「故・英国女王の国葬を拝見して、余計なことばかり考えた」

 1975年、エリザベス女王が日本を公式訪問された時、私はまだ幼児だった息子を連れてパレードを見に行った。
 迎賓館赤坂離宮近くの歩道で待っていたら、エリザベスさんと夫君のフィリップ殿下が、オープンカーにお立ちになったまま、ニコニコと手を振って通られた。
 ほんの一瞬間であったが、この目で生エリザベスを目撃した。知的なお顔の方だなあと思った。世間が騒ぐと同調したくなくなる臍曲がりの私にしては、珍しく見物客になった。
 そのわけは、わが身内にエリザベスさんと同い年の女性がいたからである。
 何となくシンパシーを感じていた。
 後にも先にも王族見物に出かけたのはこれ1度限りで、ウイリアム皇太子やヘンリー王子の結婚式のテレビ中継も一切見なかった。キンキラキンが好きではないのである。
 そんな臍曲がりが、今回の女王様の国葬を完全視聴したのは何故か。
 NHKのBS1で見た。長くて疲れたが。
 まず第1には、自分が高齢になって、何時この世におさらばするかわからない心境にいることが関係している。それと、エリザベスさんが、そもそも女王になられたのは、おじさまであったエドワード8世が、退位なさり、弟のジョージ6世(エリザベスさんの父君)が即位されたから。人間の運命とはひょんなことから方向転換する。
 エドワード8世と離婚歴のあるシンプソン夫人の恋は世界中を駆け巡った話題で、私の母から何時も聞かされていた。「王冠を賭けた恋」で「王冠を捨てた」のがエドワード8世。
 その所為で姪であったエリザベスさんが女王様になってしまった。1953年、戴冠式。
 以後70年の女王業。
 人間の運命とは不思議なものである。
 タイトルにある「余計なことばかり考えた」の「余計なこと」の1つは。
 荘厳な女王様の国葬の時に、「何という不謹慎!」と叱られそうだが、言ってしまう。
 2000人もの会葬客のほとんどが、映像で見る限り、白髪頭が多かった。つまり、ご高齢のVIPが多かったことだ。その方たちが、初秋とはいえ、石造りで底冷えのする大聖堂の中で、長時間座ったり立ったり。お手洗いの欲求に困りはしなかったのだろうか。
 見ていて、途中で退所する方は見えなかったから、皆様、水分を取らずにそれなりの準備で臨まれたのだろう。いやあ、高齢の方でお困りになった人はいたと思う。
 お葬式の後で、延々とウエストミンスター寺院から柩が運ばれるときも、柩に従って歩くチャールズ新国王らは、国葬開始時点から、ズーっとカメラに追いかけられていたから、席を外す隙間はなかったように見えた。
 チャールズさんもカミラさんも、本当に我慢強い方たちである。
 お母様が亡くなられたのであるから当然だが、新国王の表情はとても悲しげだった。
 一方、凛々しい軍服姿のアン王女は、まるで男装の麗人。疲れたお顔ではあったが、姿勢がよくて、お兄様国王よりも力強く見えた。
 そういえば、チャールズさんは文科系の方で、カミラさんとの不倫にしても、ダイアナさんの様な美人よりも知的な会話が出来るインテリに惹かれたのではなかろうか。
 母のエリザベス女王に、小さい時、1度も抱きしめられたことがないと、かつて告白なさったという新国王の胸中は、国葬時の悲し気な表情から読み取れるといったら言い過ぎか。
 お手洗いに関しては、私は小さな少年たちの聖歌隊にも注目していたが、席を外す坊やは見なかった。みんなよほど訓練されているのだ。
 以前誰かに聞いた話である。聖職者の方々は、年がら年中、冷たい石造りの教会の中で仕事をしているので、それなりの訓練が出来ていて、尿意は相当我慢できるのだそうだ。
 聖職者のことが出てきたついでといっては申し訳ないが、説教なさったカンタベリー大主教は物凄いインテリというお顔をなさっていて、さすがと思った。また、ホイル首席司祭らもみんな立派なお顔立ちと雰囲気である。大英帝国国教会の面目躍如!
 しかし、である。上背のある柩を担ぐ赤い軍服の衛兵も、砲車の綱を引く海軍の水兵スタイルの青年たちも、誇り高き選良なのだろうが、王家の従者として満足なのか。
 全く同じ制服を着せられて、歩幅も揃えてイチ二、イチ二と、操り人形の様な訓練ぶりである。チャ-ルズ1世の死後処刑を除いて、フランスの様な政治的ギロチンはなかった英国でも、今時の、この凄い大散財と権力誇示。これでは革命も起きるわなと冗談を言いたくなったのである。
 高い所で聖書を朗読したトラス首相を、オーストラリアのTV解説者が「あれ、誰?」と聞いて顰蹙を買ったそうだ。私も最初は声優か何かかと勘違いした。この前、トラス氏が勝った時にニュースを見ていたのだが、「なんか、軽いなあ」と感じた。こんなお若い方が元大英帝国のトップになる。どこかの国も同じだが、近頃の政治家は小粒だね。
 柩を乗せた、まるで平安時代の牛車(ギッシャ)みたいな大車輪の砲台が珍しかった。
 余計なことの2は、ジェンダーばやりで、NHKもご多分に漏れず、カメラ中継で出てくる特派員が、めったやたらと女まみれ。
 今だか前だか元だか忘れたが、ロンドンの支局長がオバサン。
 シドニーのオペラハウスの前から報告した人もオバサン。
 国葬と同じ日に台風の中継をした人の中にも何人かの女性。
 別に男じゃなければと差別しているのではないが、近頃のメディアは時の流行に左右され過ぎである。ヘルメットを被っての嵐中継は男記者にしてもらいたい。
 さて、紙幅がつきる。
 エリザベスさんは幸せな生涯を送られた。愛する人の妻になって、4人も子をなして、女王としても高く評価されて、誰にも裏切られず、いっぱいの男の子に恵まれて、高齢になっても自分で歩けて、いつも楽しそうだった。
 41億人に追悼されて国葬で送られて、今世紀最大の恵まれた君主だった。
 そんな女王様にも家族のゴタゴタがある。人間社会はどうしようもない。
 われわれ庶民の家族においておや、だ。(2022.9.20)
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