「お上が旗を振っている健康診断というものを受けてみた」

   私は歳の割に病気がちではなく、持病もない。
 強いて言えば、20代の頃に山陰のわんこそばを、けしかけられて噛まずに食べ、急性膵臓炎になって以来、慢性に移行した膵炎のために、未だにアミラーゼの値が高いことと、神経をピリピリさせている物書きの習性で、血圧が高いことぐらいが問題と言えば問題だ。
  それでも、東京医科大学病院の教授の患者として、長年、定期的に血液と尿検査をしていただいてきた。
 そのプロフェッサーが数年前に定年になられたので、彼のお知り合いが副院長をなさっているX病院にご紹介いただいて、以来、X病院で2カ月に1度、循環器科の先生に検査、診断をお願いしているのである。
  今回、私の居住しているA区から、区民検診の案内が来た。
  循環器科の先生に定期的に診ていただいているのに、何で健康診断?と思い、毎年ほっぽってあったが、このコロナ禍、ワクチンもパスしている私は、いささか不安になって、今年は受診することにしたのだ。循環器科にかかっているX病院もリストに入っている。
  1か月以上前に電話で聞くと、混んでいるので12月の下旬にしか予約が取れませんとか。
  予約をお願いして暫くして、当病院から親展のでかい封書が届いた。
  いろいろ入っていて、1つは受診の1週間前から毎朝検温すること。と同時に、その日の状態、例えば、風邪をひいていませんか、だの、吐き気はありませんか、だの、〇週間以内に外国に行きませんでしたか、だのと、質問に答えねばならない。
  健康体の私はすべてが「いいえ」である。
  毎朝の検温というのは案外面倒臭い。私は朝食後の血圧測定はもう習慣になっているが、検温はつい忘れる。朝から私は忙しいからである。大体テレビモニターをせねばならない。
  気が散る。
  いよいよ当日が来た。
  朝食どころか、前日の午後10時から絶食の上に、朝一番のお小水を取らねばならない。 
  午前5時半までベッドで我慢して、トイレに直行。添付されていた薄いポリ製のコップにわが分泌物(笑)を取ってから、小さな試験官みたいな容器に移す。完封して持参。
  当日午前9時半に病院に着くと、入口でまた検温される。6.3度の平熱である。
  予防医学センターという名前のフロアに行き手続きをする。
  最初は内科医の診断だ。珍しく若い美人(らしい。マスクで目しか見えないので、らしい)女医が聴診器を当ててくれた。私はヘラズ口を叩く。
  「近頃のお医者さんはPC画面の数字ばかり見て、患者の方を診ない。聴診器も大体持ってない。もってのほかだ。わあ珍しい先生だこと。これこそ人間と人間ですね」と私。
  女医さんはニコニコ(らしい)して、背中までしっかり聴診器を当ててくださった。
  次は血液採取、若い女性だが、注射が上手くてすぐに終わった。
  身長、体重を計り、心電図を測定する。中年の女性が、ベッドに横たわって足首や胸などを出そうとしている私を睥睨するように上から見ている。無神経な人である。
  「向こうを向いてていただけませんか」と言うと、彼女は慌ててくるりと首を回した。こういう時、高齢者は傷つく。高齢者には羞恥心がないとでも思っているのか。何歳になっても女は女である。カルテを見て幼児語で語り掛ける医者には、私は「です、ます調で話せ」と言ってやる。まだ現役で物書きをやっている私を見ろと言いたい。
  階を移動して胸のレントゲン写真の撮影である。
  たった1枚だけ撮るレントゲンなのに、下着の金具が映るとダメなので、撮影用のウエアに着替えさせられる。終わるとまた元の予防医学センターに取って返し、費用の500円を支払って終了となった。
  それにしても来ている受診者のほとんどが杖をついている。私は以前別のことで脚のレントゲンを撮った時に、「20代の骨だ」と外科医に言われたぐらい骨が丈夫らしい。
  だから、歩行困難はどういうことかよくわからないし、杖など全く必要でない。
  亡姉は今の私の年には杖を持っていたから、遺伝とも言えない。わが家の食事がいいのか、あるいは、32段もある玄関前の階段の上り下りが役に立っているのか。いずれにしても、どんなに高齢になっても杖だけは願い下げである。これからも自己責任で脚は鍛えたい。
  さて、コロナについても一言。
  私はまだワクチンを打っていない。
  健診の時にもワクチンについての質問があり、「打っていない」と答えたので、何か文句を言われるかと戦々恐々としていたが、何も言われなかった。
  不思議で仕方がないのは、1,200万人以上もいる東京都民の中の新規30人ぐらいで、なんでワクチン接種を強制されるのかということだ。
  マイナンバーカードと連動して、スマホアプリがどうのこうのと言い始めている。そのうち、接種証明のない人間は「非国民」と言われるかもしれない。第2次大戦中を思い出す嫌な時代である。
  極限までマスクや手袋をつけ、外出を制限し、人混みに近寄らず自衛し他衛(?)し、従順な市民をやっている身、過敏症の人間がワクチンの副反応で殺されないように頑張っているのだ。自分の身体は自分で守ってどこが悪い。
  フランス人は強制に反発してデモをやっている。
  私もフランス人になりたい。
  日本人はお上に従順で、大政翼賛会志向に流れやすい。
  X病院の循環器科の担当医も「早く受けてください」と言う。
  あなたねえ、副反応でおかしくなったら責任取ってくれるんですか。
  日々、こんな不毛な議論ばかりする時代が早く終わってくれないか。
  伝染力の強そうなオミクロン株は怖いけれど。
  でも、私はまだワクチンは打たない。(2021.12.21)
                                          (無断転載禁止)