続くNHKの大河ドラマがあれば、まず、その期の優秀作品候補に選出されるのが通例である。だから、投票の一翼が塞がるから助かる。
 しかるに、昨年12月のノミネート投票では、『どうする家康』はパスされてしまった。
 下位に選ばれているだけである。
 筆者は全く当作には投票しなかった。助演女優賞に茶々は選んだけれど。
 まだ発表前なのでディテールは書けないが、10月~12月期の優秀作品に、大河ドラマは入らなかったのである。
 さて、『光る君へ』に戻ろう。
 つまらない理由の1つが、言葉遣いである。1000年も前の平安中期の言葉で喋れなどと、無理なことは言わない。
 全く現代語で喋るものだから、「平安時代の雅(みやび)」を期待した者としては、「なんじゃ、これ!」と言いたくなる。
 主演の吉高由里子ちゃんが、筆者には、原宿の竹下通りに出没する今時の「綺麗なお姉さん」に見えてしまう。この人、後の紫式部さんでしょ?
 時々筆で文字を書いている横顔が映るが、そもそも、観察力の鋭い知的女性というよりは、真昼間から、派手な衣装で、河原〇〇〇もいるかもしれない危ない広場に出かけて、うろうろ目線を泳がせているちょっと足りない(?)娘に見えてしまうのだ。
 どんなに下級貴族といえども、庶民ではない貴族の未婚の女性が、屋敷から出歩くものだろうか。
 この広場がとんでもない。トンボ返りの芸人がいる、市井の庶民がいる、そこに貴族の藤原の公達(きんだち)が馬に乗って通りかかる。
 まひろ(吉高由里子)の視線が泳ぐ。
 おひいさまがウロウロしていたら襲われるのではないか。
 第1回の終盤で、いきなり、女主人公まひろの母・ちやは(国仲涼子)が殺されて驚いたが、ははあ、作り手もショック療法で来たナ、と思った。
 物静かな紫式部が主人公では、よほど物語の展開に起伏をつけないと視聴者がついて来ないと考えているのだなと、勘繰ってしまったのである。
 脚本家はベテランの大石静さんである。手練れの方である。
 あの、鈴木京香さんと長谷川博己さんとの不倫ドラマ『セカンドバージン』を大ヒットさせた方である。ちなみにこの作品の演出は才人の黒崎博さんだったか。
 ずいぶん前、テレビ人たちの小さな会合で筆者も呼ばれた。
 筆者がどこかで彼女の作品に辛口批評を書いたのか、出席なさっていた大石さんに冷ややかに睨まれた。怖かった。
 今は亡き鶴橋康夫監督も出席なさっていたことを思い出す。
 我慢して視聴していれば、大石静さん脚本ならば面白くなってくると思う。
 ただし、言うことはいう。
 もう1つ気になるのは音楽である。冬野ユミさん。
 幅広く活躍なさっている方らしいが、筆者は知らなかった。
 軟派音楽にも長けた方らしいが、大河ドラマで気張ってしまったのか、出だしはまるっきりクラシック調である。
 しかも、あの、ショパンコンクール2位受賞で、一躍有名になった反田恭平君がソロパートを華麗に弾いている。
 でもなあ、曲自体がどこかで聴いたようなクラシックもどきで、斬新さに欠ける。その上、ドラマの中盤になるとギターが出てきたり、軟派の地下ライブで奏でられる音楽みたいだったり。
 大昔の芥川也寸志さんの『赤穂浪士』、あの素晴らしい名曲が懐かしい。
 最後に1言。
 あまりに登場人物が多すぎて覚えられない。相関図と首っ引きで「この人は藤原のナントカさん。この人は右大臣? 左大臣?」などと学習せねばならない。疲れる。
 吉田羊さんは誰の奥様だっけ?
 筆者は相当にテレビ視聴に慣れたプロ人間だと思っているが、それでも汗をかきかきついてゆくのは、全く楽しくない。
 登場人物を整理してくれ。
 柄本佑さんの白い顔がよく出てくる。名優の2世は恵まれている。
 御簾の向うにおわします天皇(坂東巳之助)や、車座になって言葉遊びをしている女御たち、絢爛豪華な衣装は目の保養である。早く紫式部の文章で「耳の保養」もさせてほしいものである。(2024.1.30.)。
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