「眉にツバをつけながら見始めた『ちむどんどん』(NHK総合)が、どうなることやら」

 白状すると、私は沖縄が苦手である。
沖縄と言うよりは南方系にアレルギーがある。
 NHKの朝ドラでも、20年以上前の64作目、『ちゅらさん』とか、87作目の『純と愛』は、途中で何度視聴を断念しようと思ったかしれない。
 批評を書いている身としては、見ないわけにいかず、その期間、拷問だった。
 特に2001年の前期に放送された『ちゅらさん』は、世間的には大人気で、平均視聴率22,2%、最高視聴率29,3%だった大ヒット作にもかかわらず、私は視聴するのに苦労した。
 その理由は単純である。
 岡田惠和さんのほのぼの脚本もよくできていたらしいが、何しろ私は方言に弱い。
 小さい時からわが家では東京弁だったので、沖縄言葉の独特のイントネーションが聞きにくかったのである。
 特に、ナレーションも兼務した「おばぁ」こと主人公・恵里の祖母に扮した地元の女優の平良とみさんのネイティブ沖縄語が苦手だった。
 「・・・ナニナニさあ」という「さあ」がゾクゾクっとした。
 やたらに耳が敏感な私が神経質すぎるのである。
 『純と愛』はドラマそのものが出来損ないでつまらなかった。箸にも棒にもかからない最悪の欠陥テレビ小説だった。
 今回、沖縄が舞台というので、「またか!」と敬遠したかったのである。
 唯一の救いは、主演の黒島結菜さんがいい女優で、そのお母さん役が仲間由紀恵さんときては、出演者に不満はない。恐る恐る見始めた。
 特に、黒島結菜さんを私は以前、大いに評価したドラマがあった。
 2020年にテレビ東京系で8回放送された『らーめん才遊記』である。これは有名なマンガらしいが、私はマンガや劇画を読まないので、純粋に連続テレビドラマとして見た。
 古家和尚・脚本が面白く、主演の鈴木京香さんと黒島結菜さんがいずれも良かった。
 この時以来、黒島さんは私の中で注目の若手女優の1人である。美人だけではない、清々しいが芯にキツイものももった女優だと思う。 
 彼女は沖縄出身で、日大芸術学部にも通っていたらしい(中退)。
 「私、綺麗でしょ」と大向こうに媚びる土屋太鳳さんのような物欲しげなところがないからいい。
 『ちむどんどん』は1972年の沖縄返還直前の物語である。だから、物語の登場人物たちはドル紙幣を使っている。
 人間を長くやっている私は、この時代には記憶の鮮明な数々の思い出がある。
 日本を飛び越してアメリカのニクソン大統領が中国へ飛んだ。時の総理大臣は佐藤栄作さんから田中角栄さんで、外務大臣は大平正芳さんだった。大平さんは1960年代の池田内閣時代にも外務大臣をやっていたが、1972年の田中内閣時代にも、また外相だった。
 彼は私が結婚した時の仲人である。お顔は(?)だったが、優しい政治家らしくない知的なクリスチャンだった。何で政治家なんかになったのだろう。
 新婚旅行から戻った時、お礼のご挨拶に官邸に出向いたら、大平さんは外務大臣の専用車に乗せてくださった。後ろの席で、彼は「いいなあいいなあ」と言われた。私も夫も親が教育者で、およそ政治の世界とは無縁だったことを「いいなあ」とおっしゃったのである。
  彼は官僚になどならず、学者になればよかったと思っていたのか。そうすれば、ストレスで、現役の総理大臣のまま亡くなったりはしなかっただろう。亡くなられた時、私たち夫婦は大平邸と自宅を何度往復したことか。当時、自分が着ていた粗末な喪服姿もはっきりと思い出せる。
 さて、それは置いといて。
 沖縄のサトウキビ農家だった比嘉家の主、比嘉賢三(大森南朋)と優子(仲間由紀恵)には4人の子供がいた。長男でブラブラしている賢秀(竜星涼)、長女・良子(川口春奈)、次女・暢子(黒島結菜)、3女・歌子(上白石萌歌)。やんばる地区に住んでいる。
 優しい父親の賢三は突然倒れて他界する。
 残された家族は当然、経済的に極貧になるが、母の優子は1日中働いて、何とか家計を支えようとする。でも、夫が残した借金もあり、風前の灯火である。
 優子は男がやるような力仕事まで引き受けて日銭を稼ぐが、それにしては彼女、いつも綺麗な身なりをしていて、とても労働者には見えない。顔にやつれも見えない美しいままだ。天下の美人女優の仲間さんにスタッフが遠慮しているのか?
 プー太郎の長男、賢秀は詐欺師にまんまと大金を騙し取られ、沖縄を逃げ出そうとバスに乗る。
 長女の良子は自分で前借して金を作り、次女の暢子は東京へ行って料理人になりたい望みをあきらめ、歌の才能がある3女の歌子は音楽の先生(片桐はいり)にハッパをかけられ、それぞれの夢の半ばで挫折しそうな現状である。
 ところが、(5月12日現在)やってきた叔父夫婦に優子が、「暢子を東京に行かせてやってください」と懇願している時、突然現れた賢秀の知人が、「賢秀がボクシングで勝って、大金を稼いだ」と日本円の札束を持って現れる。
 私は口をあんぐり!
 「そんな馬鹿なあ」である。
 東京はそんな甘い所じゃねぇーぞ(笑)。これ、誰の脚本だ? 羽原大介さんの脚本だ。
 喧嘩っ早くて、定職につかず、昔、ちょっとボクシングをやってたぐらいで、お上りさんがいきなり勝って大金をせしめるなど、虫が良すぎる。視聴者を舐めている。
 具志堅さん初め、沖縄出身のチャンピオンが沢山いるからといって、真面目に働きもせずブラブラしていて詐欺師に騙された男の子が一獲千金を得られる、と錯覚する人が出てきたらどうするのだ。
 もっと真面目に書け。
 3姉妹の描写には見所が多いのだから、現在に近い時代の描き方には細心の注意を払ってほしい。
 暢子が上京して、また、周囲の人々にチヤホヤされるのだけはごめんである。
 黒島結菜さんの芯のキツさを生かして辛口に期待する。(2022.5.12.)
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