「『ブギウギ』の放送1カ月、趣里ちゃんは可愛いが、戦前戦後はちゃんと描いてほしい」

 歳がバレるが、筆者はこの時代を知っているので、『エール』の時もそうであったが、時代考証が頓珍漢でないのかとハラハラする。
 主人公の花田鈴子、芸名・福来スズ子(趣里)より、少し下の年齢に、年の離れた長姉がいたので気が気でない。NHKには膨大なアーカイブ映像があるにもかかわらず、体験者がいないということは情けなくて、過去のドラマでは、時々、酷い映像が出たこともあった。
 まあ、いきなりの苦言はやめよう。
 1つだけ気に入らないのは、タイトルバックの人形が気持ち悪い。
 首が長―いギョロメのあの人形である。夕方の番組か何かで、あの人形を作りだした顛末を放送していたが、東欧の人形劇団の真似をしたのか、国籍不明の首の長さが不気味である。
 せめてもう少し美的な人形にしてもらいたかった。これネット発言よりずっと以前に筆者は言っている。サイケなイラストは面白いのに、肝心の人形が正視するに堪えず。
 「おーい、タイトルバックの人形、代えろ!」
 さて、笠置シズ子さんは美人でもなく、品もなく、ただやたらに大口を開けて歌う迫力だけでスターになった歌手というのがわが家の評価だった。
 「とうきょうブギウギ・りずむウキウキ・わくわく」の『東京ブギウギ』が大ヒットして、関東でも有名になった。
 わが家では赤坂育ちの母が気位の高い人で、子供が流行歌(歌謡曲)を歌うことに顔をしかめたので、筆者は格別無関心を装っていた。
 従って、戦後、天才少女として売り出していた美空ひばりさんも含めて、筆者はラジオなどで聴きたいのに、母が禁止するので、この世界の音楽には浸れなかった。
 今は幼児でも平気で『はやり歌』を歌う、いい時代になったものだ。
 趣里さんはオーディションを何回も受けてやっと射止めたとニュースに出ていたが、かの紅茶紳士・『相棒』の杉下右京さん(水谷豊)と伊藤蘭さんのお嬢様なのに、贔屓をしなかったNHKはあっぱれである。
 選んでみたら、趣里ちゃんは30歳を越えているのに、童顔だから、少女期でも違和感がなく、今のところ大成功だったと言える。歌もまあまあだし、ピチピチ感がいい。
 しかも、脚本のセリフが結構辛口で、庶民の最たるもの、銭湯の看板娘らしく、不平不満も口にする。
 『朝ドラ』の定番であるところの美人で気立てが良くて、万人に好かれるという、ありえない最大公約数人間に描かれていないので、血が通っていて、よろしい。
 脚本は足立紳さん、櫻井剛さん。
 梅丸少女歌劇団USKの先輩スター、大和礼子(蒼井優)がストライキで責任を取って辞めるまでは、ラインダンスの練習や、男役スターの橘アオイ(翼和希)にしごかれるシーンや、レビューの舞台裏のエピソードが面白かったが、弟と2人で香川県のおばあちゃんを訪ねてからは、俄然、物語がシリアスになった。
 銭湯の女房である鈴子の母・ツヤ(水川あさみ)の実家は香川県にあり、そこで鈴子は意外な出生の秘密を知る。
 ツヤは鈴子の実母ではなく、大地主の跡取り息子・治郎丸菊三郎が、女中の西野キヌ(中越典子)に産ませたのを、ツヤが引き取って娘として育てたのだとわかる。
 キヌは現在、農家に嫁ぎ、子供もいる。
 キヌ役の中越典子さんは朝ドラの先輩だが、丸顔の趣里ちゃんとどこか似ていて、子役もそうであったが、この3代はいい役者を選んだと思う。しかし、農家の嫁にしては垢抜けすぎであるが。その反面、育ての父の梅吉(柳葉敏郎)さんは泥臭すぎ。
 物語は進んで、昭和12年、戦争の足音が迫ってくるころ、スズ子はラジオで茨田りつ子(菊地凛子)の『別れのブルース』を聴く。かの淡谷のり子さんがモデルだ。
 淡谷さんは独特の裏声でうたうソプラノ歌手で、正統派の修業をして流行歌手になった人である。
 筆者の上の兄は国家公務員の船舶検査官であったが、素晴らしい喉をしていて、NHKの放送でバックコーラスのアマチュア・バス歌手でもあった。
 検査官だから日本全国に転勤があり、広島に赴任していた時、NHK広島放送局で、ちょうど、淡谷のり子さんらが出る音楽番組の後ろのコーラスに出ていた。
 兄がその時の形態模写で話してくれたのは、淡谷さんは、衣装がオッパイから下だけ、つまり、肩を丸出しにしたドレッシーなステージ衣装を着ていらしたそうである。
 「こうやってね、むっちり太った肩丸出しの格好で、両腕を胸の前で組んで歌うんだよ」と抱腹絶倒の淡谷さんのモノマネをしてくれたのである。
 確かに、淡谷のり子さんはオッパイから下しかないイブニングドレス風のステージ衣装をテレビでもよく着ていた。
 物凄く頭が良くて、話好きでめっぽう面白かった長兄も、今はいない。
 このドラマは花田鈴子が上京して、かの天才作曲家の服部良一と会ってからは、もっと面白くなるだろう。
  何故なら、『東京ブギウギ』から始まって、『蘇州夜曲』、『青い山脈』などなど、戦後の歌謡界に、特別印象的な名曲を残した服部良一さんが、草彅剛さんという個性に憑依して登場するからである。
 実物の服部良一さんは映像で見る限り、のん気な父さん風のおじさまであったが、筆者は『エール』の古関裕而さんと並ぶ天才作曲家であったと思っている。
 このドラマの劇伴をつけている服部隆之さんはお孫さんだが、主題曲の『ハッピー☆ブギ』もなかなか個性豊かであって才能は受け継がれている。
 パリ国立高等音楽院卒も頑張っているナ。
 来年春まで、毎日、楽しく見続けよう。
 「ブギウギ、わくわく」である。(2023.10.31.)。
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