「私にはちゃんと名前がある。私は番号で呼ばれたくない」

  戦後生まれの若い人たちには到底わからないだろうが、子供であったけれど、私は第2次大戦中には既に人間をやっていたので、国民に番号を付ける制度には大いに抵抗がある。
 平成27年10月に、簡易書留で『マイナンバー(個人番号)のお知らせ。個人番号カード交付申請のご案内』という封書が来た時には、実にいやぁな気がした。
 その時、突然、ナチス・ドイツのゲシュタポを思い出したのである。
 ゲシュタポに捕らえられた囚人たちは、みんな番号で呼ばれた。
 これ以上は気分が悪くなるから、書かない。
 私にはちゃんと名前がある。番号で呼ばれたくはないのである。
 戦時中の日本は今の北朝鮮と同じで、住民の間に相互監視システムが作られていた。「リンポ」といって、当時、父親の勤めの関係で住んでいた関西の大都会では、近所に「リンポ」組織があって、住民はすべからくその組織の一員にならねばならなかった。
 見かけは優しい互助組織に見えて、実は戦争反対などの、時のお上の意向に沿わない危険思想の人間をチクリだす目的を持った制度であった。
 従順な両親は真面目に構成員を全うしていたが、ひそひそと制度にまつわる批判を述べていたので、子供心に私はある種の恐怖を覚えたのを記憶している。
 さて、マイナンバー制度では、今回の新型コロナウイルス騒動で、笑ってしまう現象が起きでいる。特別定額給付金や持続化給付金の手続きにおいて、マイナンバーカードを持っている人は、簡単に素早く申請手続きが出来ますよ、と言っていたくせに、何やら不具合があって上手くいかず、「なるべく郵便の特別定額給付金申請書で手続きしてください」だって。
 お笑い三度笠である。
 平成27年10月に来たマイナンバー通知書では次のように自慢げに書いてあった。
 『メリットいっぱい「個人番号カード」』 
 -マイナンバーを証明する書類として
 -本人確認の際の身分証明書として
 -様々なサービスがこれ一枚で
 -各種行政手続きのオンライン申請等に
 -各種民間のオンライン取引等に
 -コンビニなどで各種証明書の取得に
 etc.・・・・今回、そのオンラインが上手くいかずにドタバタして、白旗を上げているのではないのか?(笑)
 引っ越し魔でもあるまいに、普通の大人が、そんなに年がら年中各種手続き証明書を取りに行く必要などはないから、『メリットいっぱい』では全くないのである!
 また、『「セキュリティ」もしっかり「個人番号カード」』などと書いてあるが、そんなことを公言していいのか。
 世界中のハッカーに狙われている。
 ダダ洩れになってもしらないよ。
 国民総番号制の不愉快さの他に、近頃本心が垣間見えてきたのは、「ひも付け」である。
 要するに、マイナンバーカード保持者の銀行口座をお上が把握して、国民の預金口座の残高を調べて、首根っこを押さえようというわかりやすい目的である。
 脱税の見張りだろう。
 これもバカ丸出し制度で、わが家ごとき庶民でも、銀行口座は複数もっている。
 悪い奴らは頭がよくて、銀行口座にのうのうと預金なんかするはずがない。
 話は突然飛ぶが、以前、モナコやニースのカジノへ行って遊んだ時、目つきの鋭い中国人の一団が入ってきて、ディーラーたちと「やあやあ」と親しそうに笑いあっていた。年中、大金を持ってマネーロンダリングに来ているのだろうと物知りに聞いたのである。
 それにしても「ひも付け」とは品のない言い方である。
 昔から「ひも付き」とは「やくざのひも付き女」とか「ひも付きのゴロツキ」とか、いい意味では決して使われない言葉である。
 遅すぎて笑っちゃう給付金(10万円なんかまだ来てないよー我が家には。6月9日現在)を、「ひも付け」にして置いたらすぐ払い込めて便利だって?
 新型コロナウイルス・パンデミックが何度も起きるようなことは言わないでほしい。
 6月9日に高市早苗総務大臣が本音を露呈した。
 「個々の国民が持つ預貯金口座とのひも付け(連結)に関し、1人につき一つの口座のひも付けの義務化を先行させる検討に入った」と明らかにした。来年の通常国会に提出するそうだ。
 そーら、見たことか。
 要するに、そのうち個人資産などの全口座をお上が握り、税金滞納者や年金積立を滞納している庶民から、勝手にお上が天引きして取っちゃうことを狙っているのは明らかである。まるっきり庶民の意志など無視した戦前のように逆戻りする懸念がある。
 情けないことに国民の大多数は戦後生まれなので、軍部などの独裁国家の恐ろしさを、大学で現代史を専門にしている研究者たちだって肌感覚ではわかっていないのだ。戦前生まれも後期高齢者となり、知力体力が弱って抵抗感も枯渇しつつある。怖い。
 最終目標は全国民の全口座をひも付け。これを義務化したら、どうなるか。
 もう民主主義国家とは言えない。
 共産党独裁のどこかの国と似たり寄ったりに邁進すること請け合いだ。
 重ねて言うが、私には名前がある。
 番号では呼ばれたくない。
 マイナンバーカードなんかくそくらえ。
 愚鈍なお上に肌着の下まで見られてはたまらない。
 だけど、鈍い人たちには真意がわかってもらえないだろうなあ。     (2020.6.10)

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