「94年の歴史に幕を閉じる≪としまえん≫の8月31日にある種の感慨がある」

 朝のNHK総合テレビ「おはよう日本」で、本日幕を閉じる≪としまえん≫の前から中継していた。わが家は以前住んでいた練馬区のマンションでも、今住んでいる別の区のマンションでも、≪としまえん≫へは30分以内で行けるご近所さんである。
 その割に回数は多く行っていないが。
 今はもっぱら、≪としまえん≫の真ん前にある「ユナイテッド・シネマ・としまえん」のシネマコンプレックス常連である。上映館が10近くあるので大抵の新作はそこで見られる。都心の猥雑な映画館に行かなくて済むので、コロナ時代には大助かりである。
 約50年近く前、今、40代後半の息子が赤ちゃんだった頃、よく≪としまえん≫に行っていた。当時、真夏の土曜日曜の夕方、園で花火を打ち上げていたのを見るためだった。
 入場券が高いので、西武池袋線豊島園駅の前で、人々が群がって花火を見ていたのだが、わが家も彼らに混じって入園しないで花火見物だった。
 ところが、良かれと思って息子を連れて行ったのだが、彼は夫の腕の中で身体を固くしてしがみついている。顔は半べそで、そのうちに泣き出したのである。
 「ほら、綺麗でしょ、花火見てごらんなさい」
 私はただ子供の泣きべその理由が夜の街に慣れないからかと思っていたのだが、違っていた。打ち上げ花火が「ドドーン」と鳴る度に、彼は顔を親の肩に伏せて泣く。どうやら音に怯えているのだった。美しい花火を見上げるどころか、音が恐怖なのだ。後年、音楽家になっただけあって、彼は赤ちゃんの時から異常に音に敏感だった。
 私たちは≪としまえん≫の花火見物を毎回行くのは止めたのだった。経費と入場券が見合わないためなのか、≪としまえん≫の花火打ち上げもいつの間にかあまり宣伝しなくなった。恐らく入場者も減ったに違いない。何しろ、西武系の諸施設はがめつくてケチ臭いからリピーターが少ない。儲けることばかり考えて、客の方を向いていない会社である。
 息子が4・5歳の頃、また連れて行った時、ある施設の前で彼が大声で叫んだ。
 「ママ―、あの人、焦げてる!」
 見ると、土人の人形が長い棒を持って入口の脇に立っていた。息子はまだ1度も本物の黒人を見たことがなかったのだ。今なら駅前で黒人で日本語ペラペラの青年が母国の料理を作って売っているし、テレビでも黒人は当たり前。随分と時代は変わったのだ。大坂なおみちゃんだって、今なら日本人はテレビにしがみついて見る。
 ≪としまえん≫の中で人気の高い回転木馬の「エル・ドラド」は何度も乗った。如何にもヨーロッパのセンスの色合いで、ゆったり回るのもよかった。
 パリの街中では、移動式の回転木馬があちこちに出没する。何台も見かけることがあり、特にトロカデロ広場のあたりでよく見た。
 あの雰囲気のあるエル・ドラドは解体されるそうで勿体ないことだ。
 どこかでまた組み立ててくれないかしら。
 ≪としまえん≫の前の駐車場の横に、アメリカの玩具メーカー、トイザラスがあった。今はないようだが、孫が幼稚園の頃、預かって連れて行ったが、彼にはウケなかった。やはり、日本人にはデパートの玩具売り場の方が性分に合うらしい。≪としまえん≫側も、でっかい遊園地が他に出来てから、試行錯誤して色々試したのであろう。
 ≪としまえん≫遊園地がなくなったら、駅名は豊島園駅でなくなるのか。
 あるいは、ハリー・ポッター遊園地になったとすれば、ハリー・ポッター駅?(笑)
 まさか。
 ユナイテッド・シネマ・ハリー・ポッター?
 まさか。
 ≪としまえん≫のない豊島園駅も間が抜けるしなあ。どうするの? 堤さん。
 ついに本日の撤退とは淋しいが、一定の使命は果たした。
 ご苦労さま、さようなら。
 さて、この月末にはもう1つの大きな出来事、総理退陣があった。私は安倍さんのおじいさま、岸信介さんが大嫌いだったので、安倍晋三さんの退陣は歓迎する。
 60年安保闘争で、岸信介さんはゲジゲジのように嫌われた。岸さんも反対デモでボロクソに言われてもなかなか辞めなかった。遺伝かな、恋々とするのは。
 晋三さんの退陣は遅きに失した。
 ご病気ならばなおさら、もっと早く身を引くべきだった。
 例によって、後釜の選出にスッタモンダしている。醜い権力争いである。ジャーナリストの青木理さんが、「政治の恐るべき貧困」と切り捨てたが、私も同感である。ましてや、あの東北弁の貧相な官房長官が後釜の最有力と聞くと、全身から脱力してしまう。
 政治家だって世界に通用するためには、ある程度見栄えもカッコよくなくてはならない。
 フランスの大統領・マクロンさんの垢ぬけぶりを見よ。
 民意を反映しない永田町内での権力盥回しの始まりである。選挙民が次第に棄権するようになったのは、こうした永田町方式に飽き飽きしていて、「どうせ」と絶望しているからである。政治不信になるわけだ。
 モリ・カケもサクラも、近畿財務局職員の自殺者まで出した官僚の公文書改竄や隠蔽も、ぜーんぶ放り投げて退陣して、涼しい顔とは、安倍さん、良心がうずかないのか。
 それとも、この方は本心から、自分は優れたトップとして万事うまくやったと自画自賛しているのだろうか。退陣会見では、心残りは拉致問題の未解決だといったが、彼は何もしなかった。小泉さんは少なくとも自分で北朝鮮に乗り込んで、金正日と会ってきた。
 日本人は病気の人を批判しない。でも、これはおかしい。権力者が辞めた時、正当な評価はするべきだが、病気であろうかなかろうが、仕事の内容についての負の部分はきちんと批判するべきである。少なくとも私は、愚鈍だった安倍さんの約8年について、褒めそやすことは全くできない。(2020.8.31)
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