「みずほ銀行はどうかしている。公の評価と私的体験」

 4月11日の毎日新聞夕刊に、みずほ銀行に関する目を剥くような大きな記事が掲載された。安藤大介さんという記者の方の署名原稿である。
 タイトルはメインが『みずほ 前例固執の末に』であり、その横には縦書きの見出し。『繰り返す障害「失敗学」の視点』とある。私は記事の内容をハハンと予想できた。
 もう1つの横書き見出しは『危機の本質「原発事故と共通」』である。
 私はまたここでハハンと思った。
 経済についてド素人の私でさえ、みずほ銀行が繰り返しているシステム障害の多さについては、異常を通り越して、ただの機械の故障ではない人間が絡む他の要因があるのではないかとさえ邪推したくなる回数であった。
 私は記事をむさぼり読んだ。
 畑村洋太郎さんという東京大学名誉教授の方のインタビューを安藤記者が纏めたものだ。
 畑村さんは政府による東京電力福島第1原発事故の事故調査・検証委員会委員長を務めた方で、いわば、事故調査のプロ。彼は繰り返されるみずほのシステム障害について「原発事故との共通点がある」と指摘しているのである。原発事故のディテールは略す。
 「みずほのトラブルには今の日本が抱える問題点が典型的に表れている」と畑村さん。
 みずほのトラブルとは、2021年2月、全国各地のATMが停止し、キャッシュカードや通帳が取り込まれて利用者が足止めされたことを皮切りに、外貨送金の遅れなどが11回も続いた事件である。11回とは多すぎる!
 「なぜ、みずほで10年に1度、大規模障害が繰り返されるのか。経営陣がシステムを軽視し、1番危ないものは何なのかということをきちんと考えてこなかったから」だという。
 『その原点は、みずほが発足した02年4月1日に発生したシステム障害にさかのぼる。経営統合した第一勧銀、富士、日本興業の旧3銀行のシステムは、それぞれ富士通、日本IBM、日立製作所が担っていた。それらをつなげただけの形でスタートしたみずほのシステムは、初日から障害を起こし、ATM停止や公共料金などの口座振り替えの遅延を招いた』
 これまで私も、この合併後の縄張り争いについては仄聞していたが、さらに、『みずほが新しいシステムを1からつくるのではなく、中略、それぞれが取引先であるシステム会社3社との関係を維持しようとして譲らなかったためだとされる』
 畑村さんは「三つを合わせたら何とかなるだろうと考えていた。非常に浅はかで、経営の失敗そのものです」という。「経営陣が『学校秀才』ばかりで、実務経験が不足しているのでしょう」とも。『「学校秀才」は事務処理能力が高く、知識も豊富だが、前例を破る柔軟な思考は苦手。そうした人材ばかりが登用される文化がみずほに根付いている』
 ここで、突然、私の体験に移る。
 昨年の1月、急逝した夫の遺産相続で、私は何回かみずほ銀行S支店に足を運んだ。
 夫は新聞記者と大学教授を務めている間に、何冊もの本を書いて出版していた。ソフトバンクの代表取締役社長・孫正義さんと交わした出版契約書は何通も残っている。
 ソフトバンク以外でも、別の会社に頼まれて書いた本も複数あり、その中に1冊、『アイアコッカ・ルネッサンス』(翻訳)もあった。これはグロビュー社から出したもので、某社の大ベストセラーとは違う。夫は当時、新聞社の現役記者だったので本名では書けず、O木礼というペンネームを使った。
 その後、印税その他の収入のために、彼はみずほ銀行にO木礼という口座も開いた。
 亡くなった後で、私はまず、夫が複数の口座を持っていたみずほ銀行S支店に相続人として電話をかけたのである。
 「O木礼というペンネームでの口座もありますが、ペンネームの身分証明書なんかありませんし、どうすればいいですか」と訊ねると、電話に出たお嬢さんは、「ペンネームでお書きになった本をお持ちくださればそれでいいです」とのことであった。
 翌日、私は夫が書いたO木礼という著者の本を2冊もって、みずほ銀行S支店に出向いたのである。夫の通帳ほか、私の相続人としての印鑑証明や夫の除籍謄本も持って行った。
 窓口のお嬢さんにカクカクシカジカと説明したら。
  何度か、窓口さんが奥に引っ込んでから、太目の女性の上司が出てきた。最初からエラソーな口調で、こちらを見下ろす感じの悪さである。
 やりとりは色々あったが、要するに太目の女性上司は受け付けないのである。
 「昨日、私はこういうことになると嫌なので、電話をかけて伺いましたら、夫がペンネームで書いた本を持参すればいいとおっしゃったのに、今日はダメっておかしいですね」
 太目の女上司曰く。「〇〇(夫の本名)さんとO木礼さんとが同一人物とは限りませんから、O木礼さんのお金は払えませんよ」だと!
  私はブチ切れた!
 「わざわざ電話で伺ったのに、何でダメなんですか、O木礼は間違いなく夫本人です!」
 太目女上司には何を言っても通じない。これで銀行マンか?と私は呆れた。
 如何にもバカにしたような態度で、聞く耳をもたずだから、私はついに奥の手を出した。
 「私は物書きで公式サイトも持っています。そこにこのやりとりを書きます」といって、スマホで彼女の写真を撮るふりをしたのだ。流石に相手は慌てた。
 奥に引っ込んでから相当待たされた。再度出てきた女上司がのたもうたのである。
 「支店長が、〇〇さんとO木礼さんとの筆跡が同じだから、いいだろうといってます」ですって。筆跡が同じだから認めるって、ペンネームの筆跡が残っていたからいいようなものだが、もしなかったら夫本人のお金を、みずほ銀行にぶったくられるところだった。
  夫は別のN支店にも本名で口座を持っていて、そのN支店が私線の拡幅のために閉店し、都心のT支店に併合されてしまったのである。お陰でこれまたうやむや状態のまま、1年経ってもすっきりしないのである。
  如何にメガバンクといえども、わが家のお金はわが家のもの。預けた主の方が、何でこんな不愉快な体験をしなければならないのだろうか疑問なのだ。(2022.4.20.)
                                          (無断転載禁止)