「アカデミー名誉賞を11月に受賞することになったトム・クルーズさんの、映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』を、遅まきながら見てきた」

 「ミッション・インポッシブル」と言えば、筆者の年代の人間にとっては、テレビドラマ・シリーズの『スパイ大作戦』が大元である。1966年から1973年まで放送された。
 IMFのスパイたちに届く命令は「おはよう、フェルプス君・・・例によって、君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで」云々のセリフ。
 ここで、録音テープはぴゃーっと煙とともに消えてしまうのだ。
 面白かったなあ。
 微かに覚えている大傑作は、悪どもが地下から潜望鏡みたいなものを、くるくる回しながら地上に突き出して、地上の様子をうかがうと。
 地上は荒涼たる焼け野原になっていて、360度全部が破壊されつくした大地である。
 つまり、地上には核兵器が落ちて建物も人間も死滅したのである。
 ところがどっこい、これは、スパイたちが巨大な円形の壁を作って、その円形の中は総て焼けつくされた黒焦げの土地であり、壊れたビルであり、土気色の荒涼たる大地だけで、人間も動物も緑の草木も何もない。焼け野原だけなのであった。
 実はこれらは皆、絵である。フェイクのハリボテ。
 地下の悪どもは、地上に原爆が落ちたと真っ青になるのだ。つまり、逃げ場所がない!
 見ているわれわれはお腹を抱えて笑ったのであった。
 『スパイ大作戦』のもう1つの華は、あのテーマ音楽である。
 『ミッション・インポッシブル/ファイナル・レコニング』でも勿論使われている。
 今回のミッションで、筆者が同情したのは、敵である。
 昔々の巨大な共産圏の悪もいなければ、訳が分からない007のモンスター悪もいなくなっちゃって、人類の共通の【アク】は核兵器である。
 だが、それを操る悪が消滅(実際には消滅していないが)したので、登場するのがAIだって!
 これには、笑った。だってそうでしょ、AIは人間が作ったものであり、本来は人間の助手をするべき道具である。大昔のSFじゃあるまいし、迫力に欠ける。
 この映画では、人類を抹殺できる能力を持ったAI「エンティティ」を止めなければ人類が滅亡するということになっている。
 見ていて、相手が人間ではないので、前半は、アクションは物凄かったが、はっきり言ってピンとこなかった。
 IMFの今回のミッションはソースコードを手に入れることである。
 メンバーはご存知、主演のイーサン・ハント(トム・クルーズ)。
 ベンジー(サイモン・ペック)、グレース(ヘイリー・アトウェル)など。
 トム・クルーズさんも年を取った。62歳だから仕方がないが、街中を疾走する場面や、格闘する場面に衰えは感じられないし、笑顔は可愛らしい。
 でも、お顔の皮膚は年相応だな。
 筋書きはどうでもいいが、筆者が感心したのは、まず、海に沈んだロシアの潜水艦-セヴァストポリが、搭載したAIの暴走により危険が発生する。
 イーサンはたった1人で裸同然に酸素だけ背負って止めに行くのだ。
 周りの人たちは、イーサンが生還できないのではないかと、気の毒そうな顔をする。
 ここは特殊な方法で撮影したのかもしれないが、イーサンが水圧の強い海の中を探し回る場面で、筆者は余計なことを考えてしまった。
 トム・クルーズさんは強い肉体を持っているから、少しぐらいの水圧にも耐えられるであろうが、彼を撮影しているカメラマンは大丈夫なのか?
 それとも、カメラだけ撮影用の船から海の中に差し込んで、トムさんをカメラの遠隔操作で撮ったのか。潜水シーンが異様に長かったので、余計なことが気になってしまったのだ。
 筆者のように、すぐこちら側の撮影者を気にする人間は、映画に没入出来なくて困る。
 さて、いよいよ、最後の大迫力シーンである。
 小型の複葉機の上での、スタントマンなしのトム・クルーズさん。
 一世一代の大大迫力場面。
 そもそもオートバイで飛行機を追っかけて、空中で飛び乗るなんて、そんな無茶な!
 ここでも筆者は気が散ったのである。
 何故なら、スタントマンなしでトム・クルーズさんが、命知らずの空中・小型飛行機上でのチャンバラはやれるとしても、それをあんなに接近撮影しているカメラは、ヘリコプターにでも乗っているのか?
 そこがわからん。
 また、飛行機からパラシュートで(それも途中で炎上するのだ)谷底に落ちてゆく場面を、ついこの間のニュースでは、16回も撮影しなおして、やっと撮れたのだが、この回数はギネスブックに採用されたのだそうだ。
 ホント、俳優もスタッフも、みんな命知らずである。
 まあ、今回の最後の小型機2機での大アクションは必見である。
 自分でやったと涼しい顔のトムさん。何でこんなに頑張るんだろう。
 制作者に名前を連ねているトム・クルーズさんとしては、自分が限界まで演じてでも、絶対にこの映画がヒットしてくれなくては困るのだ。
 俳優業も大変だ。アカデミー名誉賞をもらえるから、報われたと言えるが。
 監督はクリストファー・マッカリー氏。
 今回は大自然の中がほとんどで、美しい大都会などは登場しない。
 ちょっと文句を言うとすれば、最近の映画は、「これでもか、これでもか」とアクション場面が多すぎて、感興が削がれる気がする(2025.6.20)。
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