「2023年プロ野球開幕と桜ぎらい」

 2023年、3月30日に日本のプロ野球、パ・リーグが開幕した。
 午後6時30分からの日本ハムファイターズ対楽天イーグルスの試合である。この日は甲子園でのセンバツ高校野球が休養日なので、野球好きは喜んで、この試合中継を見るだろう。
 夕方の放送より、まだ早い時間なので、まず、『桜ぎらい』について話したい。
 大向こうから袋叩きに遭いそうだが、私は桜の花が苦手である。
 「花見」「花見」と世間が大騒ぎし始めると、憂鬱になる。
 花見なんかくそ食らえである。
 そうでなくても毎年、「木の芽時」と呼ばれるこの時期になると、私は体の具合が悪くなる。体調が悪くなるといっても、寝込むほどではないが、気分が晴れない。
 私は湿気に弱いので、菜たね梅雨のこの時期には、カラッと乾燥した真冬や真夏に比べて、もやもやと気分が悪くなるのである。
 低気圧が接近して来る時、自分の身体が予兆を発信するので、天気予報を見なくても雨が近いと感じてしまう。
 こういう状態の時に、世間はお花見で大騒ぎである。
 別に、人様の大騒ぎはどうぞ、お好きなように騒いでください、であるが、一億総お花見に付き合わされるのだけはごめんである。
 まず、奈良漬け一切れで酔っぱらっていた超下戸の夫と、長年一緒にいたので、花見の宴会がノーサンキューである。
 仲間と大勢で飲み食いというスタイルが自分に合わない。
 近くにJRの駅まで続く、大大大の桜並木通りがあるので、わざわざ花見に行く意義がないし、それより何より、わが家のリビングの、大きなガラス窓越しに、素晴らしい桜の大木があり、朝から晩まで連日花見をやれる環境なので、出かける意味がないのだ。
 リビングの外側はバス通りで、車は結構通るが、空気が悪くなるほどの通行量ではない。
 トイメンの歩道に沿って、桜の大木が2本あり、今まさに満開である。
 しかも、桜に並んで、濃いピンク色の桃の花と、姿の美しいアイボリーホワイトのハクモクレン(白木蓮)の木が1本ずつ花をつけている。
 とても美しい。
 朝から晩まででも、ぬくぬくしたソファの上から眺められるのである。
 皇居でも千鳥ヶ淵でも井の頭公園でも、お好きなように花見にお出かけください、わたしゃ、リビングから眺めていますの心境なのだ。
 もう1つ『桜ぎらい』の理由は、若い人にはわからないこと。
 「桜はいさぎよく散る」ので、大昔、霞ケ浦の予科練(海軍飛行予科練習生)の歌に詠まれた。
 『若い血潮の予科練の
  七つボタンは桜に錨
  今日も飛ぶ飛ぶ霞ケ浦にゃ
  でっかい希望の雲が湧く
  ・・・・・・後略・・・・・・』
 タイトルは『若鷲の歌』で、西条八十作詞、古関裕而作曲、歌うのは戦前の大スター・霧島昇さんであった。NHK朝ドラ『エール』にも描かれた時代である。
 短調のこの歌はたちまち大ヒットし、あまねく大人から子供まで『さくらにいかり』のくだりを愛唱したのである。
 私が「いさぎよく、散る」桜がきらいな所以である。若者の命を何と思っているのだ!
 さて、6時30分からパ・リーグの開幕を見る。
 北海道日本ハムファイターズ対東北楽天イーグルスの試合。
 中継は世界1といわれる新球場のエスコンフィールド北海道からである。
 物凄いものを作ったものだ。
 ホテルもくっついていて、広々としたツインのベッドがある部屋から、球場のグラウンドが一望できる。私はいつか西武対日ハムの対戦の時に、ここに泊りに行きたい。
 オープンのこの日も中継したが、どこかのお金持ちがお犬様を2匹連れてきていて、お犬様は野球に関心がないので、人間の後ろのぬくぬくした犬用ベッドで眠っている。
 天井も開閉式、芝生も人工芝でない天然芝、4階までありそうな客席、一体どこのお金持ちたちが作ったのか。新庄監督が裸足で逃げそうな豪華さである。
 さて、その日ハム対楽天の始球式が面白かった。
 かつての日ハムの監督が3人出てきた。
 ヒルマンさん。梨田昌孝さん。栗山英樹さん。
 WBCで世界1になって、凱旋したばかりの栗山さんが出てきた時には、球場全体がワーッと沸いた。ビッグボスの新庄さんも裸足で逃げる(笑)。
 最初は栗山さんがバットを持っていたので、ヒルマンさんがピッチャーで、梨田さんがキャッチャー、栗山さんがバッターの約束だったらしい。
 ところが、3人でごにょごにょやっていたと思ったら、ヒルマンさんがキャッチャーになり、梨田さんがバッターで、栗山さんがピッチャーになったのである。
 栗山さんが投げた球は、大きな弧を描いて横にずれたが、ヒルマンさんは何とか取った。
 裏話が伝えられた。
 栗山さんはWBCで世界の顔になったので、1番目立つピッチャーをさせようとヒルマンさんが提案し、それは栗山さんには内緒にしておいたのである。
 だから、突然ピッチャーを振られた栗山さんも、球を投げる練習もしていない。
 粋な計らいは3人のニコニコ顔で終わったが、それ以上にWBC世界1の余韻は、開幕を迎えた日本のプロ野球界に、客席超満員という福音をもたらしたのである。ファンとしては「良きかな、良きかな」である。(2023.3.30.)
                                              (無断転載禁止)